1-7 自給自足はサバイバルの第一歩
異世界に呼ばれて早数日、大体やることが固まってきた。
朝起きたら朝食のドクリンゴモドキをかじり、まずはダンジョンを維持するためにDPに変えるための木の実を集めて回る。
適当に腹が空いたところで昼食となり、まだ食べた事のない食べられる木の実を味見を兼ねて食べる。
基本食えるものは貯蔵して、まずいものはDPとして利用するから無駄がない。
その後は新しい木の実を取るための新しく道を作ったり、沐浴や洗濯をしているとあっというまに日暮れになってしまう。
あたりが暗くなったら魔法の練習をして、魔力が尽きたら寝る。
明かりがないので1日の日照時間を16時間、夜間時間を8時間に設定しなおした。日の出から日暮れまでが俺の活動時間というわけだ。
振り返ると社畜時代に比べて実に健康的な生活を送れている。木の実しか食えていないという事を除けばであるが。
尚、ドクリンゴモドキを超える美味さの木の実はなかったので、当分主食の座は譲らないだろう。
ルーティンワークという点では地球で送っていた社畜の日々と変わらない。
ただし、こちらの生活では日々DPが溜まっていくので、まったく変わっていないわけではない。
そして今日、先日川の中で思いついたアイデアを実行するDPがようやくたまった!
ついに実行する時がやってきたのだ!
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「おおー、ほんとに出来てるなー」
新しくできたポータルをくぐって思わずつぶやく。
そこには農地に適した地面が広がっていた。
広さはDPの都合で4畳半ほどしか取っていないはずだが、見渡す限りの農地が広がっていた。
とりあえず端っこに向かって歩くと、すぐに壁のようなものにぶつかる。
どうやら奥に見える風景はハリボテというか幻のようなものらしい。
そう、俺はここに畑を作って野菜の栽培を始めるつもりだ!
どうやら今までの経験やコアさんの発言から、ダンジョンマスターはエリアごとに気温湿度風量降雨風量はては日照時間まで変更できるという事を知った。
つまり、各野菜に適した環境を作ることもできるし、雨を降らせて水まきもできる。
意図的にしなければ台風も冷害といった障害もない。
極めつけは季節もないので通年で栽培可能な上に、収穫後にダンジョンの復元機能を使えばDPは使うが土壌を回復できるらしい。
つまり連作障害を気にせずに、作物を作り続けることすらできてしまうのだ!
一応事前にコアさんに相談はしてあり、雨や土壌修復とかで消費するDPより収穫で獲得できるDPのほうが多くなるだろうということは、お墨付きをもらっている。
質量保存の法則はDPには適用されないらしい。
そう、この畑がゆくゆくはケモミミ娘や俺が超人になるためのDPを作る畑となるのだ!
……なんかこういう言い方するとソ連みたいだな。ケモミミ娘は畑から取れる。実にいい響きだ、最高だと思わんかね!?
「さてと、そろそろ始めるかな」
四つん這いになり、手に持った石槍で土を耕し始める。この石槍は集落跡で拾ったものだ。まだ家庭菜園レベルなので、スキやクワといった本格的な農具はまだいらない。
1時間位であらかた耕し終わったので次に植える作物を召喚する必要があるのだが、今回はキュウリにした。
理由はいくつかあり、俺自身は作った事がないが比較的簡単にできる野菜だと聞いていること、未調理でも食べれる事が主な理由だ。
召喚ウィンドウを開いてキュウリの苗を召喚し、苗を丁寧に植え付けていく。
DPの都合で数房しかないので4畳半の農地には大分スペースが空いているが、初回はこんなもんだろう。
植え付けが終わったので立ち上がって管理ウィンドウを開き、天候を操作して霧雨が降るように設定する。
たちまち空が曇り、やがて雨が降ってきて地面を濡らしていく。
見るのは初めてだったが、ミストシャワー代わりにも使えそうで本当に便利そう。
切りのいいところで晴天に戻しておく。今後は夜間時間中に霧雨を起こすように設定しておけば日光も遮らずに水まきができそうだ。
栽培といえばイナガジアとドクリンゴモドキもそれぞれ専用エリアで育てたいな。
どうも森林エリアは通年同じ気温なせいか、同じ種類でも実がなってたり花が咲いていたりバラバラで結構めんどくさい。
取りに行くにも時間がかかるので、それならコアルームから行ける専用果樹園を作りたい。
そんな感じで今後のDPの使い方についてアレコレ考えていたその時――
「マスター」
心なしか緊迫した声でコアさんが俺を呼ぶ。
「どうした? 何かあったか?」
「――侵入者がきた」
――なんだと!?
♦
コアルームに戻りながら管理ウィンドウを開く。最近ようやく目を開けながらでもできるようになってきた。
ただ意識がウィンドウ側にほとんど持ってかれるので、歩きながらは危険だ。
歩きウィンドウダメ、絶対!
監視モードから侵入者の確認をする。侵入者は……いた!
そいつは今森林エリア内のダンジョン入り口行きのポータル付近にいる。
俺の中で知ってる動物に例えると熊に近い。
身長は俺より大きいのがわかる程度だが、目につくのは異様に発達した……俺の胴回りを遥かに超えた右腕だった。
奴は立ち上がると、近くに立っていた木に向かってその発達した右腕を振るう!
速度もかなりのもんだ。
そして右手が木の幹にぶつかると、メギッという音を立てて幹にヒビが入った。
そのまま力任せに奴が右手を振りぬくと、そのまま幹がはじけ飛ぶ!
幹を失った木はそのまま横に倒れ、地に着き鈍い音を響かせた。
えええええ!? うっそだろ!? あんなん地球でできる熊がいるかぁ!?
「あいつは……うん間違いない、前マスターを食ったやつだね」
はっ!? 呆然としてる場合じゃなかった! 対策を考えないと……
「奴が……、前マスターは右手で一撃か?」
「そうだね、奴の右フック1発で頭が吹き飛んで死んでしまったよ」
そりゃそうだ、それなりに幹の太さがあった木であれだぜ。生身で食らったらそうなるだろう。あいつの右は世界を取れるレベルだ、もちろん地球レベルでだが。
とにかくあいつと正面戦闘では勝ち目がないどころか、餌にしかならないほど差があることがわかった。
ちょうど畑の生成でDPを使ってしまった直後なのも痛い。
決して教訓を忘れたわけではなかったが、どうやら俺も前マスターと同じ失敗をやらかしてしまったようだ。
不幸中の幸いと言うか真面目に毎日迷宮の胃袋に木の実を入れていたので、1日2日でDPがなくなることはない。
それに今も少しづつDPが増えて行っているので、このまま奴が出て行ってくれるまで籠城する方法もある。
だが仮にあいつがここに居座ってしまった場合、1日2日で出て行ってくれる保証がない。
それに今は入り口付近で木の実をむさぼっているからいいが、仮に中央の集落跡付近に来られた場合、俺が作った道を見つけられてここまで向かってこられたら、間違いなく死ぬ。
頭の中から籠城という選択肢を消す。となると次の手はダンジョンモンスターを召喚して迎撃することだが――
いや、これもダメだ。右腕で木を真っ二つに折るようなやつに対抗できるモンスターを召喚できるほどのDPはない。
籠城もダメ、召喚もダメとなると後は……
「一人で悩んでるより2人で相談した方がいい知恵もでるんじゃないかな? 幸い、時間はできたようだよ?」
言われて改めて監視ウィンドウを見ると、腹いっぱい食って満足したのか熊は寝入っていた。
どうやら俺よりコアさんの方が冷静に状況を把握できているようだな。
「ああ、そうだった。じゃあこれから作戦タイムだな」
コアさんの方に向き直り、2人で知恵を出し合う。
向き直る意味はないが、相談事は面と向かってやりたいからね。
ダンジョン拡張:農地エリア(キュウリ)を追加!