余談 笑う世界の担い手
◎視点 ジェーン・フィロソフィア
ブルーム王国首都メンタル
マル地区、王城、ヘキサゴン地区の間
フィロソフィア邸
私は、そこで蔑まれている少女を見つけた。
それは、とても恐ろしい光景だった。私もいつかそうなってしまうのだろうか?
また、日記を見ていた。
「暇なときよく見ちゃうよなぁ…」
お出かけの準備に飽きただけで、別に暇ではないのだが。
あと、跡継ぎの準備を。
おじい様は馬鹿父とサイコとペドいのを捨てて私を継がせようとしている。お兄様の望んだとおりに。
さて、私も調教を覚えましょう。なんかひどく嫌なイメージがします。
テンプレの印象と家族に重なる印象と。
はぁ…犯罪者の町を指揮するのはしんどいわぁ。
◎視点 ゼクス・アローラ
ブルーム王城、大広間4
そういえばアルマはどこにいるのやら。
「っかー!日本酒はいいねぇ!」
「何やってんだか…」
「おーおー、我が弟よ、うまくやっているかい?」
「酔ってやがった…」
なぜか日本酒で酔ってるシャメルと呆れつつ自分の顔も酔いで赤くなっているバレッタ。
「おいおい…俺の分はねぇのかよ?」
「よく来たな引きこもり」
「るせぇな、本体は結構外出るぞ」
「そうなのかよ、ならこっちに顔出せばよかったのに…」
ドライも来ていた。本体と直接会うのはいつぶりだろうか。
「なんなら前に息子に会ったのも魔力オーロラの日だわ」
「お前それでも親かよ?っと、シャレにしちゃきついか」
何でかは知らんが、シャメルが答えてくれないばかりか、マラカッタやら他の読心術持ちが反応してくれない。
「誰か対魔法魔法かけたか?」
「そりゃねぇだろ」
それもそうか。
「…おい、あの南の地に出られるのか、本当に」
「この世界の維持に必要なのは知識の継承だからな、会えない場所にはいないだろ、賢者は」
賢者。この世界では魔法的な意味での賢者という定義が存在する。
そいつは、自らで作成した特定の場所―――聖域―――でのみ寿命を削らず、その中では自在に魔法を扱える。だから外には出ない。でも使い魔はまず外に出てるだろう。
「……あの女みたいなのか」
「あれもそうだが、あいつは色々違うだろ、何で生きてんだろうなって話だし」
なぜかキロ単位のサイズの塩の結晶の中で生きている賢者がいる。そいつは動けもしないが、その決勝そのものを聖域にできたため生き延びている。……いや、聖域にできたからって色々無理だろ。
寿命削れなくできても酸欠で死ぬことはあったらしいし。何で酸欠になったのかは聞いてないが。
「おい、おまえ考え込みすぎ」
「ああ、悪ぃ、あいつらどうやって殺すかな」
「落ち着けっての!」(この場総員、魔法展開!トールハンマープロト!)
「あぶねっ」
頭にトールハンマーぶつけんな死ぬわ!
絶対これを範囲制御抜きで撃ったら床抜けるって!
「頭冷めたか」
「まず肝が冷えたわ」
頭がとか以前の問題だろこれ。
背筋は凍ってすらいるぞ。
「大丈夫、出力散ってた初期型だから」
「それで周囲2、3キロくらいぶっ壊してなかったか?」
「気、気のせいだろ…そっか、全力込めればそうなったんだっけこれでも」
延々と相談のつもりで雑談を繰り返す。
酔っているときはいつもそう。
自覚している俺はほとんど何もできないけどな!
「つーか、シャメル昨日も飲んだろいい加減にしとけよ」
「あ?………わかったよ」
わずかの理性でそこには言及する。
リズなら間違いなく言うだろうと思って言ったのが伝わったらしく、渋々だかやめてくれた。
◎視点 ブラウニー・0123(ゼロアンドスサン)
「ブルームはそろそろ出る頃合いかなぁ…」
不安そうにふらつく上半身裸の美丈夫。
「何してんだよ親父」
俺の父さんは実はこんな何だぜって言ってみたくなる。
これでも王様だし、普段きちっとやってるし、説得力無いから言ってみてもいいのかもしれないが。
同様に俺も一応王子だから、説得力できてしまわないかは不安だわな。
「さぁ?しかしブルームの女王はどう思う?」
「んあ?」
さっきっからブルームのことばかり気にしているような。
「別にー?分をわきまえて、それ相応に活躍してるんだろ?ブルームだってそんなもんじゃん」
こっちも半分くらいそうだが。エルダーアースのせいで完全にそうともいかないんだよなぁ。出来ないことやらせんな馬鹿。
まぁ、一つ確かなのは。
「それよりよー、ミラージュまた戦争ごっこの申し出してきたんだけど答えたのか?」
「うむ、断った。どうせもうすぐ本気の戦争が始まるからな」
「おけおけ、んで?交渉の準備は?」
「どうせブルームがしてくれよう、こっちはそれなりに押しつける。こっちの利益は薄くなるが、苦境を消せるから十分だろう」
この親父はそれなりにできる。
◎視点 フォリック・ミラージュス
ブルーム王城 1階
王城兵士訓練場
下段に構えた刀。
「ふぅ、はぁ………」
アルマさんとカリー屋を去ってから、ずっと刀を持ち臨戦態勢を続ける訓練をしている。
「はいっ!」
投げられた木片を切り捨てる。
時々クーに投げてもらって、それを切りつつ、刀を放さずしまわず、歩みを止めず数時間。
「そろそろ夕食食べようぜー?シューが眠たそうだぞー」
「………」
マラカッタさんが昼食に作ったサンドイッチの余りで作ってくれたものを食べる。
シューは眠たそうにもぐもぐと。
「あぁ…もう、無意識だとこれだけで俺すら興奮してくるくらいのフェロモンばらまくんだもんな」
シューは栗鼠神獣の力を継いでいるため、蠱惑的なオーラを放つ。それは感覚的な意味でもあり、妖術的な意味でもある。
「昼型すぎじゃない?シュー」
「そうだな」
普通の口調のクーと男口調のマータという珍しい光景。
「夜の女王にでもなれそうな能力なのにね」
「やめたげろ」
そう言われてみればそうだ。
「マータはそろそろ14才だっけ?」
「そーだな」
僕は誕生日秋なんだよなぁ。
「フォリックも静かだな?」
「そりゃ、疲れはあるからね…」
「それもそうだな」
相手の親が引き合わせた縁だけど、いい友達でいられるのが嬉しい。
「クーとは引き合わせてあったわけじゃねぇけどな、気が合うと思えるのは良いことだな」
「あはは、まぁねー。そういえばリックもシューとはお忍びで鉢合わせたんだっけ」
「うん、びっくりしたよ?いきなり相手の気配が変わるんだもの」
「そういえば、お前はシューの魅惑の妖気が見えてるんだったな」
諸々話しながら過ごしている。
それより後ろなぁ。誰かいるんだよ。三人ほど。
「ノインさんと?」
「ミェラとホロフだ」
ホロフ…クーの従者か。
あの人も大分会ってないなぁ…。
「ノイン・スターリバーならいいか、俺たちの目的を確認するぞ」
「「はい!」」
「目的は定期的に行われる零妖合同軍事演習こと戦争ごっこの中止の申し出を受け入れること、また対狂国戦関連時に領土侵入の許可と対狂国戦争以外の目的での攻撃の禁止を受け入れさせること」
了解!
「マータ、それってつまり交換条件として提示するってこと?」
「そうだ、あっちからしても、提示してくれるって感覚だろうね」
クーの確認とマータの返答。
「じゃ、シューは寝かせておいてくれよ、俺も風呂入って寝るわ」
「僕もいくよ、…マータは場所わからないだろう?」
「……助かる」
そうやって軽口をたたきながら解散した。
「さて、風呂はどこだ?」
「ここの地下さ」
地下に降りて風呂に入るとしよう。
そういえば、シューに挨拶もしてなかったな。それは明日かな。




