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5-13 数の暴力

挿絵(By みてみん)


「マスター? 事情を説明してもらおうか?」


 コアさんの仕事場ともいえるダイニングルームにて、俺は今、濡れた床の上に正座させられていた。

 今まで散々水浴びをしてきたから慣れているとはいえ、冷たい物は冷たい。


 うつむいていた状態からちらっと顔を上げてみると、コアさんが青スジを立ててこちらを見下ろしてる。

 さらにその奥には……大破して水を吹き出してる調理台がある。犯人はもちろん俺だ。


「今少しの時間と予算を頂ければ……」

「弁解は罪悪だよマスター。それにマスターならDP(予算)はともかく、時間はたっぷりあるじゃないか」

「まぁ、ああ言われたらこう返すのがお約束ってもんだ」


 さすが、俺の記憶を共有してる事はある。細かいとこにも合わせてくれるコアさんは大好きだ。


「それで、実際何をしようとしたんだい?」

「ああ、実は食洗器を作ろうとしてたんだ」


 当番制になってる食器洗いだが、新しい調理器具を作ったりDPでだしたり、さらに盛り付けをよくするために食器をそろえてみた結果、徐々にではあるが洗い物の量が増えてきた。

 以前考えてた事もあって、それならいっそ自動化してしまおうと試行錯誤してたんだが……


 調理台の下の適当に空いているスペースに小部屋を作り、そこを密封して激流のワナで水を流して汚れを落とす。これでいけると思って作ってみたんだ。

 結果。目論見はうまくいったんだが水の排出方法をミスったらしく、部屋の中で圧縮された水が調理台を破壊して飛び出して来たというわけだ。


「まぁ、マスターが保全機能を使えばすぐに元通りになるけど、自分の仕事場が荒らされるのはいい気分じゃないから、次は気を付けておくれよ?」

「はい、すみませんでした」


 さっそく保全機能を使うと飛び散っていた水と調理台のかけらが床に吸収され、召喚した時のような光が調理台の残骸をまとう。

 そして光が収まった時には、何事もなかったように調理台が新品のように存在していた。


 ふぅ、これで元通り。とりあえず今回は修繕に使ったDP以上の損害はない。

 ただ、コアさんのいう事ももっともである。いろいろ設備も増えてきたし、それらに損害を出さないために実験・研究用の部屋を作る時が来たのかもしれない。できたものを移すのは簡単だし。


 このダンジョンの機能を使えばできそうな事はまだまだ多い。それに自分専用の研究室を持つのは秘密基地と並んで男のロマンである。そう思わないかいコアさん?


 振り返った俺に見えたのは、苦虫をかみつぶしたように嫌そうな顔をするコアさんの顔だった。


 えっ!? そんなに嫌な反応をしなくても……やっぱ女性として召喚したから男のロマンはわかってもらえないのか。ちょっと……いやかなりショックだ。

 気を取り直して食洗器をさっさと作ってしまおう。さっきの失敗で水加減は大体わかった。次はうまくいくっしょ……


「別に研究室を否定したわけじゃない! それよりダンジョンに何か入ってきた!」


 しょげて後ろを向いた俺にかけられたのは、かなり珍しい焦りが入ったコアさんの叫びにも近い声。

 よかった! 研究室を否定されたわけじゃなかったのか!


 ……違う! 重要なのはそこじゃない! コアさんは『何か』って言っていた。いつもなら『侵入者』っていってるはずのコアさんがだ。


 思い直してコアさんの方を振り向くと……悪寒をまとっているように身を震わせている。


「おい! 大丈夫か!?」

「うん、身体的な問題じゃないから大丈夫。それよりマスター、早く入り口付近を見てみるんだ」


 コアさんが急かすとは……よほどやばい何かが入ってきたのか?

 とにかくまずは情報だ、急いで監視ウィンドウを開き入り口付近を見てみよう。


「んー?」


 なんだろう? なんか細かいのがいっぱい飛んでる? それが画面全体を覆いつくしてるせいであんまりよく見えない。

 少しずつピントが合って、よく見えて……


「げぇっ!?」


 監視ウィンドウで見えたおぞましい光景に反射的に身震いし目を閉じる!

 ぎゃああ! 目を閉じたからより鮮明に見えてるぅー!

 

 だからこういう時は逆だ! 目を見開いてコアさんの顔を視界に入れて脳裏に焼き付け、上書きするに限る!

 狐耳が垂れ下がりまだ少し青い顔のコアさんをじっと見る。この表情はレアなのでしっかり心に焼き付けよう。

  

「あれは……やばいなぁ」

「あれは予想外だよねぇ」

「いや、ほんとにな」


 落ち着くためにほぼ独り言のつもりでつぶやいたが、コアさんは話しかけられたと思ったのか返事をしてくれた。

 とりあえず対処を考える前にもう少し話して落ち着きたい。まだ心臓がバクバクしてるから、冷静に考えられそうにない。

 

「コアさん、虫はダメなのか?」


 さっきの顔が俺の研究室に向けたものじゃなければ、入り口にいたアレに反応したんだろう。

 コアさんはゆっくり首を振って否定する。


「いや、虫自体は問題ないんだけど、あんなにたくさん入られた事なんてなかったから。しかも感覚共有してたせいで、とても気持ち悪かった。今、ようやく慣れてきたところさ」


 軽くほほえむコアさん。俺にその感覚はわからないが、どんな感じだったのかはなんとなくわかる。そりゃあんな顔もしますわ。


 よし、大分落ち着いてきたからもう一回監視ウィンドウで入り口をのぞいてみよう。

 覚悟はできてるから今度は耐えられるはずだ。でも、できればいろんな意味でいなくなっててほしいなぁ……


 ……ちらっ


「あぁ……」 


 実に淡い期待であった。いなくなるどころかむしろ逆にどんどん入り口から入ってきてる。

 さっきはビビってすぐ監視ウィンドウを閉じちゃったけど、あくまでウィンドウごしだから顔に飛びかかられるわけじゃない。そう思い直し、虫の群れをじっくり見る。


 そう、虫の群れ。俺の記憶の中じゃマンガや歴史書の中だけの話だが、地球上では現在でも発生しているらしい災害。

 ただ、地球と恐らく違うのは虫の一匹一匹が手のひらサイズだという事。そして異様に発達した……そうクワガタの角のようなでかい牙を生やしたバッタっぽい生物。

 あの大きさのあんな牙で噛まれたら肉をえぐられる事間違いなし。いや、あんな大群に群がられたら骨すら残るか怪しいだろう。


 カメラを奥に移動させると、徐々にではあるが先頭集団がダンジョンの奥に進んでいる。俺はバッタの生態なんざ知らんが、食べ物がなさそうな洞窟風のダンジョンの奥に進むもんなんだろうか?


 進んでくるなら対処しないといけないな。仲間たちの招集を済ませた後、集合地点に向かいながら監視を続ける。

 ある地点にて、進んでいたバッタたちが突然天井に向けて進路を変えた。あそこには確か……


 げっ! いつぞやのゴブリンとかを打ち抜いた天井ボウガンに群がったと思ったらあっという間に食い散らかしやがった!

 ボウガンの破片がパラパラと落ち、地面に着くかつかないかというところで粒子になり消えていった。あれじゃ腹も満たされないだろうな。


 あんな細かいのが沢山いたら道中に置いてある、ほかのワナも役に立ちそうにない。むざむざ壊されてDPを無駄に使うよりは回収しておいた方がマシだな。


 しかし、それにしても……


「あれが、蝗害(こうがい)ってやつか……」


 日本に住んでると縁がないから知識だけで軽く考えていたが、実際に身に降りかかる今となっては恐怖でしかないな。

 

 

ゲラゲラコンテスト応募用に1本漫才を書いてみました

https://ncode.syosetu.com/n4892fu/


2000文字ないのでサックリ読めます。

お供にどうぞ

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