5-19 戦闘終わりて
ようやく緊張がとけ長く息をはく。それを合図にしたかのように二人が声をあげる。
「お、おおー! ご主人様すごいですー!」
「普段のマスターからはちょっと想像できない姿だったね」
ちょっとまてや、ククノチはともかくコアさんはそれほめてんの?
「こういう時に決められるように普段は失敗してるんだよ。それよりククノチ、そろそろ下半身のツタとってくれない?」
「あ、そうですねー。忘れてましたー」
ククノチの能天気な声と共にやっと下半身が解放された。なんかヒワイな表現だが本当なんだししょうがない。
くるりと振り返り、手当てを受けるコアさんを見てみる。
彼女は片腕ずつククノチのツタにグルグルに巻かれて固定されており、ツタのベッドに寝かされていた。
「ククノチ、コアさんの両腕は治りそう?」
「どうやら骨が粉々に砕けているようですー。私の回復魔法でも今すぐに全治は無理ですー」
「痛みを感じてないだけでも御の字だと思わないとね」
回復魔法と言っても限界はやっぱりあるか。
「よし、じゃあいい機会だしこれを使ってみよう」
そういって俺はふところから回復薬を取り出す。この回復薬は前回の襲撃の際にDPで交換して使わなかったものだ。
召喚ウィンドウの説明では「服用すればたちどころに傷が治る」と書いてあったので、一回は使って効果を確かめないといけないなとは思っていた。
ピンチを乗り切り魔法で治せないケガ人が出てしまった今、試すにはいい頃合いだろう。
「ククノチ、ちょっとコアさんを起こしてやってくれ」
「はいー、ちょっと失礼しますねー」
ククノチは腕からさらにツタを伸ばすとコアさんの下に潜り込ませると、そのまま介護ベッドのようにコアさんの上半身をゆっくりツタが起こしていく。
おー。便利だなぁ。ククノチがいれば俺の老後も安泰だわ。
「よし、じゃあコアさんこれを飲んでくれ」
「ん」
両手を使えないコアさんの代わりに口元に回復薬を当てて飲ませてやる。
コアさんは目を閉じてコクコク飲んでいたが、飲み干す前に回復薬を少し口の中に残して味わっているようだった。
じっくり味わった後、コアさんはゆっくり薬を飲み干した。
さぁ、見せてもらおうか異世界の薬の性能とやらを!
コアさんがゆっくり目を開ける。
「少し苦いけど飲みやすいね。」
「回復薬もじっくり味わうとか、コアさんらしいといえばらしいけど。コレ結構お高いんだから料理に使うなんていうなよ?」
「それは残念。究極の薬膳料理が作れると思ったのに」
なんだろう。興味はあるけどすごい違和感を感じる。異世界広しと言えども回復薬をまぜて薬膳と言い張るのはコアさんぐらいな気がする。
「んん?」
少し雑談していると唐突に、本当に唐突にコアさんが首をかしげて腕をもぞもぞさせ始めた。
「どうした? 傷が痛むのか?」
「いや、なんか腕がこそばゆくて」
固定された腕を上下に動かすコアさん。なんかキョンシーみたいだな。そのまま手を何回か握って開いている。
「コアさん、あんまり動かさないでくださいー」
「そうだぞ。痛みがなくても安静にしてろよ」
「いや、それがもう治ってるみたいなんだよ」
は? さっき回復薬飲んだばっかだろ!?
疑惑の目を向ける俺とククノチに対してきょとんとした表情でこちらを向くコアさん。
「こんな時にウソなんていうわけないよ。だからククノチ、ツルをほどいてくれないかな?」
「ちょっと信じられませんが、コアさんがそういうならー。ダメだったらまた固定しますからねー」
コアさんの腕に巻かれていたツタがほどかれると、コアさんは見せびらかすように腕をまげて見せてきた。
「ほら、見ておくれよ。これがケガをしてるように見えるかい?」
コアさんが見せてくれた腕は、いつもと変わらない透けるように奇麗な肌色をしていた。
「う、うそですー! あんなに青紫色でひどいケガだったのにー!」
手当でコアさんの腕を見ていたククノチが両手を自身の頬に当てながら叫ぶ。
「触ってみても大丈夫か?」
「問題ないよ。存分に触診してくれてかまわない」
お許しがでたので存分に触らせてもらおう。いつもしっぽは触らせてもらってるけど。
一応コアさんの顔色をうかがいながら触ってみる。ひじのあたりから徐々に手の方まですこし力を込めて触ってみるが、コアさんは痛がるような様子をまったく見せない。
うん、これはもう本当に治ってるとしか思えない。
「これでこれからの晩飯もコアさんが作れるな! 本当に良かった」
「心配するところはそこかい? あんな命令出しておいて、ひどいマスターだよまったく」
コアさんはプイっとそっぽを向くふりをするが、すぐにこちらに向き直り、ククノチのツタでできたベッドを降りる。
「さて、もうケガ人じゃないからこれは必要ないね。助かったよククノチ。……ククノチ?」
コアさんがククノチの方を向いたのに合わせて視線を移す。
そこには両手を頬に当てた状態から動いてないククノチがいた。
「そ、そんな……私今回ほとんどお役に立てなかったのに、私が治せないケガまで回復薬で完治しちゃったら、もう私いらない子じゃないですかー!」
ククノチの絶叫が部屋中に響き渡る!
確かに戦闘面ではヒーラーとして参加したのに、自分の回復能力が薬に劣っていたら面目丸つぶれだろう。
「いや、それは違うぞククノチ」
いまだに姿勢を変えていないククノチの前に立ち、しっかり顔を見据えながら言葉を紡ぐ。
「今回はたまたま相性が悪かっただけだ。あらゆる状況に対応するって事は、使えないし使わない手段も必ず出てくるって事だからな」
「ううー」
まだちょっとぐずってるククノチに向かって、コアさんがククノチの肩に手をおく。
「それに役に立つ立たないの話をしてしまったら、普段はダントツでククノチが一番役に立ってるよ。肉と魚のDPも入ってはきてるけど、まだククノチが育ててくれた野菜が一番のDP元だからね」
そうそう、普段は俺が一番何もしてない。インフラの整備はしてるけどDPがたまらないとできないし。
「回復薬にしたってこれは緊急用だから気軽には使えないぞ? これ一つでワインをタルで何個か出せるくらい高いんだぞ」
回復薬にかんして言えばかさばらせたくないのもあって、品質重視で出してるから高いってのもあるけど。
ちなみに魔力回復薬はまだ最高級品を使う程、みんなの魔力が強くないのもある。
「今回力不足を感じたなら、これから力をつければいいだろ。薬と違ってお前は成長できるんだからな」
「うー、わかりましたー。もっと頑張りますー!」
胸の前でギュッと手を握って答えるククノチ。そのポーズはアマツがよくやってた気がするがうつったかな?
アマツもそうだがククノチもなかなか破壊力があるポーズじゃないか。なんというか……最高だ!
とはいえ力不足を感じたのはククノチだけじゃない。むしろこの場にいる全員が思っているだろう。
なんせ今回は四人がかりで辛勝である。おまけに相手が魔王とかのラスボスならともかく、今回はとてもそうは見えない虫怪人だもんなぁ。
こんなのが外の世界にウヨウヨいたらたまったもんじゃない。俺たちは生き抜くためにはもっと強くならないといけないのだ。
「さてと」
今までスルーしていたが、今回一番力不足を感じているだろう人物が俺の後ろにいる。
そう、時々破砕音が聞こえていたがあえて聞こえないフリをしていた。だがそろそろその人物にもアフターケアが必要だろう。
ゆっくり後ろを振り返る。
そこには地団駄を踏み、床を破壊して耕すオルフェの姿があった。