地獄、極楽、あとは変えるだけ
終わらない。でも終わり。
「では、参ります」
刀が抜かれる。
「……SORAHAGIっ!!!」
突撃するのに合わせて、私も駆け抜ける。
今できるのは、私だけだろうから。
「右のだけ避けて!」
「っ!?」
左を受ける前に、リックの妖気を奪い取り、魔力とともに体にねじ込む。どこに入れればいいかは、私には感覚的にしか理解しようがないけれど、そんなことはいつも通り未来に任せればいいだけ。
成功した。
失敗した未来は、多分とても多い。
そして、私の体にその刃が届き。
赤いものが、飛び散る。
それは、なんだ?
「……!?」
目を見開く。
当然か。リックは、その瞬間に一撃、斬りかかる。
◎視点 ツヴェルフ・ウェストレイン
目の前の景色が信じられない。
ひどいやり口だ。親よりひどいとはさすがすぎる。
魂の情報偽造してまで別の姿に変身したいですか…?
今のあの子は、ウェディングドレスのような白のドレスに、ピンクの尻尾を二本生やした、狐の獣人のような姿。そして、「その血は炎でできている」のだ。
服装がなかなか独特。いろんな文化ごちゃ混ぜな感じ。
後特筆するべき点は、……?特になくなった。
これはやたら奇妙ね、としかいえない。
あっ、違うわ。彼女の元々の異様さの一つが消えてるからだ。
◎視点 アルマ・アローラ
振り抜かれた刃に、私は私の傷からこぼれる炎をまとわせる。
そりゃ、雪菜も驚くだろう。
「体が、熱いぜ…!」
妖気は普段こんなに持ち合わせていないからか、体がすごいおかしい。
しかし、この力はとてもいい!
「やるぞ、リックっ!」
この力と、間抜けやってくれたおかげで気づけた。そうか!
「奈落は……そこか!」
空に向けて手を伸ばす。今、消された12個目の月の本来あった場所は、真上なんだろう。
「そこが、ゴール!」
瞬間的に移動して手を伸ばす。間に合わないでしょう?
腕に走る激痛。どうやら、変身は痛覚が残るらしい。知らんかった。
「斬れっ!」
その刀に傷からこぼれる炎を振りまく。残った炎をねじ込む。
「終わりだ、ヒュー!」
「もう遅い!捉えたぞ、白山っ!」
炎をまとった刀が振るわれ、その機械の体が崩壊する。
駆動するためのエネルギーはすべて奪われ、ただの熱でしかない炎がその体を溶かし、箱の中にすら抵抗なく火を通す。
そして、私の干渉範囲内に、奈落が入った。
あんなやつが相手なら、私側の勝ちは、揺るがない。この力の、ある限り!
「喰われろ!」
雪菜が最後の抵抗に私を飲み込む。
精神が彼女の中に入っていく。
そして、鋼の体は機能を停止した。
私は、無意識に記録する、記憶する、そして、そして。
そのすべてをまとめていたものを、失った。
◎雪菜の心の中
死にたい。でも死ねない。いつも通り、いつも通り。死にたくて死にたくて仕方がないのに、本能という邪魔なものが死を遠ざける。
幸せを感じているのに、何もできていない無力感が、何かを間違えたという嫌悪感が、この僕を死へ掻き立てる。
腹いせに自分をいくら刺した?自分をいくら殴った?いくらきっ……てないな。でも、刃はたくさん向けた。
それは、誘拐される前からのことだよ。意外かい?普通に生きてて、こうなるものだと思ってるのけれどね。それは常識ではないだろう。常識ならみんな傷ついてる。痣一つでdvだの騒がれはしないだろう。ま、私が白銀で生きてた時代はそんな話ないんですけど。しつけ程度のものでしょ、多分。
にしてもdvって言葉、なんか響きが素敵だよね。
こっちに来て、力を手に入れてからは……というか常にともにいる家族を手に入れてからは、そこにいる家族に止められているのだけれど。まぁ、当然か。
代わりに、誰かを殺せる力を手に入れた。そしてそれを行使した。
治癒は、その応用。あくまで、それだけ。ご機嫌取りに助けて、居場所を手に入れるだけ。
それだけ。……私は道具じゃない。死にたいだけの人間だ。それを一番認められないのが僕だ。なぁ、お前、命を道具扱いしてないか?お前、道具か?おまえは、おまえは、おまえは。
人が道具を壊すなんて、簡単な話か?おい、それ、本当に道具か?僕は、命を、道具扱いしてたよなぁ?なぁ、そんな人間ども皆殺しにするのが正しいだろ。自分ごと、殺せ。殺せ。殺せ、殺せ、殺せ!
……うるさいなぁ。
あ?
「そんなためらいなく殺せるものじゃねぇだろ?」
「何なの、あなた」
「口に出せば口調が緩くなるしよぉ」
逆におまえは荒れるのか。
「まぁ人間、そんなもんか」まぁ人間、そんなもんか。
何でハモるのかな…。「何でハモるのかな…」
あ~、これだめなやつだわ。
同意だ。
「殺意が止まらない。そもそも人は刺激なくては生きられないのよ。だから白は心が死んだ。私は殺して分かれて殺して刺激を得た。銅は心を眠らせてしばらくを過ごした。赤は、知らないや」
あぁ、あれは女に求めた訳か。
「……気持ち悪い話だね」
そうだねー。
「道具のように死ぬ歌姫も、世界にはいるのでしょう?」
それ、流れる記憶からするに、全く別の記憶だと思うけど。
ったく、契約とはいえ好き勝手やりやがって。この子を侵略する必要があるかね?
待て、おまえは何を言っているんだ?
「なにがだ?」
「…聞こえてないの?」
聞こえてないよ。多分二回目の編集じゃないかな?
「そう、残念ね。もう、今日を、生きられ、ないか、でも、死ね……る………」
言葉すら壊れていく。
「ずっと前から、死にたかったんだ……私は、愛して…」
できるなら、僕は、もっと上手く……ここ、で……いき……た…
「……出口、普通にあるじゃねぇか」
閉じ込められたのかと思ってたんだけど。まぁ、いいか。
「なんか足りてねぇよなー」
全く、ままならないものだよね。何かが、足りない。かけるべき言葉が、足りない。なぜか、わからない。
しかし、彼女の心がわからないのにわかるわけもなかった。いつかわかるのだろうか。
続きます。もう少しでとりあえず簡潔ですが。




