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5-22 戦勝会準備

 虫の残党駆除は特に何事もなく終わった。

 何かが指揮してるならともかく、あちこち勝手に飛び回るだけの虫ならアマツが適当に部屋中に水を流すだけで、すべてがきれいさっぱり流れ落ちた。


「ふぅ~、さすがに疲れたっちゃよー」

「本当にお疲れさん。今コアさん達がパーティの準備してるからなー」

「ちゅーことはまたケーキが食べられるのかや!?」

「今回はパフェを出すぞ、ケーキと同じくらい甘くてうまいデザートだぞー」

「おおー! すぐに戻るけん待っとってほしいとね!」

「いや、だからまだ準備中だってば」


 アマツからの返答はない、これは俺の話聞いてないな。

 まぁいいや。”ご褒美”もできたし、俺もダイニングルームに行こう。


 スポーンポイントを使えば広い防衛エリアもコアルームまでひとっとび。そこから通路を経由してダイニングルームに続くポータルに入る。


「おお? こりゃまた飾り付けたな」


 ダイニングルームを見渡すと、木製の植木鉢に植えられた植物が至る所に置いてある。

 調理場とククノチのツルで編まれたテーブルとイスしかなかった部屋に、色とりどりの花がプラスされて華やかさが増している。


「うふふー。お祝いですからー」

「この植物達は森林エリアから持ってきたの?」

「そうですー。ちょうど咲いてる子達を連れてきましたー」


 椅子に腰かけていたククノチがにこやかに笑いながら答えてくれた。

 植物が置いてあるだけで、よく言えば機能的、悪く言うと無機質だった部屋の印象も大分違う。


「なかなかいいじゃない。これ今後も一部置いておけないか?」

「そうですねー。この子達の体調を見ながらならー」

「その辺はククノチに任せるよ」


 今までは実用性を重視してたけど、そろそろインテリアにも意識を向けた方がいいかもしれない。

 そう考えながら調理場に目を向けると、蒸されているせいろをじっと見つめたままのオルフェと、サラダ用のドレッシングを作っているコアさんがいた。


 戦闘で一部やぶけたはずの服はすっかり元通りになっている。風呂でも入ってるあいだになおったのかな?

 少し様子を見ていたが、オルフェはずーっとせいろを見ている。しっぽが揺れているので機嫌はいいのだろうが、待てをされた犬みたいだな。

 こちらに気が付いたコアさんがドレッシングを混ぜながら振り向く。


「せいろの中身は五分の四くらいはニンジンだよ」

「ほとんどニンジンじゃないか」

「いろんなドレッシングつけて食べたいからいいの! ああ、ニンジンのいい香りがして待ちきれないよぉ」


 オルフェがこちらを向いて抗議する。

 ああうん、いつも通りだなぁと思っただけで、オルフェがそれでいいならいいんだ。

 俺のいいわけを聞いたオルフェは気にした風もなく、再びせいろに目を向けるとしっぽを振り始めた。


「マスター、暇ならこれかきまぜてくれないかな?」

 

 コアさんがそう言いながら、ドレッシングの入ったボウルを差し出して来たので快諾して受け取る。

 このドレッシングは、オイルベースにコアスパイスが何種類かまぜられていて少し辛みが効いている。シャキッとした野菜にピリ辛のアクセントがついて、味を変えたいときにかけて食うとうまいんだよなぁ。


「ところでさ、そろそろインテリアもよくしようと思うんだけど、そうなるとアレらが邪魔だよな」

 

 ボウルの中身をかき混ぜながら、目である部分を指す。そこにはワナで作ったミンサーや自動おろし機などの装置が自らの存在感を主張している。


「片付ける手間がいらないし、いろいろ作るうえで助かってはいるけど、ちょっとごちゃごちゃしてるよね」


 いろいろ作ったみたはいいけど、そのせいで調理場が圧迫されかけてるんだよな。


「じゃあいっそ装置を別の部屋に分けて、ここはもう少しオシャレなダイニングキッチンにリフォームするのはどうだ?」


 建築の知識はないが、このダンジョンは外ヅラさえできればなんとかなる。ここを使うコアさんの意見を取り入れればよりよいキッチンになるだろうし。


「いいねそれ! いいキッチンになれば私ももっとやる気がでるってもんだよ」

「まぁその辺はDPの具合を見ながらかな。ほれ、ドレッシングこんなもんでいいか?」

「ん、ほどよくまざってるね。ありがとうマスター」


 ドレッシングを受け取ったコアさんは、スプーンでひとなめ味見をすると、いくつかのスパイスを適量振って調整する。


「はい、これでドレッシングの完成だよオルフェ」

「わぁ! ありがとうコアさん!」


 ドレッシングを受け取ったオルフェが笑顔で答える。結構な量があるけどそれ一人で使う気なのか?


「蒸し野菜の方もそろそろ出来上がる頃だから」

「みんな! ただいまっちゃー! 主さん! パフェってやつはどこさね!?」


 コアさんの声をさえぎって、今日一番の功労者が走って戻ってきた。そしてやっぱり話を聞いてなかった。

 まぁ、待ちきれないのはアマツだけではない。コアさんは平静を装っているのが丸わかりなくらいワクワクしてるし、ククノチもニコニコ笑顔で今か今かと待っている。

 

「よし、じゃあまずはカレーセットからな」


 テーブルの上にカレーとライス、それに皿の上にナンとラッシーをピッチャーで出す。


「うん、久しぶりにカレーの匂いを嗅いだけど、やっぱりいいものだね。こっちのナンとラッシーも楽しみだよ」


 一刻も早く食べたい衝動を抑えているのか、わりと早口で感想を漏らすコアさん。

 待たせるのも悪いしさっさと次も出してしまおう。

 

「で、次はワインっと」


 ワインの項目を見るといろいろな銘柄がならんでいるが、正直俺はそこまでツウじゃないので適当に選んで並べてみる。幸いというかどの銘柄もDPに大した差はないので、地球だと百万単位はすると聞いたワインも出してみよう。


「ああー! ワインがいっぱいで幸せですー!」


 うん、幸せなのはわかったから、ビンに頬ずりするのはやめなさい。

 ブドウも収穫したけど、ワインの詳しい作り方がわからないから手つかずなんだよね。まぁ、そのまま食べてもおいしいからってのもあるけど。


「次はサラダ用のドレッシングっと」


 コアさんのリクエスト通り、ゴマと青じそ、それにシーザードレッシングを1リットルずつテーブルの上に出す。


「うわぁ! どれから試そうかなぁ?」

「必要は材料は……うーん、足りない材料があるね」


 オルフェの歓声にまじって、ラベルの原料欄を見てコアさんが残念そうにつぶやく。でも、コアさんなら似たような味を代替品を使って、作ってしまいそうな予感しかしない。 


「主さん、パフェも早く早く!」

「はいはい、今出すから待ってな」


 俺のソデをひっぱる勢いで催促するアマツを抑えて、いよいよパフェを出そう。


 召喚の光をまとい、最後に姿を現したのは、大きさ30センチほどの5つの芸術!

 ガラスの中にスポンジケーキやシリアルフレークが込められ、隙間を埋めるように生クリームがたっぷり詰められた様は、まさに糖分でできた頑丈な地盤!

 その強固な地盤の上に建つは、バニラアイスでできた白亜のキャメロット城!

 中央に鎮座するは、黄金に輝くプリン! プラチナのような白い生クリームに、巨大な宝石めいて輝く真っ赤なさくらんぼが付けられてできた王冠を身に着けた様はまさにデザートのアーサー王!

 プリンを囲むように置かれたイチゴやキウイといった個性あふれるフルーツ達は、まさに王を守護する円卓の騎士達!


 そう、デザートで表現されたアーサー王伝説、これこそがプリンパフェなのである!


 召喚時の光の粒子はとっくに収まったはずなのに、魔力の光を受けて輝く5つのプリンパフェはケモミミ娘達の視線を一心に受ける!


「こ、これがパフェっちゅーデザートなんか!」

「とっても奇麗ですー!」

「すごい! この真ん中にある黄色いのってなに!?」


 パフェを見た事がない3人が目を輝かせ、口々に黄色い歓声を上げ、


「そう、これがパフェで真ん中にあるのがプリンっていうお菓子だよ!」 


 コアさんが胸を張ってドヤ顔でパフェの解説している。

 なぜここでドヤるのかわからないが、野暮な事は言うまい。ツッコミは心の奥底にしまって、ラッシーを人数分注いでいく。


「ほれ、これで出すものは全部出したしさっさと始めるぞ。みんなもう待ちきれないだろ?」


 コアさんのドヤ顔解説をさえぎって、ラッシーが入ったコップを全員に手渡していく。

 全員が席についたのを見て、乾杯の音頭を取るべくコップを掲げる。


「えー、今回もみんなよくやってくれた。今日は――」

「カンパーイ!」


 カンパーイ! 


 かくて我慢しきれなかったコアさんのフライング乾杯により、戦勝会はにぎやかに幕を開けた。

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