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5-29 醸造と発酵の部屋

「そいじゃ、俺はこれもって先に発酵用部屋に行ってるから」

「わかったよ。私も洗い終わったら行くから」

「私もすぐいきますー」


 ケモミミ娘達が足湯で足についたブドウを流してもらってる間に、俺は木桶を持って高山温泉エリアを後にする。

 脱衣所を通り通路に出て、さらに新しく作った通路を通ると宇宙船にあるような密封性の高いドアの前にたどり着く。


 近くに設置してあるスイッチを押すと、空気が抜けるような音とともにドアが開く。

 

 入った先には八畳ほどの部屋、その先には同じようなドアがある。

 右側には棚があり、真っ白な防護服が1着無造作に置かれていた。


「よっと」


 木桶を棚に置き防護服を着る。この防護服は食品工場用ではなく、体をすっぽりおおう疫病用の防護服である。

 何もそこまでしなくてもと思ったが、コアさんとククノチに押し切られた。こだわりって怖い。


 防護服をすっぽり着終わった頃、通路側のドアが開いた。


「お待たせしましたー!」

「やぁ、マスター。待たせたね」


 足を洗っていた二人が追いついたようだ。


「ああ、こっちもちょうど準備ができたところだから。おまえらも防護服になりなよ」

「わかってるよ」


 言葉が終わるか終わらないかの間に、二人の衣装が防護服に変わる。

 食品に毛が入らないようにケモミミも尻尾も防護服の中に納まっている。つか、早着替えってほんとに便利だのぉ。


「それじゃ、三人で行こうか」


 コアさんが先をうながし、三人で奥の部屋へと入る。

 そこは四畳ほどの広さの部屋に、さらに奥の部屋に入るためのドア。違うのはこの部屋には棚はなく、代わりに大きめのロッカーのようなモノを入れられるスペースがあるという事。


「よいしょっと」


 ドアを閉め、ロッカーに木桶を入れて同じようにしっかり閉める。


「二人とも準備はいいか?」

「問題ないよ」

「お願いしますー」


 二人の返答を受けて、奥にあるドアの隣りにあるスイッチを押す。


 瞬間、天井や床から一斉に熱風が噴き出す!


「さすがにこれを着ててもちょっと熱いね」

「でも、必要なことですからねー」


 そう、次の部屋に入るには一分間の熱風消毒を受けないと入れない。

 何もそこまでしなくてもと思ったが、コアさんとククノチに押し切られた。味に対する執念って怖い。


 適当に雑談をしていると一分間が過ぎ、熱風が収まり奥のドアが開く。


「終わったみたいだね。行こうか」


 ロッカーから木桶を取り出し、コアさんの後に続く。

 ここが最奥の部屋だ。中央には設備として作ったワインタル型の貯留槽がある。


「ここにブドウを入れればいいんだな? ちょっと手伝ってくれないか?」

「いいですよー」


 三人で協力して貯留槽にブドウを入れていく。手に障壁をまとわせ、それをヘラ代わりにして木桶の底にこびりついていたブドウの皮も丁寧にまとめて貯留槽に入れる。

 障壁を消せば、そっちについていたブドウも貯留槽に落ちて洗う必要がない。便利!

 

「で、後はこのスイッチをポチっとなっと」


 貯留槽についていたスイッチを入れると、貯留槽の中にワナで作ってあるかくはん機が動き出す。

 それは一定の間隔で動き出し、中のブドウをかき混ぜる。


「これでいいのか?」

「はいー、これで大丈夫ですー。後は数日間待てば出来上がりですー」


 発酵の知識を入れたククノチに聞いてみたところ、これでワインができるらしい。作るだけなら意外と簡単にできるもんなんだなワインって。


「ふふ、ここからがこの部屋のすごいところさ。じゃあいったん外に出ようか」


 うながされ、木桶を持って消毒室に戻る。

 コアさんは発酵室へのドアを閉めると、壁についていたタイマーをいじりだす。


「まずは五日分でいいかな? よし、セット完了。これで五分間たてば、向こうの部屋は五日分たっているはずだよ」


 そう、発酵には時間がかかる。この話題が出た時にコアさんから提案されたのが、時間軸をずらして部屋の中の時間を加速させることで、入った者の寿命を浪費させる”吸命(きゅうめい)の部屋”というワナ部屋だった。


 にわかには信じられないが、ファンタジーだしそういう部屋もあるんだろうなということで、無理やり自分を納得させた。

 というか時間の流れが早い部屋って言えばさ、


「なぁコアさん。それって精神と時――」

「マスター。これは”吸命の部屋”だよ。いいね?」

「アッハイ」


 ニコニコ笑顔のコアさんに詰め寄られ、無条件肯定する。こういう時は素直に従うべきなのだ。

 消毒室で棒立ちになり、時間がたつのを待つ。


「そういえばご主人様は、酢を欲しがってましたよねー?」

「ん? ああ、そうだけどそれがどうかしたか?」


 やっぱり調味料は一つでも多く欲しいからね。それが基本であればあるほど必要だし。


「酢はお酒を酢酸菌でさらに発酵させるとできるようですよー」

「え? それでできちゃうの?」

「はいー。ワインの場合、ワインビネガーになるようですが、ご存じないですかー?」

 

 うーん。名前だけは聞いた事がある程度だなー。


「へぇ。じゃあ今作ってるワインの一部はワインビネガーにしよう!」

「ついに酸味が赤キャベツ以外に増えるのか。楽しみだな」


 コアさんの防護服のお尻部分がもそもそ動いておる。しっぽを振っているのがもろわかりだなぁ。


「本来なら発酵の完了までにかなりの時間がかかりますが、この部屋なら一日でできますねー」


 そーね、そう考えるとこの部屋ってとても便利って――


「どうやら五分たったな。どうなってるか見に行こう」


 再び三人で部屋に入り、貯留槽のブドウをのぞき込んでみる。

 

「おー。なんかブクブクしてドロドロしてるなー」


 我ながら貧弱な表現方法だと思うが、そうとしか表現できねぇ。

 とはいえつぶしたブドウを普通に五分間放置しただけではこうはならない。ということはこの部屋が少なくとも数日間は立っているというのは間違いないな。


「うまく酵母が働いてくれてるみたいですー」


 どうやら工程としては、うまく行っているようで一安心。


「後はまた時間を何日分か進めれば出来上がりですー。ただし進めすぎると酢になってしまうので、最初は様子を見ながらですねー」


 先ほどと同じように外に出てタイマーを回し、ひたすら待つ。


「なぁ、ワイン作ってる部屋が”吸命の部屋”ってなんか縁起悪くない?」

「元がワナ部屋だからどうしてもね。なんなら別の通称でもつけたらどうだい? 迷宮の胃袋みたいにさ」


 通称ねぇ、精神と時の……はつけたらコアさんが怒りそうだし、


「普通に”醸造と発酵の部屋”でいいんじゃないか? 今後ワインだけじゃなくていろいろ増やすだろ?」

「直球すぎますが、わざわざ捻る必要もないですしねー」

 

 というわけで今後、吸命の部屋は醸造と発酵の部屋に改名だ。本来の用途として使うかもわからんし。 


 その後も味見しようと防護服を脱ぎだすコアさんを止めたり、途中で試飲しようと防護服を脱ぎだすククノチを止めながらも発酵は順調に進み、ついにワインと言ってもいいアルコール度数まで、発酵を進める事ができた!


 ククノチ待望の自家製ワインの完成である。これは祝うしかないな!

コアさんとククノチに新衣装が追加されました!

 →防護服


新しい部屋が追加されました!

 →醸造と発酵の部屋

  ・醸造や発酵に必要な日数を大幅に短縮できるようになります。


新しい食べ物が作れるようになりました!

 →ワイン

 →ワインビネガー(酢)

 →発酵食品数種

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