0 噂のあの店
「ねえ、『A&A』って知ってる?」
噂好きの少女は、隣を並んで歩く友人に囁いた。
「アテイスタアジールでしょ?ローズアヴェニューの有名喫茶店」
友人が少女に顔を向けると、それに合わせて綺麗なプラチナブロンドの髪も揺れる。
「そうそう。わたし、その店の面白い噂聞いたんだけど……」
声を小さくしてその先を言わんとする少女の口に、銀髪の少女の人差し指が添えられる。
「秘密のメニューを注文したら、なんでも願いが叶う……でしょう?」
「えー!もう知ってたの?」
少女の大きい瞳が、驚きで更に大きく見開かれる。いつも落ち着いている友人を驚かせることが出来ると期待していたのに、あてが外れて少女はがっかりと肩を落とした。
絵に描いたように落ち込む様子に、友人は残念でしたとばかりに悪戯っぽく微笑む。
「だって私、その店に行ったことあるもの。有名なのよ、その噂」
「え?それじゃあこの噂って、ホントなの?」
「そんなわけ無いでしょ。すごく評判のいい店だから、そんな噂が出回ってるだけよ」
「あーあ、なんでも願いが叶うなんて、そんな都合のいいことあるわけないかー」
「あら、そんなにがっかりしちゃって、なにか叶えたい願いがあるのかしら?」
「とーぜん!願い事ならいっぱいあるわよ!明日の嫌いな授業が全部無くなりますようにとか、おいしい物がいーっぱい食べたいとか、素敵な人と出会いがありますようにとか、もっと美人でスタイルよくなりたいとか!あとは…明日もマリアと楽しく過ごしたいとか!」
「そう…。じゃあ明日学校が終わったら、一緒に噂のアテイスタアジールに行きましょうか?きっとフィルのお願いの大半を叶えてくれると思うけど」
少女の願いに、友人は呆れ顔になりながら言う。
「えー、なにそれ、どういうこと?」
さっき願いが叶うメニューなんて無いって言ったのにと言及するが、少女は可憐に含み笑いを浮かべ、行ってみればわかるわ、とだけ告げたのだった。