5-8 妖狐と人魚のありがとごはん1
しんたくぅ~? 神託ってコアさんのあれだろ?
「それで、神託はなんて言ってたんだ?」
アマツを通じて聞いてみると、心なしか興奮しているかのように口をパクパク動かす。
『”身を捧げる時がついに来た。この者たちと一緒に地上に向かえ。迎える準備は出来てるから”です』
だから本音ぇ!
なんか頭が痛くなってきた。っとそれよりも。
「それで、お前はいいのか? 俺たちについてくってことはその……」
そのために育ててるっていうのはわかってるけど、会話しちゃったからにはちょっと抵抗がある。
『いえ、我ら一同この日を待ち望んでおります! アマツ姉さんの糧となるなら本望です!』
「わかったわかった。わかったから迫ってくるな! 障壁にゴンゴン当たるな!」
そこまで覚悟というか意思があるなら、もう何も言うまい。
「よし、じゃあ戻るか」
「はーい」
アマツの返事と共に俺が入ったウォーターボールが白浜に向かって動き出す。
今までは障壁が割れかけてとんぼ返りしたけど、本来であればこうしてゆっくり戻りたかった。
海面からウォーターボールが頭を出すと、左右に広がる白浜が見え……おや?
ポータル付近に誰かいる。あれは……コアさんか。神託通り迎えにきたようだな。
顔を出していても地面に足が届くようになったので、障壁を解除してコアさんの所に向かう。
「お帰りマスター、いい海の旅だったんじゃないかい?」
「ただいまコアさん、海の底がいい感じになったぞーってコアさんは見てたんじゃないか?」
「いやいや。この体を持ってから、この目でも見てみたいと思うようになってね。マスターが連れて行ってくれるのを楽しみにしているよ」
コアさんは自分の目をさして答えていたが、その目の視線は俺の後ろに行ってしまった。
そこにはアマツの水魔法で空中に浮いた水玉があり、その中にはもちろんついてきた魚が入っている。
あいさつもそこそこに、コアさんの興味は完全に魚の方に向いてしまったようだ。
俺の横を通り過ぎると魚の前に立ち、まじまじと見つめだした。
そのまま水玉を回りながらじっくり品定めをするように凝視している。アマツはその様子をただ眺めていたが、魚の方はなんか緊張しているのか微動だにしない。
「うん、立派なもんだ。実に身がしまってておいしそうだね」
どうやら妖狐コアさんのお眼鏡にかなったようだ。
「アマツもここまでよくやってくれたね」
「へへー」
コアさんがアマツの頭をなでると、いつも通りアマツは大きな笑みを返す。俺の心のアルバムにまた1枚写真が追加されてしまった。鼻血が出そう。
「よし、早速さばくとしようか。君の最期は私が彩ってあげるよ」
腰に下げた刀を左手にもって魚に見せるコアさん。
おいおい、まさかそれでさばくんじゃないだろうね?
「大きい刃物がこれしかないからね。今までこれで解体してたし、この位なら問題なくできるよ」
それ今までにゴブリンとか筋狼族とかぶった切ってたやつでしょぉ!?
い、いや。コアさんのあの刀はDPで新品同然に戻るからいいのか? 切れ味も包丁よりはありそうだし本人がいいって言ってるなら……
「本当は道具にもこだわりたいところなんだけど、DPで出すしかないからね」
そうなんだよなー。ウチには鉄鉱石等の材料に燃料、炉とかの設備、さらには作る職人にノウハウも何一つない。仮にできるようになっても交易先もないし、ちょっと作ったらしばらくは必要なくなってしまう。
それならちょっとDPはかかるが、それで用意してしまった方が無駄がない。
「今は刺身包丁が欲しいんだけど、マスターなら出してくれるよね?」
コアさん、その流し目としっぽフリフリは反則ですぞ。
まぁ、アマツが育てた魚の第一号を調理するためだし、これでうまい魚料理が食べれるなら反対する子はいないだろ。
いつか出すものなら、今出しても同じだ。
「ん、わかったけど出すのは温泉に入ってからでもいいか? 海水で体がベトベトなんだ」
「マスターが温泉に入ってる間に活き締めをするから問題ないよ」
コアさんはそこまで言い終わるとくるりと魚の方を向き、まだ緊張してる面持ちの魚の目の前で指を鳴らす。
すると魚は緊張が解けたように……いや、違うな。ありゃ「心ここにあらず」っていう表現が一番近いな。
なんとなく目の焦点が合ってないように見える。
「これでよしっと。アマツ、悪いんだけど迷宮の胃袋まで運んでくれるかな? そしたらマスターと一緒に温泉に入ってくるといい」
「はーい」
コアさんは何事もなかったかのようにアマツに向かって頼み、ポータルに向かって歩き出した。
「コアさん、あれ何したんだ?」
「幻術をかけて一足先に夢の世界に行ってもらったのさ。これから活き締めにするからね」
なるほど。しめる時にストレスをかけない方が美味いって聞くし、あれなら何をされても最期まで気が付かないだろうな。
それじゃ、ひとっぷろ浴びてきますかね。