5-23 食べ合わせなぞ知らぬ
一斉にテーブルに置いてある各々の好物を食べだすケモミミ娘たち。
うん、食べるっていうよりは、むさぼるっていう表現の方が近いかもしれない。
コアさんは乾杯するやいなや、ただひたすらカレーをぱくつき、早くも一皿分完食してしまった。
「うん、いつぞやのカレーうどんもよかったけど、やっぱりご飯で食べた方がおいしいかな?」
しっぽを振りながら 口元にカレーをまったくつけていないコアさんが感想をもらす。
結構乱暴に食べてるように見えたけど、その辺りはさすがだと思う。
「いい食いっぷりだな。おかわりいっとくか?」
そう言いながらコアさんの皿に手を伸ばすと、コアさんはゆっくり首を振って俺の手に自分の手を当ててきた。
「いや、次はアレを早く食べないとね。カレーはまたあとでいただくよ」
そういったコアさんの目線の先には、ドレッシングをたっぷりつけてニンジンを食べるオルフェがいる。ああ、確かにアレは早く食べないとなくなるな。
「オルフェ、ちょっとドレッシングをもらうよ」
「ふぁい」
ニンジンを頬張ってご機嫌なオルフェからドレッシングを受け取ると、小皿に3種類のドレッシングを垂らす。
そして、そのまま舐めてみたりニンジンにつけてゆっくり食べだした。
これは味見モードに入ったな。この時のコアさんの邪魔をする気はない。
コアさんの隣りに視線を移すと、早くもビンを一本カラにしたククノチが二本目を開けて飲んでいる所だった。
「ぷはー! やっぱりワインは最高ですー!」
早くもでき上がったククノチが上機嫌で叫ぶ。一応ラッパ飲みはせず、手酌で飲んでいるので最低限の礼節は保ってる……と思いたい。
「こっちのラッシーとカレーも美味しいですー!」
ワイングラスをテーブルに置いたククノチがスプーンを手に取り、カレーをほうばる。
美女が幸せそうに食べてる姿は見ててこっちも幸せになる。だがな、
「なぁ、ククノチさんや」
「はいー! なんですかー!?」
酔っ払い特有の大声でククノチが返事をする。よかった、まだ話が通じるようだ。
「あなたのカレーはなんで紫色なんですかね?」
「え? えへへー。それはぁー」
ククノチはニコニコ笑いながらワイングラスを手に取ると
「それー!」
中に入っていたワインをカレーにかけおった! 成程、そういうわけですか。
ククノチはそのままスプーンでワインカレーをすくって口に入れる。
「ワインの隠し味が効いておいしいですー」
うん、カレーを煮込むときに、隠し味として入れるのは聞いたことがある。あるんだけどさ、
「いや、おまえのそれは比率がおかしい。もはやワインスープカレー雑炊みたいになってるじゃないか」
ワインが皿のふちからあふれそうなほどかけられてるそれは、隠れてるというんですかね? むしろカレーを隠してるレベルなんですが。
まぁ、食べ方は人……いや種族それぞれ、各々が楽しんで食ってるならそれでいいか。
「なるほど、その比率は考えた事がなかったよ」
俺たちの様子を見ながらドレッシングを味見していたコアさんがボソッとつぶやく。
あれは普通やらないと思うけど、コアさんは間違いなく試すよね。おいしくできたらおれにもわけてくれ。
自分の中でそう結論付けた時、オルフェが突然立ち上がった。
「コアさん! ニンジンのお代わりちょうだい!」
カラになったせいろを持ち上げてオルフェがコアさんにねだると、
「そこに蒸してあるせいろがそろそろ食べ頃だと思うよ」
ワインをちょっとだけかけたカレーを食べているコアさんが、目で火にかけているせいろを指す。
ニンジンはせいろ3段にみっちり詰まってオルフェの前に置かれたはずだが、いまやその全てのせいろがカラになっていた。
「おいおい、もう全部食ったのか?」
「え? いやーどのドレッシングをかけてもおいしくておいしくてぇ」
おかわりのせいろのフタを開けてニンジンを取り出したオルフェが鼻歌まじりに答える。
よほど気に入ったのか、どのドレッシングも既に半分ほど消えている。どんだけかけて食ったんだおまえは。
「へぇー。どれが一番気に入った?」
「え?」
俺の質問にピタッと動きが止まり、考え出すオルフェ。
いや、単純に好奇心からだったんだけど、そんなに困る質問か、これ?
せいろからニンジンを取り出すと、青じそドレッシングをたぱたぱかけて一口かじる
「うーん、青じそはこの甘酸っぱさがおいしいし」
言いながら、ゴマドレッシングをかけてさらに一口。
「ゴマはこの香ばしい匂いが食欲をかきたてるし」
さらにシーザードレッシングをかけてかじる。
「これもニンジンのすっきりした後味に濃厚なミルクの味がついていいんだよぉー」
悩みながらもボウルからコアさんが作ったドレッシングをニンジンですくってかじる。
「んーでも、やっぱりこのピリっとした辛さが一番! いや、でもぉ……」
ドレッシングを目移りさせながらウマ耳をたらし、考え込んでしまった。
そんなに深く考えなくてもいいのに。
「オルフェ、ニンジンはカレーの具材だから、このカレーをつけるのもオススメだよ」
「えっ!?」
コアさんが笑いながら、選択肢を増やす助言をしてきた。これは困惑するオルフェをみて楽しんでるなぁ。俺もだけど。
オルフェが試すようにニンジンをカレーに付けて一口でかじる。
「これもおいしい!!」
ウマミミを立てて感想をもらした後、隣に置いてあるドレッシングをちらちら見てまた悩みだすオルフェ。
「オルフェさん。ワインをかけても美味しいですよー!」
困る様子を酒の肴にしていたククノチがさらにアドバイスを送るが、それはきっとおまえだけだ。
だが、真に受けたオルフェはワインをかけてニンジンをほうばる。
「これもなかなかいけるよぉ」
え? そうなの? 材料にワインとニンジンを使った料理はあるからあうのかなぁ?
コアさんがさっそく試して「まぁ、なくはない」みたいな顔をしている。これはまだ向上の余地がありそう。
「よぉし!」
悩んでいたオルフェが吹っ切れたように顔を上げると、おわんにドレッシングを全種類まぜ、さらにカレーとワインもいれてかきまぜた!
そうしてできたちゃんぽんドレッシングに、ニンジンをつけて一気にほうばる。
「うん、これだね!」
いや、考え抜いた結果がそれかよ! うまい物にうまい物をかけたらとってもうまいものになる理論か!?
コアさんも早速オルフェからちゃんぽんドレッシングをもらい、ニンジンをつけて一口食べてみている。
口に入れた瞬間「これはないな」というなんともいえない表情をしていた。
つまり、オルフェはニンジンならなんでもいいってことなのかこれは。まぁ本人がおいしく食べてるならそれでいいか。
そして最後の一人、アマツに目を向ける。
アマツもひたすら幸せそうに、まさに想像してたどおりの顔で先ほどまでパフェをぱくついていた。
時折「うまか~! でりゃうみゃー!」とか言っていたが、あまりに幸せそうだったので、なんとなく声をかけづらかった。
しかし、パフェの底にたまった生クリームも一滴のこさずすくって食べ終えた今なら声をかけても大丈夫だろう。
「アマツ、パフェはうまかったか?」
「とっても甘くてやわらかくておいしかったとね!」
……尊い。
「主さん? 顔を手で押さえてどうしたね?」
いやちょっと……アマツが身振り手振りで表現した”甘くてやわらかくておいしい”の三段活用が尊過ぎて鼻血がでそうになってな。真正面からの直撃は破壊力がすざましい。
その首をちょっとかしげるポーズもなかなかの破壊力をもってらっしゃる。
しばらくこらえて耐えきったので、手を顔から離す。でも頬はきっと緩みまくってるんだろうなぁ。
それはさておき、一通り食べたい物は食べたのか、みんな満足そうな表情を浮かべている。
料理を食べる手も収まり、今は雑談タイムとなっている。
そろそろアレを伝えるにはいい頃合いだな。
現役編集者つっつー様の動画にこの作品が取り上げられました。
https://www.youtube.com/watch?v=S9nX_T1fhCU&t=205s
テーマは「読者の心に刻め!突破力編」
公募を目指してる人にもためになる動画ですのでよろしければご視聴ください。




