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5-20 アフターケア

 地団駄はなぁ、子供がやるならまだいいけど、オルフェがやると周辺がシャレにならない。

 オルフェが地面を蹴るたびに足がめり込み、周辺の地面が押し出されて盛り上がっている。


 まぁ、彼女の気持ちもわからんでもない。オルフェにはいつも畜産を頑張ってもらっているが、本来ダンジョンモンスターとしての本分は防衛である。

 なのに自分と似たような格闘タイプと戦い、コアさんのサポートを受けた上で一発も自力で攻撃を当てられなかった。

 ダンジョンモンスターとしてのプライドが傷つけられてしまったのだろう。


「おーい、オルフェー」

「うー、ごしゅじーん」


 彼女が少し落ち着いた頃を見計らって声をかけてみる。

 振り向いたオルフェは涙目になっていた。この子結構涙もろいな。


「ご主人、僕弱いのかなぁ? 一回も攻撃が当たらなかったよぉ」


 ウマミミと肩を落とし、目に見えて落胆してるのが見て取れる。


「いや、そんな事はないぞ。俺は距離を取って見てたからなんとなくわかったが、今回はオルフェの弱点が出た形だと思う」

「弱点?」


 オルフェが首をかしげてオウム返しに聞いてきた。まぁ、こういうのは本人が気が付かないから弱点って言うんだろうけど。


「うん、今回オルフェが手も足もでなかったのは、訓練不足が原因だな」

「訓練不足ぅ~? でも僕、ちゃんと毎日蹴りの素振りと、ご主人から教えてもらった筋トレしてるよぉ?」


 訓練不足と言われたオルフェがウマミミを立てて、こちらに詰め寄り反論する。

 その肩を軽く押して制し、言葉を続ける。


「あー、言い方が悪かった。おまえ今までに全力を出して模擬戦をした事ないだろ?」

「え? えーと、それはぁ……」

「こっちに遠慮する必要はないぞ、事実なんだからな」


 オルフェが首をゆっくり縦に振って肯定する。だがこれはオルフェが訓練をサボっていたわけではなく、単純に相性の問題である。

 触ったものの魔力を消す体質を持つオルフェには、俺の魔力障壁やコアさんの幻術がいっさい効かない。

 なんせ障壁はオルフェが触った瞬時にかき消えて、幻術はかけた瞬間に切れるんだからな。


 そうなると身体能力の差を埋められず、オルフェは手加減して訓練せざるをえなかったのだ。


「実際見てみて、一つ一つのフォームは教科書のお手本のように奇麗だった。見とれる程にな」

「そ、そう? えへへ~」


 ウマミミをピコピコ動かしながら照れるオルフェ。この馬はほんとチョロイのぅ。

  

「だがな、フォームが奇麗すぎるせいで技と技のつなぎ目が切れてたぞ。攻撃くらった時はそこを突かれただろ?」

「うっ!?」


 オルフェが正拳突きを放った時に足を止めたから、そこを付け込まれてたな。


「後は初めて自分と対等かそれ以上の敵と戦って、少しビビってただろ」

「ううっ!」


 突っ走ってたのは気圧されたのを隠すための裏返しだと思ったが、こちらも図星だったか。

 オルフェは少しうなった後、頭を抱えてしまった。


「うー、やっぱり僕弱いのかなぁ?」

「いや、だから最初に訓練不足だって言っただろ。逆に言えばちゃんと訓練できれば克服できる弱点じゃないか、こんなの」


 解決策はすごく単純。オルフェが同等の相手とスパーリングを繰り返して慣れればいい。

 そう、解決策は単純なんだが……


「問題はオルフェとガチンコでスパーリングできる仲間がいない事なんだよな」

「いや、それなら大丈夫だよ」


 そう言いながら、コアさんがひょこっと俺の隣りに立つ。


「お? コアさんなんかいいアイデアがあるのか?」

「アイデアっていうほど立派なものじゃないけどね」


 コホン。とコアさんがわざとらしくせき払いする。そして……


「マスターが死ぬ気でオルフェの相手をすればいいんだよ」

 

 人差し指をたててにこやかに言い放つ。この女狐とんでもねぇ爆弾発言しやがった!


「いや! 死ぬから! 障壁なしじゃ10秒もたないから! 大体それならコアさんがやったらどうだよ!? 同じ前衛だろ!?」

「いやいや、マスターはちゃんと有言実行をするべきだと思うよ?」


 は? 有言実行? コアさん突然何言ってるんだ?

 思わずコアさんの方に向き直る。


「俺がいつ何を言ったってんだ?」

「ほら、ダンジョンで必要な設備がないのは、マスターの落ち度って言ってたじゃないか? 今オルフェのスパーリングパートナーがいないのは、マスターの落ち度じゃないのかい?」


 ……!


 温泉作った時のアレかー!? いやあれは温泉作るための建前であってですね……

 いや、やめよう。ここでゴネたらあの時のセリフがウソになってしまうからな。


「わかった! 俺がやるよ。ちゃんと全力で戦えるようにするから、まずは70%くらいからで頼むよ」

「やった! ご主人ありがとう!」


 70%でも障壁なしじゃ相当つらい相手ではあるが、自分のレベルアップにもなると頭を切り替えよう。

 オルフェも喜んでるし、イチャつくと考えれば悪くはない。下手すると死ぬけどな!


「あ、そうだ。後はオルフェもコレ飲んでおけよ」


 そう言いながら回復薬を取り出し、オルフェに手渡す。


「え? でも僕はそんなに大きなケガしてないよぉ?」

「いや、おまえは回復魔法が効かないんだから、これも効かない可能性があるだろ? 今のうちに効くか確かめておきたいんだ」

「はーい、そういう事なら」


 オルフェはフタを開けると一気に飲み干す。


「ごちそうさまぁ。あ、なんか治った気がする」

「早っ! マジで!?」

「うん、ほらぁ~」


 そういってオルフェは服がやぶれて、肌から出血していたところについていた血をこすって拭う。

 血を拭い去った後には擦り傷一つない奇麗な肌しかなかった。


 ……本当に治ってやがる。つまりこの回復薬は魔力由来ではないってことか。


「ま、まぁ治ってよかったな。これで最悪の事態が発生しても、飲めば治るってわかったな」

「そうだねぇ。これでどんなケガをしても大丈夫!」


 ニコッと笑ってサムズアップを返すオルフェ。

 機嫌が治ったのはいいけど、そんなに治療薬を過信されても困る。勢い余って死ぬなよ?

 とにかくやれやれ、ようやくケモミミ娘達のアフターケアが終わった。


 これでやっと本題に入れそうだ。

 あらためてコアさんの方を向き、虫怪人の死体の方にゆびをさす。


「で、結局こいつは何だったんだ?」


 コアさんなら何か知ってるんじゃないかという思いを込めて聞いてみる。


「いや、私もこんな奴は知らないよ」


 俺の淡い期待は、コアさんにゆっくり首を横に振られて否定された。


「でもね、こいつの正体はなんとなく予想ができてるんだ。もし私の予想通りなら、もうすぐある変化がおこる頃なんだ」


 そういうとコアさんは虫怪人の方を向く。それにつられて俺も同じ方を向いてみる。

 変化って言ってもねぇ。これ死体だし、まさかゾンビ化するとか言わないよね?

 

「なぁ、コアさん。変化って――」


 俺がそのセリフを言い終わる前に、本当に変化は起こった。

 虫怪人の体が淡く光り、輪郭が徐々にぼやけていく。


 いや! 違う! ぼやけていってるんじゃない、崩れていってるんだ! 

 虫怪人の体が分解され光の粒子となって消えていく。

 俺はこの現象を見た事がある気がする。これはたしか――

 

 

「うん、やっぱりそうだったか」

「知っているのかコアさん! 一人で納得してないで、早く説明してくれ!」 


 すべてを悟ったようにうなづくコアさんに対し、事情がまったくわからない3人を代表して、俺が問い詰める。

 コアさんはゆっくりこちらに体を向け、


「マスターはあれを見てどう思ったかい?」


 目だけで虫怪人を指して聞いてきた。質問で返すなといいたいところだが、コアさんの事だ、そこには何らかの意味があるのは間違いない。


「……天井ボウガンが壊された時、こんな感じに消えてたな。と」

「まさにその通り。あれはダンジョンモンスターが死んだときにおこる現象だね」


 ……何だって!? 

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