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5-16 vs 虫怪人1

「えっ!?」


 俺の突然の指示に戸惑うアマツ。普段こんな事はしないから慣れてないのはわかるが、今は一刻を争うんだ!


「後ろに気をつけろ! もうすぐそこまできてるぞ!」

「後ろ?」


 俺の念話に後ろを振り向く”だけ”のアマツ。

 ああくそっ! 空気が読めないのに加えて戦闘経験がないせいか、動作が遅い!


「あっ!」


 水路を飛んでくる虫怪人に気が付いたのかアマツが声を上げる。だが、声を上げただけでアマツは動かない! とっさの事で考えが回らないのか!? ならっ! 


「アマツ! 命令だ! 水に潜って電気をまとえ!」

「っ! 主さんわかったっちゃ!」


 ”命令”とつけたからか、アマツは反射的に水に潜り電気を発散させる。さっきもこういえばよかったのか?

 アマツが発した電気のせいか、海水が青白く発光するその上を虫怪人が飛ぶ!


 少し下を見ていた気もするが、すぐに前を向きアマツを無視して水路を進む。


「あっ、待つっちゃ!」

「いや、いい! 追わなくていいぞ!」


 仰向けに沈んでいた体勢を半回転し、今まさに追いかけようとしていたアマツを止める。


「えっ! でも――」

「そいつはこっちで処理する! おまえの役目は俺たちがあいつを倒すまで虫たちを水路で止めることだ! いいな!?」


 食い下がってきたアマツを強い口調で制す。だが、逃がした責任を感じてるのか、割り切れないように虫怪人が通り過ぎた方向をちらちらと見ている。

 幸い虫怪人と虫たちには速度の差があるようで、今の所抜かれたのは虫怪人だけ。むしろこれは各個撃破のチャンスでもある。


「さっきも言ったが、あの虫の大群を止められるのはおまえだけだ。だから”任せた”」


 最後の言葉を一文字づつゆっくり区切って言ってやる。その言葉に吹っ切れたのかアマツは正面だけを向き、今まさに迫りくる虫たちに対して水壁を張った!


「任されたっちゃ! 今度こそやり遂げてみせるとね!」


 よし、これでアマツが持つ魔力回復薬が切れるまでは何が何でも死守してくれるだろう。水路の問題は片付いた! 後は迫りくる虫怪人の対策だが――


 先ほど招集して俺の後ろに待機していた3人の方に振り替える。


「ククノチ、広場の出口を封鎖してくれ。あいつは速いからここを抜けられたら止められない」

「今水路を飛んできてるんですよねー。私も通路側に隠れたいですー」


 俺がアマツと会話している間に、どうやらコアさんが二人に敵を教えておいてくれたみたいだ。

 

「おいおい、おまえが後ろに行っちゃったら誰が回復してくれるんだよ。そこは我慢してくれ」

「ううっ、ですよねー。わかりましたー」


 理由はわからないが、虫に対して苦手意識を持っているククノチをなだめる。

 ククノチはとぼとぼ歩きながらも広場出口をツタのバリケードで封鎖してくれた。


「よし、まずは水路を飛んでるあいつに俺が矢を射かけてみる。照明を落とすから三人はサポートできる位置についてくれ」


 ここの広間は水路を通ってくる敵を攻撃できるように、水路は部屋に入ると90°曲がるように設計してある。そこに水路に対して矢狭間(やざま)付きの壁を作ることで、こちらは身を隠しながら水路を通ってくる敵を攻撃するという算段だ。

 壁の裏に陣取った後、腰にある矢筒から矢を一本取り、ダンジョン管理画面から広場とその付近の水路の照明を消す。


 徐々に周囲の魔法の光が消えていき、やがて広場は闇に支配される。

 水路の奥からわずかに光が入ってきているが、小さい矢狭間を抜けて届いた光は手元を照らすのも足りない。

 これなら黒い戦闘服を着てる俺はなおさら見えにくくなってるはずだ。


「暗くてよくみえないなぁ」


 オルフェがそう愚痴るが、よくみえないで済んでるのか。俺は何も見えんぞ。

 監視ウィンドウを開いて虫怪人の接近にそなえ、手の感覚を頼りに矢を弓につがえる。


「くるぞ!」


 奴はもう最終カーブのところまで来ている。俺はケモミミ娘達に警告した後、弦を引く。

 水路奥の目印にしていた光に黒い点のようなものが見えた。それは徐々に大きく、近くなっていく。

 以前手に入れた狙撃スキルの効果で、矢の先から黒い点まで白い射線がイメージされる。だが、今発射しても距離が遠く、当たっても大した威力にはならないだろう。


 右手に力を込めたまま慎重に距離を測る。視界が徐々に黒い点のみとらえるように狭く、脳が耳から届く水の音を意識の外に追いやる。


 ゆっくり息をはいて……放つ!


 放たれた矢は狙撃スキルのナビゲート通りの進路を通り、黒い点……虫怪人の額に向かって一直線!

 監視ウィンドウでも俺が放った矢が見え、虫怪人の額に突き刺さろうとしたその時――



 虫怪人が右手を振り、飛んできた矢を払い落した。

 まじかっ?! この暗さと相対速度でそんな事できちゃうの!?

 

 失敗した原因を考えてもしょうがない。考えるより先に体が動き、壁によりかかるようにして身を隠す。

 今の所、あいつが遠距離攻撃を持っている感じはしないが、まぁ念のためだ。


 監視ウィンドウから見る虫怪人はスピードを落とさず真っすぐ突っ込んでくる。

 このまま壁に激突してくれれば、勝手にダメージをおってくれ……


 その時、俺の第六感が警鐘を鳴らしたのか背中に強烈な悪寒を感じた!

 その悪寒から逃げ出すかのように、半ば無意識に前に向かってステップを踏んで――


 直後、背後から轟音が聞こえた。同時に後ろから体全体を吹き飛ばすような圧力がかかり、おもわず前のめりになる!


「うぉぉぉ!?」


 そのまま勢いに任せて、というよりは流されるままに前転を繰り返して壁から距離を取る。

 十分離れたところで前転をやめて振りむいた時、コアさんが照明を操作したのか部屋が徐々に明るくなっていく。


 正面に見えたのは、監視ウィンドウから散々見ていた虫怪人。その後ろには大穴が空いた壁だったものと周辺に散らばる破片。

 ヤバかった! 以前、筋狼族が壁を壊して攻撃していたという経験が、今回第六感として働いてくれたようだ。砕かれた時に飛んできたであろう沢山のつぶても、反射的に障壁を張れたので俺自身は無傷で乗り切れた。あの時オルフェに蹴られて訓練してなければ、ここまで早く張れなかっただろうなぁ。


 それより生身で壁を砕いてみせた虫怪人は傷を負っているようには見えない。少なくとも頑強さでは筋狼族と同等かそれ以上なんだろう。攻撃力の方も壁を砕いたことから見て、障壁なしで直撃したら俺は耐えられそうにない。


 硬直してる俺に向かって虫怪人が一歩踏み出……そうとして


「ご主人危ない! でりゃぁぁぁ!!」


 明かりが灯った事で、正確に敵の位置を認識したオルフェが虫怪人に向かって綺麗な飛び蹴りを放つ!

 助走をつけて放った飛び蹴りは弾丸のように真っすぐ虫怪人の頭に向かっていき――


 直撃すると思った瞬間。虫怪人が背を逸らしたことでオルフェの蹴りは虫怪人の眼前を通り過ぎ、反対側に行ってしまう。

 そこに追撃を入れるべく、コアさんが一気に駆け抜けて距離を詰める。

 刀の間合いに入った時、右手で(つか)を握り一気に抜刀し、その勢いのまま背中から横一直線に薙ぐ!


 だが、虫怪人は背を逸らした状態から脚力だけを使って上に跳ね飛ぶ!

 棒高跳びの選手がバーを飛ぶように、コアさんの一閃は虫怪人の背面をむなしく通り過ぎた。


 あんな避け方アリかよ!? どこの特撮だ!

 攻撃を避けられたコアさんがその勢いのまま駆け抜けて距離を取り、虫怪人はそのまま一回転して着地する。

 

 もうこれだけ見れば嫌でもわかる。こいつは相当な手練れだ。

 だが、それでもやるしかない。


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