5-28 ワインを作りたい!
コアさんのうまい朝飯を食ってから、食後のお茶の香りが漂うダイニングルームで今日もミーティングが始まった。
「あのー、ちょっといいですかー?」
ククノチが手を上げてこちらを見てきた。
「お? なんだどうした?」
「はいー。先日ブドウを収穫しましたよねー? 現に今ここに出されてますしー」
うん。ミーティング中の糖分補充として一房あるね。大半はアマツが食べちゃったけど。
「ワインはまだ作らないのですかー?」
「あー」
少し残念そうな顔をしたククノチの提案を受けて考える。
ブドウはある程度育った状態でDPを使って出したから、すでにある程度は収穫済みであり新芽用の種もすでに植えてある。
つまり。材料のブドウは既にあり、足りないのはワインを作る知識と設備である。
「まぁ知識に関してはDPを使えば手に入れられるけど、用途が狭いからちょっともったいなく感じててなー」
基本的に何かしらの強化を行うと別の強化をするためのコストが増えるから、それの割りに合うかというとちょっと二の足を踏んでしまう。
「いや、物は考えようだよマスター」
コアさんが手を上げて発言する。
「ワインだけに絞らずに発酵の知識を入れるのはどうかな? 日本酒はもちろんチーズやしょう油も発酵食品なんだろう? マスターは味噌やしょう油を前々からほしがってたじゃないか」
あ、そうか。そう言われて見れば発酵食品は相当数ある。それならDPに見合う見返りが期待できるな。
「でしたら、発酵の知識は私に授けてくださいなー」
「俺は構わないけど、コアさんはどうする?」
ここはウチの料理頭であるコアさんの意見も聞いておくべきだろう。
「そうだね、ここはククノチに譲るよ。お酒に対する情熱は私以上だからね」
私は出来上がったものを食べさせてもらえれば十分さ、とコアさんは続ける。
「となると後は製造に必要な施設か。正直発酵ってやったことがないから、失敗して腐りそうで怖いんだよなぁ」
「ねぇご主人。そもそも発酵ってなぁに?」
ウマミミを立てて、オルフェが手を上げて質問する。
「俺も詳しくはわからないんだけどな、簡単に言うと食べ物に入ってる微生物が、その食べ物を別の食べ物に変えるんだ」
俺自身あんまりよくわかってないので、こんな説明しかできない。
「それで微生物が食べられる食べ物に変える事を発酵って言って、雑菌がまざって食べれないものに変えることを腐敗って言うってどっかのマンガで読んだことがある」
「ふぅん?」
ウマミミを折り、上の空なあいづちを打つオルフェ。すまん、こんな説明じゃよくわからんよな。
「オルフェ。今はとにかく食べられるものが増えるって思っておけばいいよ」
「ん、わかったよぉ」
コアさんの補足にコクコクうなづくオルフェ。
ああうん、それくらいシンプルなほうがわかりやすいヨネ!
「ところでマスター。さっきの話だと雑菌を排除すれば悪くはならないってことだよね?」
「うん、俺が知ってる限りだとそういう事だな。それが正しいという保証はないけど」
コアさんは俺の返答を聞いて何か考えだし、やがて顔をあげる。
「仮に失敗して腐っても私の能力ならそれを見抜けるから、健康上の問題はない」
そうね。成功したか失敗したかわからんのが素人がやって一番怖いとこだ。
「でも雑菌に味を狂わされるのは私としては許せない。だから厳格に管理したいところだね」
「そうですねー。そこは私も大賛成ですー」
コアさんとククノチがにこやかにサムズアップしあう。
「ああ、うんわかった。じゃあ、その辺もしっかり詰めてから発酵に挑戦しようか」
「おー!」
とりあえず今日のミーティングはお開きとなり、俺たちはワイン作りに向けて準備を進める事となった。
♦
「よっと」
いつも通り雲一つない高山温泉エリア、快晴の青空の下で俺は背負ってきた巨大な木桶を石床に降ろす。
直径が1メートルはあろうかという木桶は見た目通りの重量を持っていたが、今の俺には指でひっかけて持てる程度の重量である。俺も人間離れしたなぁ。まぁいまさらか。
「この木桶にブドウを入れるんですねー」
「ああ、そう――」
背後からククノチの声が聞こえたので適当に返事しつつ振り向く。
その先には軸を取り除き、ブドウの実だけがたっぷり入ったボウルを持ったククノチが――
「ご主人様ー?」
ククノチが俺を呼ぶ声が聞こえる。だがその声に答えることができない。
「最高だ」
思わずつぶやく。
ククノチを象徴する豊かな双丘、今は軽く締め付けられ見事な谷間を作り出している。
それを支えるキュッと絞められた腰。
自らの耳や髪の色と同じ、夏先に生い茂る若草のように深い緑色のスカート。
そこにはディアンドルを見事に着こなしたククノチが立っていたぁぁぁぁ!
ヤバイ! 似合いすぎてヤバイ!
以前ククノチに似合うだろうなーと思って、今回いい機会だから作ってみたが、まさかここまで似合うとは……
「ご主人様? どうしましたー?」
「はっ!? すまんすまん。そうそう、ここに入れてくれ」
「はーい」
指示を受けて持っていたブドウを全部木桶に入れるククノチ。うーむ何とは言わないが、かがむと何かが零れ落ちそうだ。キワドイ。
このブドウはククノチが丹精込めて品種改良した逸品だからな。地球のに比べるとより甘く、大きく、香りが強い。どんなワインになるか楽しみでしょうがない。
「いやそれにしても、コアさんの割烹着もすごかったが、ククノチのその姿も似合いまくるな!」
「うふふー。ありがとうございます」
お世辞を受けてにこやかにほほえみ返して来た!
もう私死んでもいいわ!
いや、やっぱりダメだ! ここで死んだら悔いが残りまくる!
なぜなら――
「待たせたねマスター。追加のブドウ持ってきたよ」
「この服かわいいよねぇ!」
「ブドウを踏むんよね? 少し楽しみっちゃー」
他の三人にもディアンドルを送って着てもらったからだ!
FUUUUUU! 最高だぜぇ!
もちろん相応のDPは払ったさ! だが、男には今後の生活が厳しくなるとわかっていても、DPを出さねばならぬ時がある! 今がその時だ!
そう、今日はワインの材料となるブドウをケモミミ娘達に踏んでつぶしてもらうのだ。
もちろんただつぶすだけなら、既に釣り天井のワナで作ったマッシャーがある。本来ならそっちを使う方がはるかに効率的かつ衛生的にできる。
だが、最初くらいは多少効率が悪くても、古き良き伝統に従って踏んで作ってみようという事になった。
なお、俺もケモミミ娘達と一緒に踏まないかと誘われたが、固辞させてもらった。
一緒にやりたいという気持ちは強かったが、俺はケモミミ娘達が踏んでくれたワインを飲んでみたいんだ!
木桶の半分くらいをブドウが満たし、ケモミミ娘の足と石床を消毒する。
これで準備は整った。
直径1メートルの木桶だと、一度に四人入って踏むのは無理がある。
まずは、とにかくワインを作りたいククノチと、ブドウを踏んでみたいアマツが入ることになった。
「うふふー、これは小さな一歩ですが、ワイン作りのための大切な一歩ですー」
木桶に入り、感無量といった表情でククノチがつぶやく。そんなに楽しみだったのか、いろいろ待たせてすまねぇ。
「おー、なんかぐにぐにするっちゃねー」
早速ブドウをつぶす感触を楽しみながら、ニコニコ笑うアマツ。
二人は向かい合うと、お互いを支えるように手をつなぎ、
「いっちにー いっちにー」
息をあわせながら足踏みしてブドウを潰していく。実に微笑ましい光景である。
特に足踏みに合わせて、4つの双丘が揺れる所が特にいい。
「いいなぁ……」
自身の胸を両手でペタペタ触りながら、足踏み二人を見るオルフェの目からハイライトが消えている。
だが、そこは絶対に触れてはいけない地雷だ。踏むのはブドウだけでいい、わざわざ見えてる地雷を踏みたくはない。
適当なタイミングでコアさんとオルフェに交替し、ひたすらブドウを踏んでいく。
コアさんのディアンドルはロングスカートにしてみたが、裾を持ち上げながら踏んでいくその姿はどこか牧歌的で実にいい!
オルフェもブドウを踏んでいるうちに機嫌をなおしたようで、今は鼻歌を歌いながら夢中になって踏んでいる。初めてやる作業って単調でも楽しくなるよね。
にぎやかにワイン踏みをしていたら、あっという間に時間も過ぎ、なかなかいい感じにブドウも踏まれた。
さぁ、そろそろ次の工程に進もうかね。
ケモミミ娘達に新衣装が追加されました!
→ディアンドル
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当たり前ですが、日本では酒造免許がないとお酒は作っちゃだめですよー
マネして不利益を被っても責任はもちませんからね!