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5-11 キックキックキック!

 草原エリアに入って豚舎に向かうと、監視ウィンドウで見た通り豚に囲まれているオルフェを見つけた。

 

「あっ! ご主人! こっちこっち!」


 よほど早く原因を知りたいのか、手招きして急かしてきおった。

 そんな事されても豚のせいで近くまではいけないんだが


「まてまて落ち着け、まだ決まったわけじゃない。教える前に聞きたい事があるんだがいいかな?」

「いいよー、なんでも聞いてよぉ!」


 ん? 今なんでもって? とまぁ冗談は置いておいて、にこやかに何でも答えるって言ってくれたオルフェにさっそく質問だ。


「前にも豚を蹴ったことがあるのか?」

「うっ!?」


 怒られると思ったのか、オルフェの笑顔が引きつる。


「え、ええと、もう何回も蹴ってるかも」


 頬をかきながら目を逸らして答えるオルフェ。


「別に怒るわけじゃないから安心してくれ。最初はどんな感じだったんだ?」

「えーっと」


 ウマミミが前に垂れ下がり、必死に思い出そうとしている。

 やがて思い出したのか手を叩き、ウマミミをピンと伸ばす。


「そうそう! 最初は事故だった! エサを運んでる時に、寝そべってた子に気が付かずに蹴っちゃった」

「成程、その時からもう豚は言う事聞かなかったか?」

「うーん、その時はまだ素直だったような気がするよぉ」


 うん、これは多分間違いないな。後は一つ実験してみればわかる事だ。


「オルフェ、邪魔してる豚を蹴ってみてくれ。さっきと同じくらいの強さでな」

「ええっ!? そんな事したら嫌われないかなぁ?」

「もう散々蹴っておいて何言ってるんだ。俺の予想通りなら問題ない。やってみてくれ」

「わかったよぉ」


 オルフェはうなづくと、ちょうど手前にいた豚に狙いを定める。そしてさっきと同じように足を振り上げ、


「ていっ!」

「ブヒィッ!」

 

 おおう、蹴りの衝撃がここまで届くかのように空気が振動してきた! 蹴られた豚が悶絶するようにピクピク動いてるが……やはり間違いない。以前、海中で魚の表情からなんとなく感情を読み取れるようになった俺だからわかる。


 こいつ……蹴られて喜んでるな!

 

「オルフェ。やっぱりこいつら、お前に蹴られるためにわざと邪魔してたっぽいぞ」

「えっ!?」 

 

 まさに養豚場の豚を見る目でオルフェが周りの豚を見ると、その冷たい目線に刺された豚共が喜ぶように鳴き声を上げる。うわぁ、オルフェじゃなくてもこれは引くわ……


「あー、つまりもしそのまま要望をいっちゃったら、お前がドン引きして蹴ってくれなくなる可能性がある。だからこんな回りくどいことをしてたってわけだな」

「…………」


 あんまりといえばあんまりな理由に、オルフェが口を開けたまま固まってる。

 そりゃまぁ、あれだけストレスを抱えるハメになった理由がそれじゃあ、拍子抜けもするだろうよ。 

 

「ふ、ふふふふ……ねぇ、君たち。そういう事だったの? そーんな理由で僕の邪魔ばっかしてたんだ?」


 情報の整理がついたらしいオルフェが、近くにいた豚のアゴをクイッと持ち上げ詰問する。

 おおっ、これがアゴクイってやつか! でもこのアゴクイは絶対にされたくない! 怖い!


 沈黙を肯定ととらえたのか、アゴを上げていた手が豚の首の方にゆっくり動く


「ピギュ」


 そのまま指の力だけで豚の首を絞めあげる。なんか豚の方も変な悲鳴を……

 い、いや! やっぱり喜んでる! 変態だ!

 

「表にでて」


 気絶するまで首を絞めた豚を床に投げ捨てて、一単語づつしっかり聞かせるようにオルフェが言う。


「みんなの希望通り蹴ってやるから、表にでて並びなさい!」






「せりゃぁ!」

「ピギィー!」


 オルフェの掛け声が響くと、肉がはじける小気味よい音と豚の鳴き声が草原エリア中に響く。


「次ィ!」

「ブッヒーン!」


 うーん、オルフェさん。最初は嫌々やってたけど段々ノリノリで蹴ってませんか?

 声が弾んで来てますよ?

  

「ラストォ! これはオマケの一発だぁ!」

「Oink! Oink!」


 しなるような蹴りを入れた後、地面につけないまま再び豚の尻に蹴りを入れる。

 豚の方も一発だけだと思ってたのか、予想外の一撃に歓喜の声を上げる!


「で、なんでご主人も並んでるのかな?」

「いやぁ、こういう時は俺も蹴られるのがお約束かなって」 

 

 決して豚が嬉しそうだからくらってみたくなったわけじゃないぞ。

 

「えぇー」

「うん、冗談だからそこまで引かないでくれ。一応別の理由もあるから」


 特に意味はないが、オルフェが後ろに下がった分だけ前に歩いてみる。


「俺がコアさんやアマツから、不意打ちに対する特訓を受けてるのは知ってるだろ?」

「うん、このまえコアさんに焼き魚を取られたアレとかだよね? ご主人がお辞儀したまま動かないから、一体何やってるんだろうと思ったよぉ」


 あれは心理をついた見事な奇襲だった、よくあんなの考えつくよなぁ。

 軽く笑みを浮かべながら答えるオルフェに一つうなづき。


「魔法に対する奇襲対応はやってきてるけど、ここらで物理的な訓練もやっておこうと思ってな」


 障壁を覚えた時に考えていた、攻撃に対して反射的に障壁を張る練習をするにはいい機会だと思う。

 だから、決して蹴りを食らいたいわけじゃない。


「と、いうわけで」


 言いながら後ろを振り向く。


「お前の好きなタイミングで蹴ってきてくれ、俺は障壁を張って防ぐから」


 オルフェは触れたものの魔力を霧散させる体質を持ってるが、それは直に触れないと効果を発揮しないのは確認済みだ。

 蹴りなら障壁に触れるのはオルフェが履いてるブーツなので、防ぐことは可能である。


「うん、まぁ、そういう事なら……」

「あ、でも全力はやめてね。失敗したらはじけ飛んじゃうから」


 コアさんやアマツとの特訓のかいあって、第六感とかそういうのが鍛えられてきた自負はある。

 きっとこの感はオルフェの蹴りに対しても働いてくれるはずだ。

 

 お互い黙して語らず、草原エリアに風が草をやさしくなでる音だけが聞こえる。さっきまでの話だが。

 今は緊迫感がまして、荒野に吹く風のように決闘……じゃないや、訓練の行く末を見守っている。

 

 さぁ、いつくる? 後ろを向いているからオルフェの姿は見えない。

 だがDPで感覚も強化した。だから気配で何してるのか手に取るようにわかる。

 オルフェはまだ立ってるだけ、かまえてすらいない。

 

 ……! 動い――

 

 最初に聞こえたのは、命を奪う銃声のような打撃音。

 次に「あっ」という、オルフェのあっけに取られたような声。

 

 最後に……尻から脳に伝わる猛烈な痛み。


「いっっってぇーーー!!」


 叫びながら尻をおさえて地面に倒れこむ!

 痛い! 投石を食らった時より、はるかに痛い!


「あの、ご主人大丈夫? 豚と同じくらいの強さで蹴ったんだけど……」

「お……おう、大丈夫じゃないけど大丈夫だ。オルフェ、ナイスキック」


 冷や汗が止まらないが、無理に笑顔を作って答える。

 あいつらこんなの食らって喜ぶとかやっぱり変態だ!


 じんじん痛む尻をおさえながら敗因を振り返る。いや、振り返るまでもなくわかりきっている。


 オルフェの蹴りのほうが、俺の反応より速い。それだけだ。


 これも特訓が必要だという事はよーくわかった。でも、こんなんやってたら俺の尻が死んでしまう。

 少なくともククノチに一緒にいてもらって、ケガをしたらすぐに治してもらわないとダメだ。

 彼女なら酒を差し出せば付き合ってくれるだろう。

  

 そう結論をだした時だった。

 唐突に、そうほんと唐突に草原エリア中にある音が鳴った。


 その音は……俺が地球に居た頃、大みそかの日によく聞いた今となっては懐かしさすら感じるあの音。


「マスター、タイキックー」


 草原エリア内にコアさんの声がこだまする。

 エリア内に全体放送? コアさんそんな事もできるんか。後、それは蹴られる前に流すんやで。


 尻の痛みと脱力感にさいなまれながら、俺は念話でククノチを呼びだした。


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