町中の散歩と ちゅうの演劇鑑賞 後
明るい空の下、清々しい朝が来た。
例の野営地に、一人の少女がいた。
「全員!!」
そう大声で少女はさけぶ。
「誰だ?」
皆口々にそういって集まる。
「私は………東から逃げてきた」
全員がぎょっ、とする。
演劇らしいオーバーリアクションとそれを意に介さない点こそあれど、やはり名作のワンシーンらしくかすかに緊張感を感じる。
「ここにはラタトスクとカリストーが来ている!カリストーは足が速いから、守るべきところが襲撃されてしまうよ!」
手をあたふたさせながら、その少女はせかす。
皆が帰るべきではないかと、ルーファスの指示を待つ。
「まずなぜそれを知っている?」
「それは、私が狩人団の一員で、戦いに参戦していたからです」
それを聞いて、さらに彼は詰め寄った。
「ラタトスクの詳細は?」
「分からないわ。カリストーの背中に乗っていただけだったもの。会話から名前が分かっただけなのよ」
「嘘をついている」
「どこがよ!?」
「どこかは分からんよ。だが断じる。貴様の言葉は嘘が入っていた!!貴様、本当に人間か!?」
「人間よ!本当!」
「そうなのか?」
言い争いのようなかけ合いが始まった。
「私はあなたたちのために!!」
「そこは確かに嘘だな」
「えっ」
「お前は洗脳を受けている」
「どういうことだ!?」
「私はあなたに昔会っているが、そのときと行動が似つかない」
「そんな、私は正しく演じていたはず……」
「はっははは!!あっさり引っかかったな!うそだよ、間抜け」
「え」
「言葉だましでそう大人に勝てるとでも思うなよ?」
「な―――――そんな、そんなぁーーー!!!」
終わった。悲痛な叫び。
「団長!襲われる危険性につきては真ですか!?」
言葉遣いが軽くおかしいぞ?
「あっ、ああ、本当のことではあるようだ。奴らの拠点へと私たちは行く。お前らは町を守れ!」
どうもかんだらしく、少しだけ笑いが漏れてしまった。
それはそれ、これはこれ。
出発の指示を受け、本格的に準備が始まり慌ただしくなる。
「ルーファス様、私もお供します!」
「あ、ああ。だが気をつけろよ!」
「はい!」
その二人のまわりでは、
「行くぞーー!」
「せっかちになんなよ!面子わけるぞ!!」
メンバーの管理、
「食料は団長側に多めに!」
「てゆうか防衛組は必要なくないか?」
物資の管理、
「ご飯食べろー!」
「「「「もぐもぐむしゃむしゃごくごけむしゃしゃのもぐもぐごくっ」」」」
朝食作ったり食べたり。息の合った擬音たちがすごい。
「メンバーの選別は?」
ルーファスが問う。
「十分です!8名でよろしいですか?」
「もちろんさ!」
元気な答えが返ってくる。
「行くぜ!」
拳を高く上げ宣言する。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「応!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
皆で拳をあげる。
戦いの始まり。
出発の準備はもう整っていた。
「あっははははは!無駄だよ!!その準備」
その荷物たちを下ろし、武器を構える。
「ここであんたらを全滅させるんだから!!」
すとん!と、少女がどこかから落ちてきた。
元々つけてたコートのもふもふ感が減り、動きやすくなっているようだ。
「人に近いが、人ではない!さては、お前が……」
「そう!私こそが、法神の命令をうけた獣の一人!」
「獣なのか人なのかはっきりしろや!」
……え?
いつ、そこに来たの?
物語としてだけでなく、「演劇を見ていた観客」としての私から見てもいつからそこに居たのかのか分からなかった。
「な、なんだと?」
「俺はカリストー、こっちはラタトスク。その人間が言っていた奴らだ」
敵たちの登場ってやつね。敵であって悪役ではないのだけれど。現実にあった話である限りにおいて。
「そして、その人間、いや、そっちは…」
「危なかったよ、真実まではたどり着かれなかった」
あ、さっきの少女にしっぽがついてる。
「わたしはイチル。一本目のシッポ」
そっか、この子がだった。
「ばいばい」
逃げる少女をどうにかする手段はないようだ。
目の前の二人が戦う気だ。
「くっ、やるしかない!!My wisdom teach me how to use the mana.(私の知恵が私にマナの使い方を教える。)
in addition to it,(それに加えて、)
My instinct understand me how to use the life.(私の本能が私にライフの使い方を理解させる。)」
二匹?二人?がたじろぐ。
「I followthe wayof my soul.(私は私の魂のあり方に従う。)」
「止めるべきだな、行くぞ!」
「だめ!」
クマっちをリスが止める。
「今止めたら私死んじゃう!」
悲痛な叫び。
「何だと!?どういうことだ!?」
彼は混乱する。
「my wayis simple.(私のあり方は単純だ。)」
「私じゃあれの暴走には耐えられない!」
「暴走?もしかして、禁術が苦手なのか?」
「I amplotecter(私は守る者)!!」
「あれは禁術使いで、お前の力が通らない、そういうことか!?」
「そう!!」
「なら任せてしまえ!!」
なんか割り込みにくいなここ。
「majic time start now!(魔法の時間が今始まる!)」
「aura release(妖気の拡散)――私に従っていただけますか?」
「aura release(妖気の拡散)――俺は何よりも速いのだぞ?」
重そうな鎧の騎士が一人。
見るだけで何かにつき動かさせる存在が一匹。
もはや速すぎて音しか残さないのが一ぴ…き?
そして始まるバトルのシーンは……速すぎて追いつけないから!!!
「まずい!カリストー!適当にやって逃げるよ」
倒れて、騎士に護られている、いや護らせてる少女が言う。
ざっくりさっきの戦いを説明すると、ルーファス以外の男が一人のぞきみんなルーファスに突撃。ルーファスは回避防御とどさくさに紛れてきたカリストーを制圧。
本来見せ場はここだったからね。本の方から知ってることを解説に入れるのはしょうが無いよね。完全に物語に引き込まれるとこだったのに。
「ぐああああ!!!」
腹を押さえ込みうめく。
「カリストー?」
「逃げる……ぞ」
その言葉をもって二人は消えた。
「勝った……」
「皆様倒れておられます、ね………?」
そうして、ローナはルーファスの元に近づいた。
「えっ、つめた…」
ルーファスに抱きしめられたローナは、彼の冷たさに驚いた。
「少し、眠らせ…………」
そうして、彼は意識を落とした。
「どうして?どうしてなのよ!!」
彼女は死んだと思い泣き続けた。
「ぐー、ぐー」
いや死んでねぇよ?
シーンチェンジ。
お久しぶりなナレーター。
「この後、この締まりの無い一件の功績が認められ、爵位を授かる際にも問題があったのは別の話」
締まり無いよ本当に。
「締まり無いまま〆てしまいますが、そこは申し訳ありません。続きは日が沈んだ頃になりますが、先ほどの演技をキャストを変えまた演じさせていただきますゆえ、カーテンコールにはお応えできませんので、ご了承くださいませ。」
そうして、幕は下りた。




