6-2 マンガを見ると真似したくなるのは当然の摂理
書庫ができて早数日、キッチンと同じようにククノチにツタ製のイスを作ってもらい、ゆったり座って読書にふける。
読んでいた本が一区切りつき、本から目を離す。
「「「…………」」」
周りをみると、ククノチ・オルフェ・アマツの三人も黙々と本を読んでいる。
以前にも思ったが、みんな物語に飢えていたところに新しい娯楽ができて、すっかりハマってしまったようだ。
この場にいないコアさんも「今日の献立百戦百勝 ~姑に勝つ味付け戦略指南~」とかゆう本を持ち出していたので、今頃はその本を参考に何かしらのアレンジをキッチンでしているのだろう。
「へぇ~なるほどねぇ」
オルフェが読んでいた本を閉じ、本棚に戻す。
そのまま次の本に手を出すかと思いきや、
両手を胸の前にあげ、軽くフットワークを取る。
「ふっ!」
息をはき、前方に軽くダッキングした後、右ジャブと左ストレートを繰り出す!
あの動きはボクシングか、今までのスパーリングだと足技がほとんどだったオルフェが打撃系も使ってくるとなるとやっかいだな。
だが、それより先に、
「オルフェ、書庫では静かにな。やるなら外でやってくれ」
「あ、みんなごめーん」
オルフェはペコっと一礼してわびると、そそくさと部屋の外へと向かっていき、
「じゃあ、僕ちょっと草原で練習してくるからぁ」
そう言い残して行ってしまった。
これは感化されたか。若いな、俺にもそんな時期がありました。今もだけど。
気を取り直して次の巻を読むべく、本棚に向かう。
「ねぇ、主さん。コインってやつはなかと?」
ソデを引かれた感触に任せて振り向くと、そこにはとある本を胸に抱えたアマツがいた。
アマツよ、おまえもか。
とりあえずいろいろなコインを出してアマツに手渡す。
「試すなら防衛エリアのワナがない場所でやれよー」
「はーい」
そこならどんだけ壊しても修理にかかるDPは大したことはない。
アマツは受け取ったコインを握ると、いそいそと部屋を出て行ってしまった。
電気を使うキャラが出るマンガという事でいくつか紹介してみたが、まずはそれにハマったか。
アマツを見送り、書庫に残ったククノチの方をみる。
彼女はどうも植物を操るキャラに親近感を感じるようで、元盗賊の妖狐が推しになったらしく、この前コアさんに「ぜひ植物を操ってみませんかー?」とか聞いてたなぁ。コアさんは丁重に断ってたけど。
「なるほどー。 ご主人様が前に言ってた”木遁忍術”ってこれの事だったんですねー」
ククノチが読んでいた忍者マンガから目を離し、こちらに話を振ってきた。
そういえば、椅子を作ってもらう時にそんな事を口走ったなぁ。
「そうそう、それの事。で、ククノチさんそれできちゃいそう?」
「うーん。さすがにチャクラというものがわからないので、そのものは無理ですねー」
やはりムチャブリが過ぎたか。
「ですが、似たような事は私の本体ならできるかもしれません」
「マジで!? 見せてもらってもいいかな?」
「いいですよー。では森林に行きましょうかー」
そうして俺たちは書庫を後にし、ククノチの樹がある森林エリアに向かう。
座敷から直通のポータルを使えば、ククノチの樹までは三分もかからない。
「バラのムチってカッコイイですねー! 私も攻撃方法としてもっておきたいくらいですー」
「サブウェポンとして持っておくのはいいかもな、でもそれなら自分のツタにトゲを生やせばできないか?」
「そうですねー。今度ためしてみましょうかー」
ヒーラーだからって攻撃しちゃいけないルールはない。できる事の手札が増えるのは良いことだ。
マンガ談義が出来る仲間が増えるのはさらに良いことだ。
「ほれ、話してたら着いたぞ。さっそく見せてもらおうか」
「はーい、ちょっと待っててくださいねー」
ククノチはそういうと本体である樹に入っていく。その姿は巨大ロボのコクピットに入るパイロットのようだった。
「それではー、ちょっとやってみますねー」
「おーう」
念話で届いたククノチの声に軽く返事をして、樹を見上げてみる。さて、お手並み拝見といこう。
唐突に目線より高い部分にある幹の一部分に亀裂が入り、そこから白っぽい物体が風船のように膨らんででてきた。
なんだろうあれ? ウネウネ動いてるけど……
その物体はククノチの樹に一部分をつなげたまま、目測で縦2メートル横1.5メートルくらいの薄い長方形の形に整っていく。
奇麗な長方形になった後、四隅から垂直に白い物体が伸びだした。
この形は……あー、そういう事ね。
白い物体がなんなのかわかった時、ククノチの樹につながっていた部分が切れて、白い物体……もといテーブルが重い音をたてて地面に着地した。
木目はないが、触ってみると確かに木材っぽい手触りが返ってくる。多少足の長さが不ぞろいだったりしているが、この辺りは俺がDIYなりなんなりで調整すれば十分に使える。
「ナイスワークだククノチ、後で一杯おごってやろう」
「うふふー。いっぱいですかー! 楽しみですー」
意図的にイントネーションを変えて返答してきやがった。だが、一杯しかやらんぞ。
「それにしても、どうやって作ったのこれ?」
テーブルをコンコン叩きながら聞いてみる。
「体の一部を操作して、形を作ってみましたー」
「人間で例えるなら、筋肉や脂肪で作ったって事? あんまり想像したくないけど」
「脂肪というのが近いかもしれませんー。私の中で使っていない部分ですからねー」
脂肪を外に出せるとか羨ましいのぉ。
「それで、脂肪をこんなに外に出してお前は大丈夫なのか?」
「この程度なら問題ありませんが、あまり多く使うと支えられなくなるので困りますー」
このテーブルもそれなりに大きいが、ククノチの樹はそれに輪をかけて大きいからな。
「後はどれくらい細かい造形ができるか聞いておきたいんだけどいいかな?」
「うーん、そうですねー。これくらいでしょうかー?」
再び幹からでてくる白い物体。心材というらしいが、それがうねってこねられ何かを形どっていく。
これは何だろう?
「どうでしょうー? このまえ見たプリンパフェを模してみたのですがー」
「うーん、言われたらわかる程度かな?」
言われたらこれがプリンで、その上が生クリームで丸いのがアイスなんだなーってわかる程度。
四角や丸型はできてるので彫像レベルは無理だけど、それなりに融通は効くみたいだ。
「まぁ使えるレベルの家具を作るくらいならできそうだな。これからもちょくちょくお願いするよ」
「いいですけどー。作ったらお酒いっぱいくださいねー」
「一杯な」
ちゃっかりしてるなー。まぁ、酒一杯で家具を作ってくれるなら安いトレードだろう。
どんどんククノチに酒と引き換えにやってもらう事が増えているが、そこは持ちつ持たれつでいきたいのが本音だ。
「みんな、晩御飯ができたよ」
「お、飯ができたようだな。今日はここまでにして飯を食いにいこう」
「はーい」
コアさんからの念話がきたので、俺たちは撤収準備を始めた。
テーブルは足の調整が必要なので、いったんここに置いておく。明日にでも加工場を作って使えるようにしよう。
「コアさん今日は何を作ったんでしょうねー?」
「料理本読み込んでから一気にレパートリーが増えたよなー。最近飯が楽しみでたまらん!」
こうなるなら、もっと早く本を出すべきだったな。
俺たちは雑談をしながら、ダイニングルームまで向かっていった。