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5-30 ワインパーティ

 改装されたダイニングルームで試飲会をするのも悪くない。が! 協議の結果、せっかくなのでブドウ園でパーティーをすることになった。


 そのブドウ園は農地エリアの一角に専用のエリアを設けてある。ここも最初に整備して以来ククノチに任せっきりだった。

 まぁ、ククノチが特に力を入れているエリアなので、干渉する余地がなかったと言った方が正確か。


 ブドウたちは一見すると乱雑に枝を伸ばしているように見える。だがククノチの植物操作という指揮のもと、一つ一つが効率よく光合成ができるように成長しているようだ。


 その証拠にやっぱり地球のブドウと比べると、全体的に大きい気がする。さらに、今まさに食べ頃の実をつけているブドウもあり、ワインを飲みながらもぎたてのブドウも食べられるのだ。


 ブドウの枝を天井にして、その下にDPで出したゴザを敷き、俺が作ってみた木製のローテーブルを置く。

 地球で市販されているものと比べるとじつに簡素だが、物が置けて水平ならそれでいいんだよ!


「マスター、料理とおつまみ持ってきたよ」

「お待たせっちゃー」

「おーう、そこのテーブルに乗せてくれや」


 木製のトレーに料理を乗せてやってきたコアさんとアマツが、テーブルに次々に料理を乗せていく。

 いろんな種類の燻製肉にスパイスが降りかかった物、白身魚と赤身魚の刺身、ドライフルーツetc……


「こりゃまた、えらくいっぱい作ったな」

「初めて作ったワインだからね、いろいろ食べ合わせをしてみたいのさ」


 こういう時でも実に好奇心旺盛な狐だのぉ。

 個人的なお願いとして4人にはまたディアンドルを着てもらってるので、スカートを折りたたみコアさんが正座する。


「お待たせしましたー」

「いい匂いすぎて、もう待ちきれないんだよぉ」


 いつぞやの風呂の時のように、グラスと自家製ワインが入ったビンをツタに巻き付けたククノチと、両手で寸動鍋を持ってきたオルフェがきた。


「ご主人、鍋を置く場所はここでいい?」

「いいぞー」


 オルフェがゴザの一角に鍋を置き、パッとフタを持ち上げる。

 せまい鍋に凝縮された水蒸気が湯気となり、ほのかなブドウの香りをまとい空気中に広がっていく。


 これだけで中のものがうまいと予感させる。実にかぐわしい。

 オルフェによそわれ、中身のワイン煮込みニンジンマシマシが皆の手元に配られた。


 これだけ料理があればパーティーには十分ではあるが、ここはもう一つ追加しよう。


「前は燻製だけだったし今回は盛り合わせにしようか。人数も増えたしな」


 DPを消費し、チーズの盛り合わせをテーブルの上に置いた瞬間、しっぽを振りながらするどい眼光をチーズに向けるコアさん。この人がガマンしきれなくなる前にさっさと始めよう。

 

「よし、ククノチ。乾杯の音頭を取ってくれ」

「ふぇっ!? 私ですかー!?」


 指名されると思ってなかったのか、グラスに人数分のワインをついでいたククノチがすっとんきょうな声を上げ、こっちを見てきた。

 

「ククノチのために開催するようなもんだろ、今日のコレは」

「わ、わかりましたー」


 グラスを受け取り、立ち上がる。

 一同の視線を集めたククノチは、一度目を閉じ深く深呼吸すると、ゆっくり目を開けて、


「それでは、カンパイですー」


挿絵(By みてみん)


 乾杯の音頭を取ってくれた。

 合わせて俺たちもグラスを掲げあい、ワインパーティーが開催されたのだった。


 さて、ワインパーティなら、まずワインを味わうのがスジってもんだろう。

 初めて作った自家製ワインはDPで出したものと比べると、若干色が薄く見える。

 鼻に近づけ香りを十分に楽しんだ後、少し口に含む。


 ん? 結構甘い!?


 しっかり酔いが回るアルコールがありつつも、甘さをまだ残している。

 俺が知ってるワインと大分味が違うがこれはこれでおいしい。その分かなり飲みやすいので意識してないと飲み過ぎてしまうかもしれない。

 ワインの余韻を口に残しながら、コアさんが作った燻製肉をひとかじり。


 うん、やっぱりうまい! コアさんも何回か赤ワインを味見してるからか、スパイスを赤ワインに合うようにきっちり使い分けている。スパイスの配合を何パターンか用意して、味を変えている所もさすがとしか言いようがない。


 このまま燻製肉を食べ続けても飽きがこないが、今日は他にも料理がまだある。次は――


「やっぱり、このワイン煮はおいしいよぉ!」


 よし、あれにしよう。あんだけおいしそうに食ってたら食いたくなるのが人のサガってやつだ。

 具はニンジンが八割のワイン煮込みだが、肉もちゃんと入っている。

 最初は箸でつかもうとしたけど、さほど力を入れてなくてもちぎれてしまったのでスプーンで肉をすくって一口。


 おおう。これもなかなか。


 よく煮込まれブドウの甘味を十分に吸っている肉は、舌で触るだけで崩れ、肉とブドウの甘味を舌に伝えてくる。

 オルフェの様子を見る限りニンジンも同じなのだろう。もちろんワインスープもニンジンと肉のエキスが十分に溶け込まれていて、おいしい。


「ああ、そうだあれを試してみよう」


 チーズの盛り合わせから適当に目に付いたやつを取り、ワイン煮込みにIN!

 個人的にチーズはちょっと溶けたくらいが一番おいしいと思う。異論は認める。

 

「成程、そういうのもあるのか」


 その様子を見ていたコアさんが早速俺のとは違うチーズを自身のワイン煮込みに入れる。


「チーズもいろいろ応用が効きそうだし、早く作りたいね」

「うーん。でも材料がなー」


 チーズには生乳が必要だが、今俺たちが使っているのは味が同じなククノチの実の果汁だ。

 さすがに成分までまったく同じということはないだろう。


「それはフードラボを作ってもらったし、作り方も含めてこつこつやっていくつもりさ」


 そのポジティブさは見習いたい。

 コアさんと話してる間にもチーズがほどよく溶けてきたので、すくって一口入れる。


 チーズとワインスープがほどよく混ざりあっていてうまい。

 まだまだ料理はたくさんある。次は何とワインをあわせて食べようかなー?



「「「「…………」」」」

「にゃはははー!」

「ねぇ、ククノッチー。せめて服は着てよぉ、みんな見てるよぉー?」


 一同の視線を集めているにもかかわらず、まったく意に介さずに笑うククノチ。オルフェが止めに入っているが、完全に無視して飲み続けている。

 ディアンドルを脱ぎ捨て全裸でビンをツタに巻き付け、ラッパ飲みするその姿は色気もなにもない。

 後、なぜか俺も巻き付かれているが、いつもの事なのでもう諦めた。


「はれー? 次のワインはどこですかー?」

「もう全部ククノッチが飲んじゃったよぉ」


 パーティーということでワインもそれなりに作っていたはずなんだけどなぁ。

 

「なくなったぁー? じゃあ、新しく作りましょうー!」


 そう言ってククノチが地面に手を叩きつけた。


 瞬間。周りのブドウたちからメキメキという怪しい音が! 


「おい、ククノチ! お前何した!?」


 俺の質問に答えるかのように、地面が盛り上がる!

 地面の裂け目からブドウの根っこが現れ、どんどん大きくなる!


「うわっ! 周りもなんかおっきくなってるよぉ!」


 オルフェに言われるまでもなく、葉っぱも枝も、もちろん実も見境なくグングン大きくなっていく!

 ゴザを盛り上げテーブルをひっくり返し、乗っていた料理をぶちまけても止まらない!

 このままじゃ、この一帯がブドウで埋まっちまう! こうなったらしかたない!


「オルフェ! ククノチを止めろ!」

「うん! ククノッチごめんね!」


 ウネウネ動き、盛り上がってくる根を器用に踏みながらオルフェが一気に肉薄し、ククノチを抱きしめるようにつかんだ!

 同時にブドウの巨大化が徐々に鈍くなり、やがて収まった。

 ククノチの植物操作は魔力を必要とする。なので魔力を打ち消すオルフェに触れている間は、ブドウが巨大化する事はない。

  

「ちょっと! 何するんですかー!? 離してくださいー!?」

「だーめ! ククノッチちょっと酔っぱらいすぎ! さめるまで離さないから!」


 ククノチが拘束をとこうともがくが、単純な力が違い過ぎてオルフェはびくともしない。

 

「よし、ククノチをそのまましっかりおさえてくれないかな?」


 コアさんが自身のソデから何かを取り出してククノチに近づく。

 ちらっとみえたものは、非常に見覚えのあるアレだ。


「食べ物を粗末にする悪い子には、おしおきと酔い覚ましをかねてこれを食べてもらおうかな」


 そう言って、コアさんがククノチの口にイズマソクの実を放り込む。

 ククノチは口の中に入ったものを反射的に一口噛むと、


「げふっ!」


 実を吐き出し、オルフェに抑えられているので手足をバタバタさせる!

 どうやら、にがみその他もろもろを全身で受けているらしい。


「これで苦みがなくなれば、彼女も正気に戻るだろうさ」

「ねぇコアさん。その実って一体どんな味なのぉ?」

「これの味が気になるのなら、ここにまだあるから食べてみるかい?」

「絶対に遠慮させてもらうよぉ」


 賢明な判断だな。つかなんでコアさんソデにそんなもん入れてんだ?

 まぁ、とにかくこれでようやく収まった。

 大きくなったブドウの後片付けはククノチに責任を取ってやってもらうとして、今日はもうお開きだな。

 

「甘ーいブドウがこんなに大きくなって、うちこんなにいっぱい食べ切れないっちゃねー」


 さっきからブドウの実をかじっていたアマツがポツリともらす。

 うん、ワインはしばらく生産量を抑えて、ブドウジュースやレーズンの生産量を増やすか。

作中の素敵なイラストは

友♡ともぺろ@soumatomo様より頂戴しました!


ありがとうございます!

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