崩壊伝 狂乱の刻
◎視点 ゼクス・アローラ
アルマ達が通った近くは安全地帯だ。そこを通りながら大地を動かし炎を飲み込んでゆく。
確かに魔法で直に作り出した炎より消すのは手間だが、俺の場合やり方自体はほとんど同じだ。
くるんで、はさむ。
今回の場合は、空気から遮断することが大事だ。
この青い炎自体は自然発火なので、水の魔法をぶつけたところですぐ魔力同士で相殺させる人は少ないだろう。それを考えると大地を動かすというのは効果的だ。
ちょうど良いことに、これをしていれば罠も砕けるようで、道の安全は確保できる。
「以上だ、ディアボロ」
『承知!エース、ナンバー6の仰せのままに』
そもそもズィーベンの奴、何を考えてこんな教育してるんだ?
俺の中二病にすぎないだろアレ。現在進行形で使われているアレ!!!
それより、広場は少し大規模に、か。さすがに詠唱一つ言いますか。
「earth wave(大地の波)pinch(はさむ)」
我ながら適当だが、しっかり効果はあったようだ。
後は信じるぜ、お前ら!
これだけ残して通信を切り、アルマの元へ向かった。
◎視点 フィーア・クィーンヘッジ
可能な限りの住人を、高台に連れ出したところです。
ゼクスが動いたようですね。正直遅い。…救出はできて三割と推測。割り切って目の前の救出に専念して下さい。
私の生命力は恐らく1割程度。通話を切る。養生しておきます。
「町は、大丈夫なのですか?」
不安そうに青年が言う。
「あの男の動きが遅かった。それに結局守るのは苦手なのよ、ゼクスは」
「あの方は…そうでしたか」
ええ。ツヴァイがいなきゃ守り切れなかったでしょうしね、あの時も。
◎視点 ヴァサゴ(ズィーベン・ロックウェル)
(ヴァサゴを操作して行動させるのはいつ以来だろうか?)
大体八年!
(嘘言え、二年がせいぜいだろう)
真面目に言うなら500日前以来なんだなちょうど。
おっと、逃げ遅れた哀れな男がいるな。助けてやろう。
「この…悪魔め!」
あれ、なんか勘違いされたか?それも致し方なし。しかし私は助けに来たのだ。持ち上げる。
「許さあああ!!?」
うるさ。高所恐怖症というものか?気絶したぞこの男。
まぁいい、安全だろう広場に置く。
アルマ女王は気絶しているなぁ。
やばい、原典の設定という名の血がうずく。
(っくく…)
笑われただと?
(やめておけよ、殺されるから)
そうだな。文字通り魂を削って作られた私どもが殺されては主様もただでは済むまい。
(いや、削れたから作ったんだがな?まぁ…良いか)
その程度は心得ている。
そのリスクを負ったところで扇動しきれないのだから、なおさらやる価値がないのだ。
◎視点 ウィッチ
「very difficult mission(とても難しい任務)
but I can do!(それでも私に出来ないわけじゃない!)」
「遠隔魔法起動準備完了、マリルちゃん、よろしく!」
『後は信じるぜ!お前ら!』
「Yes,my dad(はい、パパ!)
majic time start now!(魔法の時は今始まる!)」
マリルにゃんとトロワくんの協力で町にいるまだ生きてるみんなは火に耐えられる加護を手に入れたにゃ。
息苦しさは対処できてないから気休めだけどにゃあ。
マリルにゃんもこの間に少し活動的ににゃってきたし、これが完璧になじむようになる前に立ち直れそうで何よりだ。
しかし…妬けるにゃ。
あの悪魔たちはボクよりもずっと高度な器じゃないか。
主の魂のかけらを封印した使い魔として…さ。まぁ別の主の器である以上は劣化ではないのだけどね。
「ウィッチ?大丈夫?」
「だいじょうぶにゃよー。それよりやることがにゃい」
「あー、そうだね。私もわからないや」
にゃ。マリルのおひざの上で丸くにゃる。
「なでる」
「み゛ゃ!!?」
逆なでするでにゃああああい!
「ご、ごめん…」
「撫でる向きは気をつけてほしいにゃ……」
このぞわぞぞわぞわわわ~って感覚は本当にきつい。
勘弁して欲しいにゃ。
◎視点 アインス・サンルック
見た感じもう生きているものはいない。熱量を無理矢理奪い、反応を強制停止させたところだ。
「こいつは…また」
とても大事そうに何かを抱えたまま焼かれたのだろう。抱えられた物は、今回は無事だ。
「って、これは…」
その箱を持っていくことにした。
「悪いな。場合によっては使うかもしれねぇぜ…冒険者の先輩」
元冒険者であっただろうものに、言葉を残しておく。
まじで、すまねぇな。
こいつの血は必要なんだ…。
◎視点 ディアボロ(ズィーベンの使い魔)
上空からの視察と伝達塔の役割を担った。ベヒーモスから伝わる信号を解読しながら対象に渡しながら、空を飛んでいるだけだが。
結論から言えば、死者は86人、住人の三割ほどか。
大分穏やかな数値ではないのか?数値だけで考えられるのは我ら悪魔ぐらいだが、それでも誰の目からも被害を最小限にする努力が結実したものといえるだろう。
はて…通信がほとんどなくなったな。
『なっちゃんお疲れ!』
『その呼び方は勘弁願いたいものだ』
『えっと、クアーロちゃん様が追っていたウサギは見失ったようですよー』
ふむ、ん?
『は?まじで?』
『うん、あの子に突撃前につけたドライの蜘蛛によるとさ、例の場所に行ったんじゃないかと思われる情報が』
例の場所とは一体…?
『フィーアの赴いたあの地か。しかしドライか…たしか結婚したんだったか?おめでとう』
フィーアの赴いた地…あの謎の暗闇の領域か。
『いつの話よ。まぁ、ありがとね』
『まぁ大人しく一度そちらに向かうさ。そのときはよろしく頼むよ。主に君の兄分が恐ろしいのでな』
先ほど叱責されていたな。あの男の相手だけは私も御免被りたいところだ。
『まぁ、そこにいるってことはそうなるだろうね。おっけー、でもお金に困ってるからお金はおいてけー』
『こちらも困っているのだがな…まぁいい、報酬でもせしめて置けば問題ない』
主は国にせしめるつもりか。まぁ…あの女王であの議長だ。理由なく誰も拒もうとはすまい。
『じゃあねー!』
『ああ、じゃあな…ベヒーモス!ディアボロ!通信ご苦労!帰還求む!』
『委細承知、y,ML』
「了解いたしました、主よ」
ベヒーモスには普通に話してもらいたいところだな。
「さて…問題なしか」
重要人物は皆無事か。
ということはこの未来で確定か。
ほかの未来では概ねクアーロ女史か主が死んでおられたからな。
それを知らせておいて伝えることを許さぬとは、主も酷な機能を我に付けたものだ。
泣き言も言っていられないので下に降りた。主は寝ておられるようだ。
◎視点 樹の予言を聞く者
後日聞いた話の再現らしいが本当ではない
抵抗の意志の話だ。
1、7、3、4、9、8、10、5、11、6、2、12
語り部はこれより7となる。
愚者の愚物の末路。
終焉届いたは今だ「銅」のみ。
さらに「赤」はは永遠の享楽と淫欲に溺れ、
「白」は分をわきまえぬ神となり、
「銀」はその奴隷とある。
忠誠を忘れし尊きものの力。
「黒猫」は狼の無骨な少女の元に、
「白狐」は犬の主たる慈母の元に、
「金犬」は猫の冷静な少年の元へ、
「紅兎」は狐の未熟な勇者の元へ、
「青狼」は未だ書物に済む先祖の力、
「茶鼠」は犬の達観の姫君の元へ、
「灰熊」は熊の歴戦の乙女の元へ。
特に「兎」でありながら戦うものは驚いたものだ。近々来るから“雀炎”アルマともども歓迎するといい。
あの男と子をなすかは任せるが妻子持ちであることは理解しておけ。
それと…フンフの“音速疾風”は変更することも視野に入れておけ。
「了解しました」
東の聖女として、精進しなくては。
いや、本当はいつか自分を嫌ってもまた立てるように。そう願っていた。支えになろうとした。でも…。
「私じゃなくて…よかったのね…」
私の方が、自分を嫌いになりそうだ。誰も悪くないのに。




