表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

第一話

イジメ描写があります




私はクラスで一番可愛い。

だからみんな私が大好き、私の言うことはなんでも聞く。


「あの先生、気持ち悪いわね」


みんなはその先生の授業を真面目に聞かなくなった、紙屑を投げつけた。


「隣のクラスの田中、あいつ嫌いよ」


私にぶつかって謝らなかった田中はしばらくすると不登校になった。



私は女王様。

このクラスで一番偉い、だから私の好きな人は私のもの。

みんな私が好きなんだから、その人も私を好きに決まっている。

そう思っていたのに、その人は私じゃない人と付き合い始めた。




始業のチャイムが鳴る。

ガヤガヤと騒ぎながら席につく生徒達、注意をしながら教壇に登る教師。


教室の隅に一人立っている女子生徒の名前は釘谷(くぎや)カナ。

彼女はどうして自分の席がないのか、どうして教師はそれを見て見ぬふりをするのか。

カナには分からない。


「あ、あの! 先生、私の席が……」


朝、教室に入ると自分の机が消えていた。

カナには何故か分からない。教師は何も答えない。


「釘谷さーん、席がないならこっち来なさいよ」


そうカナに声をかけたのは、容姿端麗な女子生徒。

彼女の名前は優利谷(ゆりたに)アイ。

この学校に多額の寄付をしている富豪の一人娘だ。


「…………優利谷さん」


「どうしたの? 来なさいよ」


アイはカナに手招きをしながら、その鋭いつり目で睨みつける。

アイはこのクラスの女王様、自分の思い通りにならないことが何よりも嫌い。

カナは知っている。アイが社会科の先生を離職させたことを。アイが隣のクラスの田中君を虐めさせたことを。その両方にアイが直接手を出していないことを。


「し、失礼します……」


カナはアイの隣に立ち、アイの顔色を伺う。アイは驚くほどに上機嫌だった。

カナはそっと床に膝立ちになった。


「ふふっ……釘谷さん、教科書やノートはどうしたのかしら」


「…………机ごと、無くなってました」


同級生に敬語なんて使う必要はないのに、カナはアイが自分を虐めるよう言ったのではないかと疑っているのに、カナは引き攣った笑顔をアイに向けた。


「あら……可哀想、どこにいったのかしらねぇ」


くつくつと笑うアイを怒鳴りたくなる気持ちを抑えて、カナは当たり障りのない言葉を返す。

すると、アイの手がカナの頭に置かれた。


「綺麗な髪してるわね、彼はこれを気に入ったのかしら」


それを聞いてカナは虐められる理由を察した。

昨日、校舎裏に呼び出されて、告白された。

それは隣のクラスの男子で、学年で一番の人気者だった。

カナは二つ返事で、その日は彼と手を繋いで帰った。

きっとそれを見られたんだ、アイは彼が好きだったんだ。カナはそう確信した。


「……優利谷さんの方が、綺麗、ですよ」


「あら! 嬉しい……」


アイの笑みが深くなり、カナの髪を撫で始めた。

カナはいつ髪を掴まれるか、切られるか、ちぎられるか、気が気でなかった。

けれどアイはカナの怯えも気にせず、カナの髪にキスをした。


「本当に綺麗な髪……ふふっ、ここにキスしたのは私が初めてじゃない? 彼とはもうしたの?」


「しっ、してませんよ」


「口にも?」


「……昨日、付き合ったばかりで、そんなっ……」


「あら、純情。可愛いわぁ」


アイの妖艶な笑みに、カナは寒気を覚えた。

何を考えているのか分からない、どうせなら髪を切って殴ったりでもしてきた方がまだやりやすい。



怯えているうちに、チャイムが鳴る。

カナはアイに怯えて、教科書もノートもなくて、授業を受けることが出来なかった。


「終わったわね。さ、釘谷さん……」


「ご、ごめんなさい! 私、トイレ!」


「お手洗いなら私も一緒に……あら、行っちゃった」


アイは手に残ったカナの髪の感触を思い出し、自分の手に頬擦りをする。


「うふふっ……可愛い可愛い私のカナ……綺麗なんて、嬉しいわ。なのにどうして男なんかと付き合うのよ、あなたは私の……私のカナ。うふふふっ」


アイは昨日、カナを観察していた。

それはアイの日課だ。肉眼での観察は家に帰るまでで、カナが家に帰るとアイは仕掛けておいたカメラの映像を見る。

昨日はいつも真っ直ぐに家に帰るカナが校舎裏に向かった。

アイは嫌な予感を振り払って、物陰に潜んだ。

そして見た、学年一の人気者だとかいうくだらない男に告白されて、顔を赤らめるカナを。

あの顔は私に向けられるはずだった、そうでなくては許されなかった。

アイはその場で放心して、お抱えの運転手が彼女を見つけるまでその場に座り込んでいた。


「ねぇみんな、聞いてほしいの。カナの彼氏……私、気に入らないのよ」


その言葉に先程まで賑やかだった教室が静まり返る。

アイはそれ以上何も言わず、ゆっくりと一人一人を見つめていった。

やがて生徒達はひそひそと相談を始める。学年一の人気者をどうやって貶めるか──






カナは本当にトイレに行きたい訳ではなかった、アイから逃げる為の方便だ。

誰かに見られて嘘だと報告されないよう、一応トイレには向かっているけれど。


「……どこ、どこ?」


早足で歩きながら、カナは昨日付き合い始めたばかりの彼氏を探す。

虐められているかもしれないと相談したかった。

だが、結局彼は見つからず、カナは仕方なく女子トイレで時間を潰すことにした。


「…………嘘、何これ」


カナは自分の机と椅子を見つけた。

机と椅子は水浸しにされて、教科書やノートはトイレの床に散乱して、破られているものまであった。


「ひどい……私、私が悪いんじゃないのに」


選ばれなかったのはアイなのに。

カナはアイが好きなのが彼だと思い込んだまま、僻みで虐めを始めたアイを心の中で非難した。


「これじゃ使えないよ……」


教科書にもノートにも踏まれた跡がある、便器に突っ込まれているものまであった。

カナは泣きたくなる気持ちを抑えて、これをどうするべきか考えた。

先生に相談したって無駄だ、先の授業で分かった。アイはお金持ちのお嬢様だから、先生だってアイには逆らえない。


「……どうしよう」


だったら両親に相談したって無駄だ。相手がアイでなくたって、カナの両親はカナの為には動かない。そういう人達なのだ。


「とにかく、片付けないと」


素手では触りたくない、掃除用のトングに手を伸ばす──が、チャイムが鳴った。

どうせ使えないびしょ濡れの机と椅子、破れ汚れた教科書とノート。

カナは片付けよりも授業を優先した。




カナはまたアイの隣にいた。休み時間に用意されたらしい正方形の小さな絨毯の上に膝立ちになっていた。


「さっきはごめんなさいね、痛かったでしょう。ふわふわの絨毯を用意したわ、気に入ってくれたかしら?」


「……私の椅子は?」


「あら、やっぱり椅子がいいのね。なら次の休み時間に用意するわ」


させる、の間違いだろう。なんて言いたくなる口を押さえ、カナは必死に黒板を見つめる。

アイはそれが面白くない、カナは自分に夢中にならなければならないのに。


「さっきは髪を褒めたけれど、髪だけじゃないのよ? あなたは全身とっても綺麗なの……肌も何もかも、とても美しいわ」


アイはカナの視線が欲しくて、甘い言葉をかける。

頬を手の甲で撫で、そのまま手を下に……首を撫で、耳を指で挟んだ。


「小さな耳、ピアス穴は開けているのかしら」


開いていない事は知っている、ずっと観察していたのだから。


「……開けてません」


けれど、質問でもしなければカナの意識はアイに向かない。

だからアイは質問をし続けた。


「綺麗な肌ね、何を使っているのかしら」


「……安物の石鹸です、百均で売ってるような」


その答えだってアイは知っていた、カメラは風呂場にも仕掛けている。

カナの美しい白い肢体を毎日堪能している。

だが触れるのは初めてだ、想像以上のきめ細かな肌にはアイも驚いていた。


「あなたの目、確か薄い灰色だったわね。見せてもらえる?」


「……今、授業中だから」


「見せてくれないの? そう、なら休み時間になったら見せてちょうだいね」


カナでなかったら激怒していた。だがカナだったから、真面目なカナは可愛いという感想が浮かぶだけで済んだ。

アイはその授業時間中ずっとカナの髪や顔を撫で回していた。

カナはそれに抵抗せず、不快感を押し隠して撫でられていた。


「終わったわね。さ、釘谷さん……」


カナは礼が終わってすぐに駆け出し、アイが言葉を紡ぐ前に教室を出ていった。

アイはそれに残念そうな顔をして、クラスの女子を呼び集める。


「あんまり酷いことはしないでね。でも、優しすぎてもダメよ?」


傷はつけず、肉体よりも精神をメインに痛めつけろ。

アイはそれを別の言葉で彼女達に伝える。

少しずつ少しずつ弱らせて、カナを手に入れる為に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ