ジェーンの眠りと
とてもお久しぶりです。前編です。
◎視点 ジェーン・フィロソフィア
花の月18日
フィロソフィア邸
なぜ、お兄様が死ななければならなかったの?
「アルマのせいでは、ないわ」
そう分かっていても恨んでしまう。
最期を任せるほど(一方的に)信用されたアルマもそうだけど、何よりティルと違ってリールの方は味方とは到底言えない状況だった時でさえ、私より信用されていた。
お兄様の見ている景色は私には見えないの?
私にはお兄様に釣り合わないとでもいうの?
私は昔からフィロソフィアの女として忌み嫌われてきた。……この文をみたばかなやつは何でか『つつみとつわれてきた』とかいってたわね。何なのかしら。『いみきらわれてきた』です当然ですわ。
にしても、フィロソフィアは男ばかりだが、今回は碌なのがいなかった形である。ろくといえば、禄斗という名でしたわね、アルマのお父様。未だに秘密にしているのかしら。
そもそもなぜ男ばかりかの理由を話さないと。フィロソフィアの家系は兎神獣の呪いを受けている。とされているが、その性質、能力的には栗鼠神獣だろうとする人も多い。
その呪いとは主に三つ。
一、ほとんど男しか生まれない。
二、生まれた男はだいたい四世代に一人程度を除き、精神的な異常者である。
三、この呪いはフィロソフィアの男にかかるものであるが、女には遺伝しない。
この、三を見つけ出したお兄様、ああ、ゲータお兄様ですわ。彼は兄二人を失脚させる手はずを確実に整えた上で、失脚の前に自らを死なせておく計画を立てた。それはひとえに、犯人を自分にするため。まぁ、事実お兄様が犯人なんですがね?
実の孫に継がせる旨を述べている祖父の孫は、私だけになるようにしておけば、余所には打つ手はない。
ちなみにお兄様がいれば、何が何でもお兄様に継がせるためだけに私に罪をなすりつける下郎が現れるに違いありませんから。それに、二に該当するお爺様は事情を知っておいでですの。お爺様に子供としての時間をもらえて、とてもうれしかったなぁ。
でも、あと二人、兄がいる。それをどう失脚させるかであるのだが……もう、戦死した。戦死というか事故死というか…。ま、そういうことですわね。
完璧ですわ。私が出ないとならない状況を生み出せてしまった。
「はて……どうしましょうかしらね」
きっと、あの白銀人たちのことだ。
あちらの心配などはじめから不要。
「開き直って、行きましょう」
もうゴールは見えている。しかし障害物はまだわからない。油断は禁物ですね。
◎花の月23日
最後の交渉のテーブル、かと思ったのですがね。
「……どうしましょう?」
牢屋の中ですわ。
捕まりましたが……そもそも私たちフィロソフィア家は看守をこなしてきた経験があります。
この程度なら逃げ出せる。
外では今頃戦争でしょうか。逃げ出すなら今ですね。これ以上は、巻き込んで規模を派手に大きくしてしまいます。手に余る事態になっては、後の保証がないのです。
「この程度なら魔法はいらないわね」
牢の中では魔法が使えないので鍵をピッキングして脱出する。
「普通魔法で解除するタイプの鍵を使うでしょうに」
この鉄格子の時点であんまり脱獄の心配していなかったのでしょう。クリス・タルトも同じような場所に入っていたとのことですし、やはりこの形式は改善したいですよね。私なら手を出せばそこから魔法の鍵を解錠も施錠も簡単ですし。
とはいっても個室は、監視と管理が難しいんですよね。後牢の外から手引きされると関係ないですし。
「My wisdom teach me how to use the mana.(私の知恵が私にマナの使い方を教える。)
I know this is the firstfloor(私はここが二階とは知っているのよ).
I want to know this is the firstfloor(私は一階を知りたい).
Please tell me a structureof the first floor(「二階の構造」とやらを教えてくださいな)
And…Let me know a structureof the first floor(それと「一階の構造」とやらも知らせて)
majic time start now!(魔法の時間が今始まる!)」
さ、脱出しましょう。
◎英文が問題だらけな件
first floor…これは同じ英語圏でも文化の問題で数え方によって日本語で(っつーより日本で)の何階か、が変化する。first floorが二階なら一階はground floor(地上階)。
後途中のstructureの前aじゃなくてthe。どう考えても今いる建物のフロアである。
◎そんなことを監視カメラ越しに思われてるなど露知らず
概ねわかったわ。後見られてる可能性が高い。考えてる間動きがないから聞かれてはなさそう。
もしくは待ち伏せだけど……それなら無駄ね。
「私をなめすぎですわ」
私の体には魔方陣を貼り付けてある。なぜかそれがそのままにされている。
「どうにかできるとも思えませんけども」
なぜもなにも、これを魔法の力で剥がすのが困難なだけですけど。
とりあえず、私の服を取りに行きましょうか。
捕捉されてからが本番かしら。
「と、思いましたが…」
補足されてますか。
「……はぁ」
しょうがない。今の服は諦めるか。
「majic code 0」
看守をやるときの制服を装備。でも装備に下着を登録してない。すーすーしますわ。
とにかく、ラファエル伯爵のそれとは違う、魔法銃を装備してある。ぶっちゃけ背中の爆発魔法弾を壁に使えば飛行魔方陣で逃げ出すぐらいは余裕だけど、下着なしスカートで飛びたくない。ズボンにするべきでした。
さて、やりますわよ?犯人は……アルマ様に任せる余地はない。私たちは処分することぐらい、わかってますよねぇ?




