詩の月の微差
◎視点 アルマ・アローラ
卯の神殿 食堂
まだ前のマリル視点より前
大変なことになっています。
「申し訳ない!」
「……」
よく考えましょう。
先ほどの件って、見たのはフォリックだけじゃないんだよ。そりゃそうだ。だってあの隠密監視特化虫で観察するのはトロワだもんよ。
どうやらほかとは違い接続を切れないらしく、勝手に情報が入ってくるとか。
それで見えてしまったわけだけど、水の上にいる蜘蛛を動かせるわけもなく、タオルをかぶせてもらおうと思った。
しかし伝えるのにはどうすれば以下略でさっきの事態だ。
「本当に、申し訳ない」
「………う」
クアーロちゃんは何が言いたいんだとか思うけど気にしてはいけない。私にはもう関係ないで済まさせていただこう。
「……どうすればいいかなぁ」
「あはは…むーりー、かなぁ?」
フォリックと蚊帳の外状態で話しながら、ご飯を食べる。
ってか何だろうねこれ、おいしい。
「ヤッホー、エニカです」
「急だね?」
「その串焼き肉は鹿肉だ、だそうです」
「ほう。へー、ありがと」
鹿、ねぇ…。
「………」
ふと目に入ったのはトロワをじーっと見つめるクアーロちゃんの従者。こわひ。
……狼って鹿と関係ないよね?
「居心地が…」
「フォリック?気にしすぎじゃない」
「アルマは気にしなさすぎなのよ」
あ、校長。
「フィーアさんもう終わったの?」
「ええ、やっぱり私には起動はできそうになかったけど、仕組みは把握できた、明日には起動してもらおうかしら」
「承知しました」
はて、シャメルさんはどこだろう?
「そういえばあなたの娘さんは?」
あ、クリスさん。食べ方がすごく丁寧だわ。
「見回りだろう、もう今日は泊まりだろうと見切りつけられたのだろうさ」
ならさっきの伝言は何だったんだ…。
「私の苦戦っぷりがばれてたのね…」
「シャメルの反応なしでは私もわからなかったな」
あ、シャメルのお父さんがフィーアさんの隣に座って話し始めた。
「そうだったのですか?」
「内容の調査自体は進んでいたようだからね、まさか起動も試みてるとは思わなかったよ」
あ、別の肉も来た。おいしそー。
「やってみなくてはね、私は空前の空間魔術の使い手と言われてるだけの誇りはあります」
「私は、ね…」
おいしい。こっちの話が気になるのもあるので、無言でサムズアップ。超うめぇぞ!的な。
「フンフこそ強さには自信があるようですが、ツェーンはあまりその力を認めたがりませんし、エルフに至っては何も考えていません。やはりああいう流行りに乗るだけの女は………っと、失礼、私怨を込めるのはよくないですね」
「はは…言ってしまったことは気にしなくていいよ、しかし彼女がシャメルより使っていなかったの事実なのだろうね」
なんかここにいない人がひどく馬鹿にされてるんですけど。そんなことよりお肉おいしい!
「私ももう食べるー」
「ほれ食え食えー」
さっきから残ってたエニカの分を皿にまとめて渡す。
「ん、ん!うまい!」
ぐっ!
さて私は…あ、これまたぶっ倒れるやつだ。意識が、遠、く……。
◎日の出の少し前(花の月13日)
「………朝までぶっ倒れた、だと?」
エニカが近くに焚いたたき火にあたっていた。
「あ、起きた。おはよー、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
寝てたのか気絶してたのか。とりあえず中央のベンチで毛布にくるまってた。
「朝というのは少し早いかなぁ…」
「そうなんだ」
「あと、私は見張り。もう変わろうかな、お次は…ミェラか。呼んでくる」
エニカは立ち上がり周りを見渡す。多分トロワの監視してる虫くらいしか見えなかっただろう。
「そっか、お休みなさい」
「うん、おやすみする」
今更だがパインを気にするべきだったのではと反省している。
「まぁ、大丈夫な気しかしないんだけど」
「何がでしょうか?」
「はっや!?」
ミェラさん来るのはやい!
「お話ししましょうか?」
「うん、そうしよう」
この人は…何というか、人間味にあふれる言動を心がけている印象。
「未来に何が見えますか?」
えっと………ちょっとまってね。
(大量の情報が襲ってくる!!)
頭痛い。思加魔法忘れた。
「どうもまた勘で動かれたみたいでさ、お父さんはすごいや」
「あら?何があったのでしょう?」
「マリルに何か秘密の話をしたみたい、何だろう?」
何の話かもわからずに読み解くのは難しいんだよなぁ。勘が効いても察しが悪いものでね。
「何でしょうね…」
苦笑された。当然だよね、わからないよね。
「わからないんだよね、どうしても。何を抱えているかずっと読み解けなかったし、今、わかりそうなんだ」
「あらあら、それはそれは」
嬉しそうだね。手を合わせる仕草はそういう意図だろう。
「ありがとね」
「え、っと、何のことでしょう?」
特に考えてその仕草をしたわけではないのか。うーん、わからん!
「あら…お休みになります?」
「いいや、もう朝ご飯作ろうかなって」
お腹すいてきたかも。それにここだとみんな朝早いでしょうし。
「あら、お料理ができますの?」
「ちょっとくらいはね。お母さんお姫様だからかあんまりお料理は出来なかったし」
「あらまぁ…と、そもそも王城暮らしではありませんでしたわね」
「うん、そうそう」
もはや忘れそうだが、私は今女王なのだ。なんで走り回ってんだろうね。
「日が出たら皆を起こしますわね」
「お願いしまーす」
「ふふ、素直ねぇ」
てへ?
さーて、何を作るべきかと思ったけど朝何作るかもうきっちり書いてあった。料理本を見ながら作っていたそう。
そりゃあ、野生の肉はきっちり調理しないといけないけども。
「出来るかなぁー?」
ミェラに言われたような理由で、しばらく料理してないし。
ぜーったいこれむずいし。
◎視点 マリル・アローラ
朝早く
あり得ないものを見た。たくさんの女の人。その中にいた一人の男の人。なんか…、近づいてはいけない気がした。
彼らに飲み込まれる。というか食べ尽くされる。お料理しないの?いやいや、私をお料理して欲しくないけどね!?
「あれは?」
「白銀人だ。二回呼ばれたうちの一度目に呼ばれた人のひとり、後で俺は会いに行くつもりだが…」
「だめ!なんか、それはだめ!ぜーったいに!」
お父さんだけだとなんかだめ。
「とはいえ、おまえを連れて行くわけにはいかねぇぞ?」
「そうだけど、そうだけど!」
なんか怖い。というか怒られる。
「安心して、フィーアも行くし。こういうときは頼りになるよ、私はいつも通り、いてもいないようなものだけど」
ノインさん…。
「………うん、ありがとう」
「さっさと朝飯食うぞ」
「うん!」
お父さんはこういうときもいつも通りなんだなぁ。
◎視点 パイン・アローラ
笑劇のオチ
………………わー、たいへん。
「…もう一日漬ければよりおいしくなるでしょう、ちゃんと衛生面は気を遣いましたし」
「なんか……ごめんね?」
「いえ、いいんですよ?困惑しただけで作っていただけたのはうれしいですし」
おにくのしょりおえて、つけつけしてあったのに。
アルマおねえちゃんったら、きづかなくて1からりょうりしちゃってた。
「アルマおねえちゃん、あさごはん!」
「うん、食べよう!」
「わーい!」
「さて、……寝てる人起こしてきましょう、そこの……ホロフ?」
「承知した、お嬢様は私にお任せくだされ」
「まぁそれはいいけれど」
ふおん、だね。へんたいのへーたいさん、じぶんとたたかう。
◎視点 アルマ・アローラ
なんか少しだけ嫌な気配がしたが…大丈夫だろう。
やっぱりこの人なんかやばい衝動抱えてるよ。ずっとこらえてるけど。
「みんなまだかなー」
「まだかなー」
姉妹らしいやりとりをしながら待つ。なんかあるよね、こんなやりとり。
なんか心地いいんだよこれ。パインはオウム返しのようなやりとりが好きらしくよくやる印象。
「おやよー!」
「はいはいおはよー」
「お早いです」
「まぁ寝てたってより気絶してただけだし」
かみかみ状態な寝ぼけエニカと、語源知ってないと関係ないこといってるようにも聞こえるトロワ。
「おはようございます、お腹が空きましたわ」
「おはようござい」
なんか平坦な口調になっているミリャさんと、くらくらなシャメルのお父さんが来た。
「すまんな、親父」
「大丈夫ですか?」
シャメルとクアーロちゃんが運んでいる。
「はは……これじゃだめだね。戦力にはなれない」
はぁ?
「どういう意味よ?」
「君たちの敵が少なくとも一人いる。そちらは敵対する必要もなくなっているが、はてさて、まだいると思うけどねぇ」
不穏すぎる。敵?そんな明確に断言できる敵が、いるの?
「みんなはやくすわって!ごはんたべようよ!」
あら、パインが怒った。
「おにいさんだいじょーぶ?」
おにいさん、だと……っ~。
「一応大丈夫さ。……アルマ君、笑わないでくれ」
「くっ、ごめ、ごめごめん、なさい、こほこほ」
笑うしかないでしょこれ!?
あー、笑った。
「みんな席に着いたね。じゃ、いただきまーす。みなさまもどーぞ」
食べる。うまい!
◎食事中の雑談はカットにゃ。
食べた。こういうのもいいね。問題なく調理できてよかった。
「では行きましょうか?」
「お願いしますね」
魔法が唱えられるでもなく、この建物全体から月明かりのように光が現れる。
「対象設定が必要です。皆さんの荷物をお教えください」
みんなが教えた。ちなみに私はポーチに魔法で無理矢理詰め込んでいます。
「では、参りますよ!神よ、今そちらに!」
フォリックその辺の話けっこう気にしてるのね。
とか考えてるうちに浮遊感と倦怠感。ケンタイカンって堅苦しい感じがするね。要はだるーん、ってこ
◎世界樹の森 大木の本陣森
隠れ里ケイブ 卯の陣符GF
とでいいのかな?
……いつの間にかついてた。
「きれい…」
「きらきら…」
今私たちは幻想的な雰囲気のドームのなかにいる。
生きた木々によって編まれたドームは、かすかに外の光を通し、風に揺れ光をまたかかせる。違う。瞬かせる。真面目に言葉を使うのは難しすぎる。
「……どこから出るのでしょう?」
「あ、みつけた!下だー!」
フォリックと肩を並べて下を見る。
「これはここを動かすのかな?」
「先にこちらでは?」
あ、簡単に説明すると床が魔方陣を作るパズルみたいになってる。
「こっちこうまとめるのがテンプレだからそう言ったんだけど…そっちにしてどうするの?」
「割とすぐに左端列以外そろいます」
「空くの右なんだけど……まぁいっか?いったん寄せてから回せば」
単純なスライドパズルなので二人で回してささっと完成。妖術ではなく魔術なので私が起動させる。
独特な感覚。魔法を使うというより魔力とかを吸われてる感じ。
「二人のどちらかがいないと出られないのか…」
困惑してる。
「そとだー!」
おお、確かに外だ。
「よう、案外遅いじゃねぇの」
あ、あほとさん。
「ぶふっ」
シャメル吹き出すな。
「何をやっているのやら。それより…ズィーベン、起きろ」
「……ああ、済まない。もう来たのか」
「そりゃ急ぎもするだろ?」
どういうことだろうと思ったけど、多分私だな。無意識に何かを見てる。
「お待ちしておりました」
見えるのは、一人のメイド…かな?露出度が高いんだけど。
「早く行こう、あいつらはもうついてる」
「どこへ向かうのですか?」
「栗鼠神獣にやられた一人…かな」
「ふむふむ」
え、それすっごい嫌なんだけど。フィロソフィアの家系を思い出す。
なんとなくパインを抱っこして向かう。おっも!?
「ちょっとまって、こわいよ?」
「え」
「おちそう」
あー、ごめん。やっぱり下ろして、大人しく向かうことにします。
このときの微かなずれは、巡り巡って今日を大きく書き換える。
ノブレスオブリージュ。高貴なものにはそれ相応に義務が与えられる。
私が強者だとしたら、何が義務だ?何を求められる?それは答えの出ない問い。出す必要のない問い。
「なぁ、「血が呪いなのは、なにも生物学的な理由だけではないではないか?」と尋ねた者であるところだが、これは呪いではなく救いなのではないか?」
本格的に自分の言葉でなくなり始めたこの頃です。




