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6-7 流れきたものたち2

 まずはオルフェには先に戻ってもらい、ククノチ、アマツとともに水の用意をするようお願いした。

 俺とコアさんは彼らの準備が整うのを待つ。


「コアさん彼女の言った事についてどう思う?」

「ある程度信用していいと思う。ただ、あの集団の総意ではないみたいだね」

「コアさんもあいつのつぶやき聞こえてたのか」

「バッチリね」


 遠目に見える集団を視界に入れながら、コアさんと印象について話し合う。

 今はまだ、お互いに探り探りといったところか。


「まぁ、不穏な動きを見せたら排除するだけだ。それよりもあいつらが日本語を話してきたことにビックリしたんだが、なんでだろうな?」

「それは相手に聞けばいいんじゃない?」

「そうだな、念願の話が通じる相手が来たんだ。むしろ日本語を話してきたことに喜ぶべきだな」


 余計な知識の強化をせずに済んだわけだし。

 コアさんと今後どう動くかを相談してる間に、相手も準備ができたようでゆっくりこちらに向かってきた。 

 

「お待たせしました」

「では、行きましょう。あそこにある岩山の中に我々の住処があります」


 集団を先導し、俺たちが住むダンジョンへと歩みを進める。

 岩山のトンネルに入り、少し進んだところにある入り口のポータルをくぐれば、そこはもうウチのテリトリーである。


 おぼろげな魔法の光が照らす岩肌の防衛エリアに入り、一息つく。

 太陽が照り付け暑い外と違って、ここは気候が制御されているから過ごしやすい。 


 さらに見た目は洞窟風だが、ダンジョン保全機能があるので実はホコリもない清潔な空間である。

 とはいえ、見た目が見た目だし何より300人以上が入るので、入り口付近を広げて回りを石壁に変えてみた。 

 これだけで洞窟風のダンジョンが遺跡風のダンジョンになる。模様替えも時にはいいもんだ。


 後ろのポータルからはコアさんに先導されて続々と人が入ってきているが、俺とマナミさんはさらに奥に歩みを進め、水を用意して待機していた3人と合流する。


「主さんおかえりー」

「ああ、アマツ早速で悪いが水を彼らに、ククノチは健康状態のチェック。オルフェは連中の家畜の状態をみてやってくれ」

「はーい」


 ヒーラーとしてのプライドからか、書庫を出してからククノチは医術の勉強をしている。

 まだ勉強を始めて日は浅いが、簡単な健康状態を見るくらいならできるだろう。


「重ねがさねすまないねぇ」

「これくらいは気にするな」


 俺の横に立っていたマナミさんがフードを取りながら、改めてこちらに礼を述べる。ここに来る間にも軽く会話を重ねたが、お互いに形式ばった話し方は苦手という事で敬語はなくなった。やっぱりこっちの方が何かと楽でいいわ。

 

 頭からフードが後ろにずり落ち、アッシュグレーの髪と人の物ではない耳が姿を現す。

 ピンと立ってるコアさんと違いやや垂れてるこの耳は……イヌミミかな?

 召喚したモンスターではない生のイヌミミ獣人である。すばらしい!


 見えた顔は予想した通りまだ若い女性のもの、二重まぶたに整った顔立ちと下地は十分美人なんだが

 疲労に加え栄養状態も悪いのか、少しやつれた頬に目の下に少々目立つクマがある。


 集団のほうも荷物を下ろしたり座り込んだりとくつろぎ始め、フードとマントをぬいで横になっているものもいる。

 比率としては圧倒的に女性子供が多い……いや、違うな。家族構成を考えると成人男性が少ないんだ。


「さて、あたいに聞きたいことがあるんだろ? ちょっと場所を変えて話の続きといこうじゃないか」

「ん? あんたは休まなくていいのか? 後でもいいんだぞ」

「こっちも食料の交渉がまだだからねぇ、族長代理としては休んでられないさ」


 たくましいな、そういう人は嫌いじゃない。


「オッケー、じゃあ早速会談といこう。コアさんもまざってくれ」

「話が早くて助かるよ。アイリ! あんたも参加しとくれ」

「はい、姉さま」


 マナミさんの掛け声に反応し、同族の介抱をしていた一人の女性が立ち上がりこちらに向かってくる。


「こいつはアイリ。あたいの妹さね」

「アイリと申します。どうぞよろしくお願いします」


 深々と頭を下げるアイリさん。この子もやつれた顔が痛々しい。

 なんとかしてやりたい気持ちがわくが、食べ物はこっちにも限りがあるからなぁ。


「じゃあ、向こうに会談ができる場所を用意します。ククノチ、オルフェ、アマツ、ここは頼んだ」

「みんな! 今のうちにしっかり体をやすめとくんだよ!」


 そう言い残し、俺とコアさん、それにマナミさんとアイリさんはその場を後にする。

 集団から見えない位置まで歩いた後、ダンジョン操作を行い座敷につながるポータルを一時的に作ってみた。


「この奥に会談ができる部屋があります。どうぞ」

「”聖域”ってこんな事もできたんだねぇ」


 目の前にできたポータルを見てマナミさんがポツリとつぶやく。

 聖域ねぇ。外の世界だとダンジョンは何か違う認識だったのかな?

 またひとつ聞きたい事が増えたが、これは後でもいいだろう。


「へぇ、これはまた雰囲気が違う部屋だねぇ」

「この床、初めて見ます。これは……何かの草を編んだものですか?」


 座敷に入るなりポツリと感想をもらす二人。

 特にアイリさんはその場に座ってタタミを触りだす。


「じゅうたんとはまた違った手触りですね」


 まぁ、このタタミはダンジョン設定でだしたまがいもんなんだけど。

 

「これはタタミと言いまして タタミにあがる時はこのように靴を脱いであがってください」

「はいよ。……ほらアイリ、いつまで触ってんだい?」 

「あっ、すみません……」


 マナミさんが靴を脱いでなお、タタミを触り続けていたアイリさんをうながすと、アイリさんはうつむいたまま靴を脱ぎ、マナミさんの隣りにちょこんと座った。

 恥ずかしそうに少しペタンとしているイヌミミがかわいらしい。


「ははは、すまないねぇ。この子は政務はからっきしだったけど、織物に関しては右に出るものはいないほどの腕前なんだよ」

「そういえば、さっきマナミさんは族長代理って言ってましたね」

「そうさね、その辺も含めてどこから話そうかねぇ」


 マナミさんは目を泳がせながら考えだし、ふっと気が付いたようにこちらに視線を戻し、


「ところであんたのツレはさっきから姿が見えないけど、どこに行ったんだい?」

「ああ、コアさんなら――」

「お茶を取りに行ってたのさ」


 おぼんに人数分のコップを乗せたコアさんが、ダイニングルームにつながるポータルからちょうど出てきた。


「会談の前にこちらをどうぞ、お口に合えばいいけどね」

「ほのかな香りだけでもこれが上物ってのがわかるよ。ちょうど喉がカラカラでね、ありがたくいただくよ」

「いただきます」


 そういえば俺もオルフェとのスパーリング中にこんな事態になったから、まだ水分補給してなかったわ。

 目の前に置かれたコップを手に取り、一息に飲む。


 くぁ~、うまい! 五臓六腑にしみわたるわー。


「おいしい」


 一口飲んでぽつりを感想をもらすアイリさん。


「くぅ~、しみわたるねぇ!」


 逆に俺と同じく一気に飲み干し、コップをテーブルに叩きつけるように置いたマナミさん。ビールとか似合いそう。

 なんていうか姿は似てるのに、えらく対称的な性格を持つ姉妹だなぁ。

 

「実においしかったよ、このお茶はどこで仕入れたものなんだい?」

「これはウチで育てている茶葉を、何種類か混ぜて淹れたお茶だよ」


 コアさんは事もなげに言っているが、その裏には相当数の失敗が重ねられて作られた、コアさん渾身のお茶である。

 もちろんこれ1つだけではなく、何種類かの合茶が作られていて、俺たちの間では「コアブレンド」と呼称されているんだが……


 このコアブレンド、コアさんの食材鑑定の能力により、安眠をうながすものなど、一つ一つにちょっとした効果があったりする。

 今回出されたのは3号だな。効果は確か……リラックスにより警戒心を緩め、ちょっとだけ饒舌(じょうぜつ)になるんだったかな? 


「さて、喉もうるおったし、始めようじゃないか。」


 コアさんが俺の隣りに座ったのを見て、マナミさんが先をうながす。

 こちらとしてもできるだけ外の世界の情報はほしい。居住まいを正して臨むことにしよう。  

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