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6-5 人をやめたらこうなった

 んん……

 消えていた意識と思考がだんだんハッキリしていくのがわかる。

 閉じていたまぶたをゆっくり開く。


 おや? 随分視界が奇麗になったな。こちらを見つめる4人の顔も、その奥にある脱衣所の入り口もしっかり見える。


「目覚めたね、気分はどうだい?」

「ああ、おはようさん。ガッツリ寝てさわやかに目覚めたような気分だね」


 ほほ笑むコアさんにこちらもほほ笑み返す。


「あれ? ご主人見た目がほとんど変わってないけど?」

「ん?」


 オルフェに指摘されて自分の体を見回し、手でいろんなところを触ってみる。

 お尻付近を触っても尻尾はないし、頭に触れてもケモミミはない。肌の色も人間と同じままだ。

 

「まぁ、そうだろうな」


 広角を上げた笑みを返してやる。


「それでご主人様は何に進化されたんですかー?」


 焦れたようにククノチが問いただす。そこまでためるものでもないか。


「ああ、俺が選んだのは”地仙”だ]


 地仙は仙人の一種で、簡単に言えば地上に住む仙人の事だな。所説だと徳を積んだりとか、いろいろなるために必要な修行があるらしいが、この世界だと単純に人間の進化系の一つという認識で問題ない。

 それが理由なのかは知らないが、必要DPに比べてかなり強くなれるのが決め手の一つになった。


「それに俺としては、外の世界とは無縁に生きたいという願いもこめてるんだ」


 俺たちはよそ者だからな。できるだけこちらの世界には干渉はしない方針なんだ。

 このダンジョン内で何不自由なく生活はできている。このままひっそり生きていきたい。


 とりあえず質問に答えていたが、突っ立っている理由もないのでテーブルの近くに座り、まだ残って居たチキンサラダを一口入れる。


 うん、うまい。


「ねぇねぇ、主さん。地仙っちゅーのになって何かかわったかや?」

「んー、そうだなぁ」


 先ほど確かめた通り、見た目の変化はない。だが、肉体自身は変わった自覚がある。

 今までDPで強化された分は、なんというかDPというパワードスーツで補助されているような感覚があった。

 だが、今はDPがもともと自分の物だったのかのようになじんでいる。


 それをふまえ、人間だった頃と一番違うのは……


「まぁ、やっぱこれかな?」


 てのひらを水平に広げ、みんなに見えるように球形の障壁を4つ出す。

 指を動かし、障壁の球をコロコロ転がして見せる。


「へぇー、マスターやるね」

「今までやろうと思ってもできなかったからな、コレ」


 簡単にやっているが、これの難易度は高い。”魔力で障壁を出し”、”球形に作り”、”それを4つ一度に”、”それぞれを指で動かす”を同時にやってるからな。

 コアさんはそれをわかっているようで、ちゃんと褒めてくれた。

 

「スムーズに魔力操作ができるようになったから、今まで思いついてもできなかった事ができる気がするよ」


 今まで障壁を出すのもなんか”魔法使うぞー!”って気負わないとできなかったんだが、今は呼吸をするように……というのはちょっと大げさだとしても、だいぶ自然に障壁を出すまでの魔力の流れを作れるようになっている。


「でも、ちょっと意外だったなぁ。ご主人だったら絶対ケモミミ獣人系を選ぶと思ってたのに」

「あ、それ私も思ってましたー。どうして選ばなかったんですかー?」

「ああ、それはなー」


 普段の俺の行動を見てたらもっともな疑問だと思う。いい機会だからこの際はっきりさせておこう。


「いいか! 俺はな、ケモミミ娘を愛でたいのであって、ケモミミ娘になりたいわけじゃない。そこんとこヨロシク!」


 もちろん性転換した上で獣人になるという選択肢もあったさ! でも、それは違うんだよ!

 ケモミミ娘達はもう俺の性分をわかっているのか”ああ、ですよねー”というような顔しかしていない。


「うん、まぁしばらくは進化してどうなったかいろいろ確かめるから。何かあったら手伝ってくれ」


 白けた空気を振り払うように宣言し、今日はお開きとなった。



 あれから数日、ついにリベンジする機会がやってきた!

 晴天の青空の下、優しい風が吹く草原で俺はオルフェと対峙する。


「ご主人ー? 今日は本気でもいいのぉ?」

「ああ、いいぞ って言ってやりたいが、一応最初は多少手加減してくれや」


 お互いに軽い柔軟をしながら会話する。

 身体能力、魔力制御などいろんなテストはしてみたが、防御力はまだやってない。正直オルフェの全力を生身で受け止めきれるかわからない。

 

「よし、そろそろ始めるか」

「うん」


 オルフェは返事をすると、前と同じように軽く左右にステップを……いや、違うな。左右にステップを踏む際に時々足を大きく後ろに下げている。

 ありゃカポエラのジンガステップか。俺も多少勉強したが、オルフェもこの数日の間にさらに技術を取り入れたようだな。


 草原にオルフェのステップ音が軽やかに響き、俺は不動の構えで迎え撃つ。


 オルフェが……動いた!

 直線的だった前回と違って、ジンガを交えてジグザグに動いて間を詰めてくる。

 蹴りの射程内に入ったオルフェは右足を踏み込み、軸にして左足を振り上げ後ろ回し蹴りを放つ!


 速い! が、反応できる! そのまま左腕で受ける!

 

「ぐぅっ!」


 鈍い衝撃が走り肺が押されて声が漏れ、痛みとしびれが左腕に走る!

 オルフェが蹴りを引っ込め、後ろに軽くステップし距離を取る。


 左腕をさすりながら指をグッパさせてみる。

 いまだに鈍い痛みはあるが、骨や神経に異常はない。


「どうやら、障壁なしで蹴りを受けても大ケガはしなさそうだ」

「ちょっと青くなってるけどそれだけだねぇ」


 服をめくった左腕を見てオルフェがつぶやく。


「今までだったら確実に骨折はしてたな。肉体的な防御力も上がってるようだ」


 これなら受けそこなって直撃しても、死ぬことはないだろう。多分。


「次は障壁も使うから、もう少し強くてもいいぞ」

「わかったよぉー」


 そして再びオルフェとの組手が始まる。今度は障壁を交えて攻撃をさばいていく。

 今までは5分打ち合えればマシな部類だったが、今はもう体感で20分はこえている。

 

 打ち込んでいるオルフェの顔に、少し焦りが混じっているのが見て取れた。 

 進化して強くなってるのがわかってるとはいえ、とつぜん相手がパワーアップしたことに戸惑っているのだろう。


 そろそろ、頃合いか。オルフェに驚いてもらおうかな。


 ――反射障壁(カウンターウォール)――

 

 心の中でそうつぶやき、オルフェの左ハイキックに合わせて障壁を張る。

 見た目は普通の障壁を張っているのと変わらない。オルフェは警戒せず蹴りを障壁に向け――


 障壁に左足が触れた瞬間、足が反対側に跳ね飛ばされる!


「ひゃっ!?」

 

 オルフェにとって予想外だったのだろう。悲鳴をあげ、バランスを崩し地面に倒れる。


「えっ!? えっ!? 何!?」


 オルフェに初めて土をつけてやった!

 起き上がることも忘れるくらい動揺しておる。

 

「はっはっは。驚いたか?」

「ねぇ! ご主人。今の何!?」


 オルフェに手をさし出して立たせてやると、オルフェは立ち上がるなり俺につめよってきた。


「普通だったら戦闘中は自分で考えろっていう所だが、今回は特別に教えてやろう。俺は進化をしたことで障壁に特殊能力をつけれるようになったのだ!」


 今までは障壁にテクスチャーを貼るのがせいぜいだったが、魔力操作の流れがスムーズになった事で、障壁に拡張能力をまぜれるようになったのだ!


「で、今おまえが蹴ったのは反射障壁って言ってな。触れたもののベクトルを反転させるんだ」

「ベクトル?」

「簡単に言うなら物の移動する向きの力の事だ。だから蹴りの速度が大きくなるほど、跳ね返す力も強くなる」

「なるほどぉ」

 

 説明を聞いてこくこくうなづくオルフェ。


「ここからは反射障壁を含めて、特殊障壁もバリバリ使っていくからな! おまえもこれからは対策を考えてスパーリングしていけよ!」

「むぅ~」

「おまえには搦め手(からめて)を使ってくる相手の対処をする訓練が必要だからな。ちょうどいいだろ?」

「わかったよぉー」 


 むくれていたが、説明に納得するオルフェ。

 俺も今後オルフェを相手にいろいろ試せるからウィンウィンだ!

 

主人公が地仙に進化!

 →いろんな部分がいろいろ強化されたよ!


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Q.反射障壁って「リフレクトウォール」の方が適切じゃないの?


A.「カウンターウォール」の方が語呂がよかったから採用しました

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