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5-15 水路防衛戦

「主さん! 流してほしいっちゃ!」

「よしきた!」

 

 アマツの合図に合わせて、下流側に設置してある迷宮の胃袋の吸収を再開させる。

 同時に上流側にある水源から海水を流すと水路に水流が生まれ、アマツが作った水壁が動き始める。


「じゃあ、主さん。ちょっと行ってくるっちゃ~」

「おう、気をつけてな」


 こっちに向かって手を振った後、水壁を追うように泳ぎ出すアマツ。もちろん電気をまとったままだ。

 虫たちは変わらず水壁に突進し、アマツが流す電気に感電して動かなくなり一緒に流されていく。


 水壁は虫たちの死骸を吸収し、その規模を膨らませながら水路を流れる。もう水壁なのか虫壁なのかよくわからないくらい巻き込んでいる。

 

「やぁ!」


 水路の出口まで後三百メートルといったところで、アマツが気合を入れなおすように両手を前に突き出す。

 すると水壁が何かに押されたかのように加速し、水路を駆け抜ける!


「主さん、戻るっちゃ」

「おうよ」


 アマツのスタミナを少しでも温存するため、上流に向かって泳ぐときは水源と迷宮の胃袋を止めて水流を弱めてやる。

 その間に水壁は水路を飛び出して終着点の壁にぶつかり、巻き込んだ虫ごとまき散らして消える。

 虫たちが再び水路に入る頃にはアマツは上流側に戻っている。


 後はこれをひたすら繰り返すだけだが、心配なのはアマツの体力と魔力だ。

 だが、戻ってきた本人はひらひら手を振って、特に疲れた様子は見せていない。どうやら体力面は特に問題なさそうだ。


「おかえり。調子はどうだ?」

「特に問題ないとね。主さんに魔力を強くしてもらったから、回復薬は数回に一本使えば十分っちゃね」

「数回か、それなら余裕をもって使っていいぞ」


 他の三人には、森林エリアの果実や栽培している野菜を収穫をしてDPを捻出してもらっている。それに加えて流されて迷宮の胃袋に入った虫の死体も変換すれば、DPが底をつくことはないな。


「よし、次の集団が水路の半分まで来たぞ。よろしく頼む」


 となれば後は虫がいなくなるまで、ひたすら流し続けるのみである。一応命がかかってるので流し作業にならないように気を付けよう。



 それから俺とアマツはひたすら虫を流し続けた。20回をこえた頃から数えるのをやめた。命がかかってるはずなのに、単調作業はどうにも飽きてくる。

 

 俺の横に置いてあるバスケットからたまごサンドイッチを手に取る。このサンドイッチはコアさんが差し入れてくれたものだ。

 ただ、パンはまだウチにはない。なのでパンの代わりに厚焼きたまごで豚肉や野菜を挟んである。たまごを挟んだのではなく、たまごで挟んだサンドイッチだ。


 さすがコアさん、こんなのも平気で試して出してくる。ただ、こうして出して来たという事はちゃんとしたものに仕上がったという事だろう。期待して一口かじってみる。


「ん、んまいな」


 卵のほんのりとした甘みに、良く焼かれ塩味がつけられた豚肉がマッチして食べやすい。これは普通に朝ごはんや間食にちょうどいいな。単調作業に飽きてきたこともあって一気にむさぼり食ってしまった。

 惜しむらくはまだケチャップがない事だが、逆に言えばまだ伸びしろがあるという事だ。

 くそ~、もうちょっとじっくり食べるべきだったなぁ。これでまた単調作業の繰り返しになってしまう。


 たまごサンドイッチの味を思い返していると、水路から水が跳ねる音が聞こえた。帰ってきたか。


「ただいま主さん。魔法薬の補充をお願いするっちゃ」


 もうかなりの回数水路を往復してるはずなのに、まったく疲れを見せないアマツが魔力回復薬が入っていたポーチを差し出して来た。


「おう、これ交換用のポーチとコアさんからの差し入れだ」


 アマツからポーチを受け取り、交換用のポーチを手渡す。アマツは手早く付け直すと一緒に受け取ったたまごサンドを口に入れる。


「んふ~。おいしい~」

「おいおい、口元口元。たまごがついてるぞ」


 次の虫が水路を通ってここに来るまでまだ余裕はある。その間に心をいやしてまだ続く単調作業にそなえよう。

 お互いに慣れてしまったのもあり、もはや緊張感はかけらもない。さらにうれしい誤算として、回数を重ねるうちにアマツが最初より効率よく虫を処理できるようになったため、魔力補充で使う回復薬より虫の死骸で増えるDP量のほうが多くなったことも拍車をかけている。

 

「あ、そろそろ次が来るぞ」

「はーい。いってくるっちゃねー」


 ただただ単調ではあるが、ミスらなければDP稼ぎのボーナスステージになってしまった。最初の絶望感はなんだったのか? まぁ、水路という備えがなければ全滅してたところだったんだろうけど。

 サンドイッチを食べ終わったのでごろりと横になる。ここはダンジョンだが床は奇麗なので問題はない。いや、問題あったわ。硬い。


「マスター!」


 おっと、コアさんからの念話だ。妙に声が強いが、これはだらけてる俺に活でも入れようとしたんだろうか?


「ああコアさん。こんなナリだがちゃんと見てるから安心しなって」

「違う! 今すぐ入り口を見るんだ! なんか違うのが入ってきた!」


 んだと!?


 すぐに身を起こし、監視ウィンドウを入口付近に切り替える。入り口付近にはまだ虫が入ってきていて、まだまだおかわりは続きそうだ。

 で、違う奴はどこだ? 入り口付近にいないって事は先に進んだってことか? カメラを急いでダンジョンの奥に移動させて――


 ――いた。


 そいつは周りを虫たちが飛んでいる中、悠然と歩いていた。そう、歩く。こいつは人型だった。

 第一印象はちびっこに人気な仮面ヒーローをもっと虫よりにデザインした感じ。バッタをむりやり人型に進化させたらこうなるのかなぁという印象。

 そのせいかヒーローというよりは、怪人と言った方が近い。


 見た目といいこいつが虫を操ってるのか? 少なくとも飛び交う虫どもに襲われるわけでもないし、何らかの関係があるのは間違いないだろう。

 とはいえ、とても話し合いが通じるような相手には見えない。


 ……水路を抜けてくるようなら倒すしかないか。

 虫と一緒に抜けて来られたら話し合うどころじゃないからな。


「アマツ、まだ先の話だが人型の何かが近づいてくる。きたら敵として処理しろ」

「はーい」

「オルフェ、ククノチ、コアさんも水路をこえたところの広場にきてくれ。一応抜けられた時の用心にな」


 アマツを信頼していないわけではないが、相手がよくわからないからできる用心はしておいて損はない。

 とりあえずあいつは虫怪人と呼ぼう。あいつの監視とアマツのサポートで見る所が二つに増えて忙しくなってきた。


 だがまぁ、二カ所なら右目左目でそれぞれ見られるからまだ大丈夫。虫怪人もゆっくり歩いていて、その横を虫たちが飛んで追い抜いている。虫たちのせいでワナを全部片づけてしまったから、もしあいつがここまで来る気なら水路までは素通りされてしまう。

 

 監視を続けながらアマツがまた何回か虫を流した頃……虫怪人が歩みをピタリと止め、やや前かがみになる。一体何をする気だ?

 奴は俺の疑問に答えるかのように背中にしまってあった羽を悠然と広げる。そして地面を蹴ると歩いている時とは比べ物にならない速度でダンジョンを飛びだした!


 速っ!? このダンジョンはあらゆる状況に対応できるよう、狭い所もあれば進みにくいようにうねっている所も多い。

 なのに虫怪人は壁にぶつかることなく、周りを飛ぶ虫たちを吹き飛ばしながら一気に第2防衛ラインの崖を飛んでこえてしまった!


 ……っ! いかん! アマツは!?

 右目に見えていた虫怪人の光景から、水路を映している左目に意識を切り替える!

 どこだ!? ……いたっ! 水壁を下流に押し出して上流に戻ろうとしてる所か!


 ……まずい! あの速度差じゃこっちに来る前に追いつかれる!


「アマツ! すぐに水壁を張れ! 虫怪人がもうそこまできてる!」


 俺の懇願が多分に入った叫びと、虫怪人が単独で水路に入っていったのはほぼ同時だった。

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