short&long~見えない児戯を見透かして
◎弓部門が終わり、刀部門始まる前
マータくんはヒュー……雪菜に負けちゃいました。
そしてヒューと狼の女の人…前回優勝者との戦いの最中。
シュレールが泣きながらやってきた。
「どうしたの?シューたん」
「もうやらぁ、おむちやらぁ」
情緒が壊れてる…。
「大丈夫、大丈夫だよ、もう大丈夫」
そう言いながら抱きしめてあげる。
にしても……もう、ってことはあれか。あの男が何かしたのか。
「うそだもん、うそだぁ」
にしてもよっぽどのことをされたようで。あんまり詳細聞きたくないね。
「くぅ……くぅ……」
寝た…?よくそんなにすぐ眠れるよね。うらやましいわぁ。
「よいしょっと、申し訳ありません」
「いや、いいよ。ミェラさん」
「私のことなど呼び捨てでもよいのですが」
「なんとなくそれはなぁ…って。それより、大丈夫ですか?試合見られます?」
シューたんは大丈夫そう。ミェラさんのパワーについても気にする必要ない。多分それわかってるはわかってる…よね?
「見る価値はありませんわ、反則勝ちの試合なんて」
反則…?魔法使うこと以外よくわからないけど、何をやる?
「なんで分かるの?」
「やつが王城に侵入できた理由。先ほどまで私が観察していたのはそれを用いたという反則に気づけるかに過ぎません」
理由…あー、そういうこと。わかりにくい!
魔法か!あの見えない刀ってあいつのことか!……いや待って?
「私にもあの刀見えなかったんだけど…」
「「は?」」
やばいよね?やばいよね??
「……目で追いきれない早さ?」
「あの程度のやつが?それにあいつまで目で追えてたのにアルマが追えないと?」
「あいつ?」
「あれ」
お父さんが指さしていたのは純人の誰か。
「たしか……」
あれ、コルルのおじいちゃん!?
「あいつもあいつで…まぁいい」
なんか魔法展開してるし…。
「あれは白銀世界の知識が元々豊富だからな」
とはいえ何をしているかはぱっとしないし、話しかける理由もない。
「特等席から出るのもだしなぁ」
「それもそうだな。今はいいさ、ほら、予定崩してもう始まるぞ」
あらま?
「もう、許さない!今、この舞台で死ね!!」
ぶち切れてる。裏でなんかあった?
「ふん、若よ。我が一閃も見えぬうちに何を言う?」
こいつは完全にかっこつけてる。余裕だな?
周りからヤジが飛び交い続けてる。
「ちゃんと見切ってやれ!リック!!」
「さっさと頭犬族領に持ち帰らせてよー!」
知ってる声だ。私も叫ぶかー!
「フォリック!全部、任せるよ!!」
さ、頼むよ、敵討ち。っていうと身勝手感が。何であれ、あれは罪人で、今ここで裁かれる。
妖連邦は、そういうのもあるらしいです。
「さぁ、盛り上がって参りました!!フォリック・ミラージュス様対アスモデウス・ギルティネスト!!あまねく全てを見切る瞳と、世界を巡った見えない刀!さぁ、準備はいいか!」
あの男はうなずくのみ。当然だ、もう言葉を発するわけにはいかない。
「問題ない、やれる」
なんか調子狂ってる気がするなぁ。大丈夫?
「試合…開始っ!!!」
始まった。
「切り裂け!」
見えない刀が振るわれる、それをリックはあっさり防ぎ、はじき反撃。
「外した…?」
今、変だな?
あっさり避けられたというか…狙う場所違うんじゃ?
「なるほど…これは、悪質…まさかあの深奥を再現するとは」
「悪質とはずいぶんな言いようだ、これでも長い鍛錬の果てに得たものなんだぞ?」
「抜かせ」
あー、魔力隠蔽できなきゃ私もリックも普通にしか見えないはず。
今リック見えてないってことは…それもできるの隠してたな?
もしかしたらマル地区で会ったときも使ってなかったのかもしれない。
観客視点から隠せてはいないんですが。明らかにゆがんで揺らいでる。
「気配だけで…いや、殺せばいいならなんとかなるか…?」
「無理でしょう、ですが問題はありません」
本当かな…?いや本当だけど。
あれは死ぬ、それはとりあえずネタバレできるそう。
「でも保証してくれない」
多分、安心しちゃだめ、一瞬過ぎるそれを見切らないといけない。未来からの指示も間に合わない一瞬で理解して行動しなくては。
「何が出る?」
防戦重視の戦い。
とはいえ押され気味。
「ほい、ほい、ほい」
何というか、手元がほかの場所より揺らいでるんだよなぁ。
これが私から見えてるってことは、さっきのやつは完全にどこから見ても隠せるように魔法を使ってたってことか。
「くっ、どう見るか……」
そのまま防御を続けるリック。
彼の魔法を見切るのが先か、押し切られるのが先か、はたまた別の何かで状況が変わるか。
「っち、なまくらだな、これは」
「なんでそんな質の悪いの持って来てたんだ?」
「この程度しか手元になかった、昨日も朝も折ってしまった」
あ、刀にひび入ってる。
「うわぁ…」
マリルが引いてる。不味いよなぁ……あれ。
と、ついに体をかすめる。
「リック…!」
まだかすっただけだけど、明らかにどちらが不利だったのかがわかってしまった。
「まだ余裕だね」
逆転の目を待つしかなさそうだ。
さらに攻防を繰り返す。
刀のひびはもう限界で、体も所々から血が出ている。
あと、なぜかちょくちょく目が合う。
「っ!!………………………っくく、ははあぁっ!」
「馬鹿だろおまえ」
急に笑い出して、そのせいでその刀をもろに左腕に受けた。
「ふはは!!」
左腕で相手の腕ごとからめとる。後なんだその笑い。
「おまえの刀がまだ見えない、ついている血さえまだ見えない!」
「てめっ、反則……、どころじゃ、…………………」
あらまぁ。
「先に反則をしたのは貴様だろう…なぁ?」
「クソが!殺す!我的意图告诉自己如何使用仙魔源(我が意思は我自身に妖精の魔法の使い方を知らせる)」
叫べ。
「リック!!」
「………うん!!我的意图告诉自己如何使用仙魔源(我が意思は我自身に妖精の魔法の使い方を知らせる)。
仙魔源、妖怪火焰(妖精の魔力、妖怪の炎)」
私がけしかけたみたいになってるけど何をする気なんだかまるでわからない。
「マリル、もし加速するようなら指示する。だから魔法を使うことだけ考えておいて」
「わかった」
なんか使う気だ。マリルが世界樹に覚えてもらってる魔法はなんだろうね。
「そういえば、アルマおねえちゃんにいってなかった?」
「うん?あー、世界樹様に覚えてもらった魔法?」
「別にいいよ、すでに唱えてない時点で用意したことくらいわかるし」
内容をこそ気にしてました。
「内容……」
「どーせ聞いてもわかんにゃーい」
「あ、うん」
しょせんそんなもんよ。
「見なよ、来る」
先ほど聴きそびれた詠唱は意訳だけ置いておこう。
―――悪。我は正しい。罪。我は優しい。酷。我は暖かい。我こそが正義。我こそが秩序。そうであるならば手に入るはずだ。望むものがすべて。しかし、我はそうではない。故に己を作る。本物の我は隠れる。
―――妖精の魔力、妖怪の炎。我は汝。汝の鏡。すべて見る。すべて映す。我は神に命令する。世界を見せろ。人を見せろ。すべてを見せろ。
うーん、何だこれ。
「見えないなぁ」
「未来?」
「ううん。それと何もしなくても、あいつは逃げられないで済む」
「わかった」
……多分、見えてる。
「だから、終わり」
視線の先では、見えない首が斬り落とされた。




