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5-EX3 異世界からの来訪者3



 やはり風呂は最高だ、美少女二人と混浴してると特にね。

 ある部分のせいでアマツに苦手意識を持っていたメルさんだったが、アマツに悪気がなくてただただかわいいのがわかると打ち解けたようだ。

 

 二人は今、メイン風呂でお湯の掛け合いをやっている。それを俺とシェルさんが世間話をしながら眺めているという状況になっているのだが……

 最初は普通に掛け合っていたはずなのに、いつの間にか水魔法を使った水弾の飛ばしあいになっている。どうしてこうなった!?

 まぁ、俺とシェルさんに飛んでくる水弾は障壁で防げば問題ない。ただ、誤射して周りにある観葉植物を傷つけるなとだけは念を押して言ってある。理由なく植物に傷をつけると、ククノチが怒るからな。

 

 なんか違う気もするが、こういうじゃれあいを見るのも悪くはない。これだけで吸う空気も美味い。

 我ながらバカな事を考えてるな。そう自虐しながらもこの時間を楽しんでいた時、


「マスター、歓迎会の準備ができたからメルさん達を連れてきてくれるかな?」

「おっ、できたか。りょーかい」


 コアさんからの念話が入ってきた。楽しかった入浴タイムもついに終わりか。だが次に待ってるのはさらに楽しい飯時である。

 この光景を心のアルバムに焼き付けたら、名残惜しいが二人を止めるとしよう。

 立ち上がり、二回手を叩いてこちらに注目させ、


「二人とも、歓迎会の準備が出来たようだから入浴は終わりだぞー」

「はーい」


 背丈が似てるのもあって、手をつなぎながら風呂から上がるその様はもうすっかり友達だな。

 アマツの案内で二人が脱衣所に入っていったのを見届けて、俺も男性用脱衣所に向かっていった。


 

 アマツがメルさんをつれていくのを後ろからながめながら、俺も一緒にダイニングルームに入る。

 部屋に入ってまず出迎えてくれたのは、個々の料理が争うように発するなんとも腹が空く香り達だった。

 テーブルを埋め尽くしていた食材たちは、今や料理となってテーブルを埋め尽くしている。

 ひととおり料理を眺めた後、部屋の奥にいた三人に視線をうつす。


「これはすごいな、ククノチとオルフェも手伝ってくれたのか?」

「ですー」

「だよぉ」


 質問に満面の笑みで答える二人。


「そっか、俺たちがのんびり風呂に入ってる間にありがとな」

「ククノチはともかく、オルフェは力加減を覚えるのが次の課題だね」


 そういったコアさんが指をさしたその先には……手形のようなヒビが入った木のボウルが置かれている。

 

「おいおい、何をどうしたらああなるんだ?」

「いやちょっと、コアさんに頼まれてドレッシング? とかいうのをかきまぜてたらつい力が入っちゃってぇ。あ、あはは~」


 視線をあさっての方に向け、乾いた笑いでごまかそうとするオルフェ。

 ドレッシングが疑問形だったのは、コアさんから初めて聞かされた名前だからだろう。

 

「ボウルは新しいのを作ればいいから気にするな。でも次は気をつけろよ」

「はぁい」


 俺もDPで強化されて筋力はもはや人間離れしている。だが、俺自身はどれくらい力を込めたら物が壊れるか想像がつくけど、あまりそういう経験がないオルフェはついやりすぎちゃったか。

 とはいえ、オルフェの筋力は俺よりも強いから、手加減に慣れてもらわないと困る。


「ご主人様ご主人様ー」


 オルフェとの会話が一息ついた時を見計らって、ククノチが俺を呼ぶ。

 ここでククノチが俺を呼ぶ用件なんざ一つしかない。


「おう、酒か? 何がいいんだ?」

「はいー! えっとですねー」


 ククノチは笑顔で答えると、テーブルの上に並ぶ料理たちを見て嗅いで考え出した。

 食材の選定は基本的にコアさんがやってるが、酒のチョイスだけはククノチの方が優れているとコアさんも認めている。だから、俺が勝手に出すよりもククノチに選ばせた方が間違いがない。


「んー、赤ワインと日本酒と甘いリキュールがほしいですー」

「普段ならどれか一つにしろと言ってるところだが、今日は特別に全部出そうか」

「わー! ありがとうございますー!」


 両手を胸の前に当てて喜ぶククノチの眼前に酒を出してやる。

 ククノチが喜々としながら最初に飲む酒を選ぶさまを微笑ましく眺めていると、不意に俺の服のソデを誰かに引っ張られた。

 引っ張られた方を向くと期待に満ちたまなざしを向けるアマツと目が合う。


「うん、次はケーキ出すから……コアさんどれがいい?」

「そうだね、今日はレア・スフレ・ベイクドのチーズケーキ三種盛りなんてどうかな?」


 酒を三種類選んだからか、ケーキも三種類上げて来たな。

 アマツはケーキは大好物だが、どんなケーキがあるかは知らない。

 だからこういう時は、俺の地球のいた頃の記憶をある程度共有してるコアさんが、食べたい物を選んでいる。

 ちなみにメルさんはケーキならなんでも好きだから、お任せするって言われた。


 テーブルが料理でいっぱいだったので調理台にケーキを出すと、興奮したメルさんが立ち上がって現物を確認し始めた。そして本物だと確信すると、首をものすごい勢いでコアさんの方に向ける。

 ただ、当のコアさんは素知らぬ顔で「必要なものはそろったし始めようか」と、仕組みを教える様子はまったく見せない。


 コアさんはそのままちらっと俺の方に視線を向ける。さっさと始めろって事か。

 メルさんをなだめ、食後に食べることになったケーキを迷宮の胃袋に保存した後、歓迎会は華やかに始まったのだった。



 楽しい時間は過ぎるのも早い。テーブルの上にあった大量の料理も、大半が皆の腹の中に納まった。

 料理はメルさんシェルさんにも高評価で、その小さい体に不釣り合いなほど食べていた。

 旅をしてる時は食える時に食えるだけ食うスタイルとの事。わかる。

 

 俺はもう十分二人と話したから、この歓迎会中はほとんど話さなかったけど、みんなはメルさんとシェルさんの異世界体験を身を乗り出して聞いていた。

 うーん、まだウチのダンジョン、マンガも映画もないからなぁ。みんな物語に飢えてるんだろうなぁ。


 メルさんの話も一段落し、物語に魅了されていたみんなが一息着いた時、突然メルさんの右手、いや、正確には右手付近につけている腕輪が光り出した。

 部屋がさらに明るくなり、みんなの視線が一斉に腕輪に集まると、メルさんは「腕輪が次の異世界をみつけたようです」と、簡単に説明してくれた。つまりそれは……

 

「もう行くのか? 一泊くらいしていったらどうだ?」


 俺の問いにゆっくり首を振るメルさん。一度タイミングを逃すと次はいつになるかわからないらしい。

 ダンジョンコアが目的のものじゃなかった以上、もうこの世界に居る理由もないしな。


 メルさんがお礼を述べて一礼すると、シェルさんがメルさんの肩に止まる。

 そして魔力を込めたのか、腕輪の輝きが徐々に強くなっていった。結構まぶしい。


「メルちゃん!」


 アマツが叫ぶ。そっか、アマツにとってはこれが最初の出会いと別れになるもんな。

 呼ばれてメルさんも「アマツちゃん、またね」と、左手を振りながらやさしくほほ笑む。  

 

 腕輪の輝きが一層強くなり、部屋全体が照らされて――



「ケーキ、要らないんか?」


 その一言は、部屋全体を凍らせた。少なくとも俺にはそうなったとしか思えなかった。

 

「あっ!」


 いっときの間を置いてメルさんがケーキを取りに行こうと迷宮の胃袋に向かって走り出し……いや、走りだそうとした瞬間、腕輪がさらに強く輝き、もう直視できないほどの光がメルさんとシェルさんを包み込んだ!


「ちょっと待ってぇー! 私のケーキだけでも――」


 光の中からそんな声が聞こえる。だがその声も途中で聞こえなくなった。

 まばゆかった光が収まり目が慣れた時、そこにはもうメルさんとシェルさんの姿はなく、ただただ気まずい空気だけが辺りに漂い始めていた。

 

 うわぁ、どうしようコレ。

 

 普段は空気の読めないアマツも何かを感じ取ったらしく、まったく動かない。

 残りの三人もどうしていいかわからないようで、困った顔で俺を見ている。いや、見られても俺だってどうしていいかわからねぇよこんなん。

 

 とりあえずどうにかしよう。うん。

 近くにあった木のワイングラスを手に取る。そして酒を継ぎ足して、メルさんが最後にいた方に向けて掲げ


「メルさん、シェルさん。よい旅を!」

「アマツのアレがなければそれで綺麗に終わったんだけどねぇ」


 俺の渾身の締めは苦笑するコアさんに突っ込まれてしまった。


 いやもう、本当にね。

 主賓がいなくなってしまったので、パーティもお開きとなり、まだ漂う気まずい空気を振り払うように俺たちは後片付けを始めたのだった。


 なお、メルさんが遺したケーキはアマツがおいしく頂きましたとさ。


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