#フィロソフィアの目覚めと
さて、交戦準備はできている。
「動くな!」
ただの看守か。
「majic code 4」
次元を超えて即効性の麻痺毒を与える。後遺症も免疫もつかない魔法薬。免疫がつかないということは、アラフィナキシーショックを起こす心配もないということですから繰り返し安全に使えます。
しかし逆に、元々その魔法薬に対して何らかの免疫が働く人に対しては初回から危険性があるということでもありますが。その事例をまだ確認してないので検証もできないんですよねぇ。
とはいえ、ここの人に対しては確認済みですが。
「あら、こんにちは」
犯人らしき人のカメラがあった。不用心でしたわね…。
「majic code 9――majic code 3」
宣言隠蔽魔法陣越しに同一物探査魔法を使っておいたかぎり、これ2度目ですね。道理で気づかれたわけです。
「majic code 5」
急ぐことにする。走力強化魔方陣は便利。
「majic code 4」
遠くにいるから倒しておきますか。
これ薬品投与魔方陣で片づけられますね。と、この様子からして犯人は上にいますね。
外でお会いしましょう?
「よし、ふぅ………はぁ―――majic code 6」
窓につけられた鉄格子を剣に変換。刀剣創造魔方陣、作ってはみたもののなかなか使いどころがないのに使うのが難しいのですよね。使えてしまえば便利なのが、それらしい。
とりあえず窓を取り外し、下を確認して飛び降りる。
「足くじくところでしたわよ…」
とりあえず正面口に回りますわね?
◎ブルーム王国 王都メンタル マル地区
不正の贖罪第八塔 正門前
念のために正門の鍵を開けておいて、その前に立つ。
あとは魔法銃の弾を転移用のものにして、と。
「看守の服を着た脱獄犯とは、珍しいですね」
一人ではないらしい。無駄な手間を…。
「お久しぶりです。そしてさようなら、バッド・イシュタル」
「私は子爵だぞ、いまや公爵令嬢でない、いやそうであっても!そのような物言い、許されぬぞ!」
「馬鹿にいくら話しても無駄だ」
手元の魔法銃から哲学崩壊公爵式処刑弾を放つ。
この弾を撃たれた者は反逆罪を犯した者のための牢獄へ送られる。
「余こそがフィロソフィアだからな。平常業務に戻れ。3名眠らせたので介抱しておけ」
さて、まずは戻りましょう。
「あの…」
「なんですか?」
「お召し物を…」
「あら、どうも」
服返してもらえたわ。
◎マル地区中央 フィロソフィア邸
公爵執務室
花の月24日 早朝
事務処理終わった~!!……朝ですわね。
ねむ。寝ますわ。
考えてみれば、最後の記録は本当に興味深い。まさかお祖父様には栗鼠神獣への耐性すらあるだなんて。
寝たら、まずはイフリート家かその分家から手頃な男を婿にいただきに参りましょう。そして立法区に顔出しして、あとは学園の出席の免除手続きと、民へのスピーチの台本を書くのは今日中に済ませないと。
新フィロソフィア公爵として、頑張りますかね。
「みゅみゅ……」
あ、だめだ寝落ち…
◎視点 ゴルディアン・フィロソフィア
寝てしまったか。
「うん、しょっと」
ずいぶん大きくなったな、ジェーン。
「乙女にいうことではないが、重い」
老体にはこたえる…!
「大旦那様、私めが運びます。運びますから……」
「うむ、無理するものではなかった。頼む」
無理だった。すまんのメイド長よ。
こちらが手を出す前に脱獄しきる手腕はさすがだが。
「まだ処刑は命じとらんのか」
「拷問が終わっておりませんので…」
ジェーンの第二秘書が伝えてくれた。
「情報か。まぁいい」
必要はないと思うが。何かあったか、イシュタルに?
覚えてないな。大事件の印象が強すぎる。
「結局あの男も女王も、迷惑こそかけとらぬが好き勝手していたといえばしていたような気がするわ」
「そうですか?ずいぶんおとなしく政務をしていらしたような」
「いや、ある意味経費で旅行しとるだろ?」
納得したようなしてないような、悩ましい表情で固まっておる。
「行くこと自体は必要だからといえばそれまでだが、正直誤差程度に無駄な出費なのだよな」
自腹で行け、と言ってやる気はなかった。主張したがる者もいたが、代替わりのこともあるこちらが口出ししたくはなかった。普段ならそやつらのために言ってやるのだが。
「所詮そんな程度の話よ。さ、隠居じゃ隠居。少し憧れてたんじゃ、辺境の開拓に」
「あら、そうでしたか」
「うむ、アルマ女王、いや、アルマ姫に伝えてくれ。たまにでいいから出向いて、ジェーンを支えてやってくれると嬉しい。息子の件もあるから、旅の折に寄ってくれれば礼をする、とな」
「かしこまりました、大旦那様」
最後にジェーンにも挨拶をしておくべきだから、しばし待つのはそうなんだが、面と向かって頼むのはばつが悪いような気がしてな。
◎視点 ジェーン・フィロソフィア
11:56
…。
昼の鐘はもうなったかしら?
「あ、お祖父様」
「起きたか、ジェーン。おはよう、公爵。永年遅れの、フィロソフィアの目覚めだな」
憑き物が落ちたような、清々しい笑顔だ。
「呪いは、断ち切れましたわ」
「うむ、ゲータに感謝しないとな」
「お兄様の、おかげ、ですものね」
どうしても涙があふれる。あの日死ぬ運命に決めて、戦い抜いた。
「そんなわけだから、隠居することに決めた。辺境の開拓をするつもりで、だから隠れる気はそんなにないんだが、面と向かって話すことは大分減るだろう」
「そう、なりますわね」
そりゃあ、お祖父様はそうなるだろう。
「それでは、な」
「はい、うまくいくことを祈っておきます」
「うむ。だがそちらがまずかったら遠慮なく助けを呼んでくれ。まずは孫だな」
「私の子孫でないと意味がありませんものね。抜かりなく準備はできておりますわ」
それはそれでと思わなくはないだろうが。
「いつかは愛せる男を捜してくれると安心できるのだが」
難しい話だなぁ。………あの。
「実は私、女好きなのですよ」
「……え?あ、あ、そ、そうか。まぁ、子孫さえ作れれば伴侶が女でも問題なかろうが……え?」
「今更でごめんなさいね」
言う機会が何一つなかった。
「構わんさ。あとアルマ姫は無理があると先に言っておくぞ」
「もちろんですわよ。放浪してしまいますよ、あの人。側に居てもらう余地がありません」
でもそうか。私は、私の望むままに生きられないこともないのかもしれない。もちろん公爵として生きると決めた。託された。
とはいえ、私の望む幸福を、私に与えられるのかもしれない。よし、やる気が出てきた!
仕事を始めますわよ!
この世代に限っては結局大して変わってない説ありませんかね、これ。




