物語は肉まんで始まり、カレーまんへの野望を胸に幕を閉じる
コンビニを出ると、外は凍えそうな程、寒く感じた。
私は手をこすり合わせ、ハァッと白い息を吐きかける。
それは冬の光景。
私の好きな季節がやって来たサイン。
心が弾む。
寒いのは嫌いだけど、冬は好き。
毎年やってくる、小さくて、些細な矛盾。
家路へと急ごうとしたとき、ふと右手に持つ、コンビニ袋を見つめ、少しだけ考える。
そして、歩を家ではなく、近くのベンチへと進める。
日が沈み、家路へと急ぐ人たちを尻目に、ベンチへと腰を下ろし、コンビニ袋から肉まんを取り出す。
肉まんは温かいどころか、すこし熱いといってもいい程だったが、寒い中で熱いものを食べるからこそ良いのだと思う。
まぁ、個人的な意見なんだけれど。
「いただきます」
寒空の下、肉まんを頬張る。
柔らかく、適温よりはすこし熱い、生地が噛み切られ、ジュワッと肉汁が口の中に広がる。
熱さに一瞬、怯むがゆっくりと咀嚼。
ひと噛み。
ふた噛み。
三回目の咀嚼でほどよく温度が下がった事で、肉汁とともに流れ込んできた、旨みを熱さで麻痺していた舌が感じ取る。
それにより、言いようのない幸福感に私は包まれる。
真冬の寒さがより一層、温かい肉まんを食している事への幸福感を一段階上げてくれる。
社会のしがらみ。
面倒な人間関係。
迫る婚期。
止むことのない母親からのメール。
数時間後に控えた三十路への階段。
あらゆる焦り、面倒事からの解放されたような錯覚。
何とも言えぬ幸福感を口にするとすれば、その言葉は……
「ん~~、美味しい」
その言葉に尽きると思う。
頭であれこれ、考えつつも、二口目。
一口目とは違い、具の割合が多くなり、よりダイレクトに肉汁が口内へと侵攻してくる。
それと同時に言葉にできぬ旨みも同時進行してきた事で、私の口の中は混乱状態。
噛むたびに旨みが広がり、じんわりと体が温まる感覚。
これは冬だからこその醍醐味。
そして、二口目を飲み込む前に、三口、四口と食べ勧め、そして……
最後に欠片程になった、肉まんを胃へと収める。
熱いうちに食べようとしたせいで少しばかり、口の中がヒリヒリするが冷めてしまっては意味がないので、まぁ、仕方がないと思う。
余韻に浸りながら、温かい缶コーヒーを飲む。
「はぁ~~、幸せ~~」
言葉とともに吐き出された白い吐息は夜空へと消えていく。
温まった体で私は今度こそ、家路を辿ることに。
私は次はカレーまんを買おう、と静かに決意するのだった。
……ピザまんもアリか?
ピザまん派です。