6-6 流れ来たものたち
「ご主人、今日もよろしくねー」
「ああ、オルフェ。今日もがっつり頼むぞ」
照りつける太陽の元、もはや日課になりつつあるオルフェとのスパーリングのために荒野の大地に立つ。
久しぶりの太陽の光は俺には暑いが、オルフェはケロッとしている。さすが馬頭。
ダンジョン内と違って気温はやや高いが、日本と違って蒸し暑さがないので運動をするには適してるといえよう。
まぁ、これもしょうがない。今まで草原エリアでスパーリングしていたが、俺とオルフェの力が強くなったせいか、オルフェの蹴りを受け止めた時にでる振動やなんやらで、鶏や豚がビビりだしてストレスになっているらしい。
それなら訓練用のエリアを出そうかと考えていたが、よくよく思い出してみればダンジョンの外ははて無き荒野。ここならどんなに壊しても問題ない。
いつも通り軽い柔軟をしたあと、オルフェと組手を行う。最初こそオルフェも特殊障壁に戸惑っていたが、最近はしっかり対応してきている。いいことだ。
組手とはいえお互いがお互いを出し抜こうと、もてる限りの手札を使って戦い抜く。
オルフェももはや素人ではない。フェイント、フットワークにカウンター、投げ技などなど、あらゆる手段を使ってくる。
その激しい攻撃をさまざまな特殊障壁をおりまぜてさばく!
さばいてさばきまくって……
ん?
オルフェの後ろ、はるか地平線のかなたに岩ではない何かが見えた気がした。
「オルフェ! いったんストップ!」
「えっ!?」
俺の声に反応し、オルフェが動きを止める。
「ご主人ー。突然どうしたのぉー?」
「あっちを見てくれ、何かいる」
「え?」
オルフェは俺が指をさした方角、ちょうど反対側を振り向く。
「んー? なんか人の集団ぽく見えるよぉ?」
進化して目もよくなったが、さらに目がいいオルフェは大体何かまで見えたようだ。
それにしても人の集団か。でもなぁ、人の集団って言っても今まで来たのはゴブリンに筋狼族と敵ばかり。むしろ味方だったためしがない。
だが、今回も敵と決めてかかるのも早計か。
「んー。こっちに近づいてきてるかなぁ?」
目を凝らしながらオルフェがつぶやく。先ほどより距離が近づいたからか、俺にもなんとなーく人型っぽいのがわかる。こりゃ、相手さんもこっちに気づいたな。気づいた上でこっちに近づいてくる。
「コアさん。今すぐダンジョンの外に来てくれ。見知らぬ集団が近づいてきてる」
「ん、わかったよ。すぐいく」
「あ、戦闘にそなえて俺の新しい”弓矢”をもってきてくれないか?」
「マスターの新しい弓矢というと……ああ、あれだね。わかった、急いでもっていくよ」
念話でコアさんを呼び出した後、改めて近づいてくる集団をよく見る。
荒地を行軍するためかマントとフードを深くかぶっているため、容姿はまったくわからない。
しかし……数が多いなぁ。軽く見積もっても300以上はいる。馬車や荷車も見えるな。
何を積んでるのかはわからない。最悪、あいつらが軍隊でケンカを売られる可能性もある。
なんでここに来るのかは知らんけど……
「マスター、待たせたね。集団って言うのはあれだね?」
「あ、ああそうだ」
おっと、堂々巡りに入りそうだったが、コアさんの呼びかけで我に返る。
ダンジョンから来てくれたコアさんが弓矢を俺に手渡す。
オルフェとのスパーで時々忘れそうになるが、俺は元々弓手ポジションなんだよな。
まぁ、おかげで相手の攻撃を避けながら矢を撃つとかいう芸当もできるようになったが……
「あいつら何かわかるかい?」
「んー。顔が隠れてるからわからないね」
「そうかぁ、話が通じればいいんだけど、無理だよなぁ」
コアさんはゴブリンの言葉がわかり、俺は知識の強化で筋狼族の言葉がわかる。だがその2種族は話が通じなかった。
まず相手の種族がわからないと言語もわからないからなぁ、種族さえわかれば知識の強化が使える。
ボディランゲージでフードを取ってもらえるように伝わればいいけど。
「まぁ、なんとかなるんじゃない?」
「そんな軽く言われても、最悪あいつらと戦闘までありえるんだぞ?」
コアさんの方を向いた俺の視線を誘導するように、コアさんは指を集団の方に向け、
「そんな事よりほら、彼らが近づいてきたよ」
さされた方を向きなおせば、少し離れたところで集団が止まり、数人がこちらに向かってくるのが見えた。
さてさて、今回ははたして敵か味方か。
俺たちとは少し距離をあけて、先頭を歩いていたフードが立ち止まる。
それはいいけど、後方に控えるフードの何人からか敵視されてる感じがする。護衛なのかね?
「我々に戦う意思はありません。どうか初めに私の話を聞いてもらえませんか?」
!
先頭のフードは声からすれば若い女性。だが、問題はそこじゃない!
言葉がわかる! というか彼女が発したのは間違いなく日本語だ!? 何で!?
目を見開き、隣にいたコアさんに向けて首を勢いよく振る!
「私達も戦いは望んでないよ。そうだよねマスター?」
「あ、ああ。もちろんだ……です」
やべぇ、ちょっとパニくって変な返し方しちまった。
「それで、話と言うのはなんでしょうか?」
聞きたいことは山ほどあるが、先手は譲ろう。
「はい、我々は故郷を襲われてここまで逃げてきました。中には疲労が限界に達している者も少なくありません」
後ろの集団をちらりと視界に入れた後、続きをうながす。
「どうか我々に休息できる場所と少しばかりの食料を恵んでほしいのです。たいしたお礼はできませんが……」
なるほど、事情はわかった。ちらりと両隣にいるコアさんとオルフェの方を見る。
オルフェはやや同情気味の視線を俺に返し、コアさんはこちらに判断は任せるといった表情で見返してきた。
さてさて、考えなきゃいけない事は多い。
話の真贋。襲ってきた連中がいる事。休息できる場所。さらに食料か。
……。
「わかりました。私達が住んでる場所なら休憩もできるでしょう。ここは暑いので、まずは場所を移してから話の続きをしませんか?」
「あなた方の温情に感謝します。申し遅れましたが、私はマナミと申します」
そう言って深く頭を下げるフード、いやマナミさん。
別に温情を出したわけじゃない。荒地よりダンジョンの方が、仮に敵に回っても都合がいいだけだ。
弓から弦をはずし、ダンジョンのある方を指さす。
戦う意思がないときはこうするってどっかで読んだ事があるからね!
向こうも後ろの集団を呼びに行ったり、動きが慌ただしくなる。
だが……
「ちっ。運のいい奴らめ」
後ろのフードの一人がそう言ったのを、進化した俺の耳は聞き逃さなかった。
ついに外の世界の人が出た!
価値観を1から作らないといけないからたーいへん!
自粛要請中につき特別投稿。
でも毎回週2は私の執筆ペース的に無理!