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5-6 アマツの怒り

 あれこれ考えてはみたものの、別にごまかす必要はないと判断。そのまま伝える事にしよう。


「あー、その神託っぽいものを出したのは別人だ、俺がやったのは……」


 いろいろ海底に手は加えたが、何か目立つものは……あった、今俺が立ってるお立ち台だ。

 よくみると所々穴が開いている。設置した時から海藻やらなんやらがくっついて大分姿が変わってるから今まで気が付かなかった。


「ああ、この漁礁は俺が作った奴だな」


 ちょいっと足元を指さして答える。魚にこのジェスチャーが通じるのかわからんが癖ってやつだ。


『それはアマツ姉さんが我々のために作ったものでは……』

「ウチが主さんにお願いして作ってもらったっちゃ!」


 アマツが翻訳の途中で補足してきた。こういうのは実際に目の前で見せた方が説得力があるだろうな。

 拡張ウィンドウを開き、今俺が立っているお立ち台の隣りに新品の漁礁を手早く作る。尚、増えてきた魚達に対応するために約2倍の大きさでだ。


 新品なので今は岩肌が露出しているが、数か月もすれば立派な漁礁になってくれるだろう。


「よし、こんなもんでどうだ?」

「おおー! 大きい! これで食料不足もなくなるっちゃね!」

「なんだ、食べ物が不足してたなら言ってくれればいくらでも作ったのに」

「物の例えっちゃ」


 新しくできた岩礁を見てアマツがくるくると岩礁を一回りした後、感想をもらしたのでほがらかにだべる。できるだけフレンドリーに。

 うん、やっぱりアマツは俺しか見てないのでまったく気が付いてないが、周りが完全にドン引きしているんだな。話しかけてきた魚は逃げるように群れに戻ってしまった。そのまま紛れてしまって、もうどこにいるのかまったくわからない。


 これは……やっちまったか?


 地面から大きい突起物(漁礁)が高速で伸びてきたらそりゃあ怖いよな。俺も地球で見てたら同じリアクションを返しただろう。もう完全に異世界に染まってしまったようだ。


 群れから俺たちに話しかけた魚がブルブル震えながらこちらに向かってくる。最初に話しかけてきたから最後までやれとでも言われたんだろうな。


 魚の口がパクパク動くと、流石にアマツも気が付いてこっちに念話で翻訳を伝えてきてくれた。


『あ、あの……先ほどは大変失礼を……』

「ああ、こっちは気にしてないからお前も気にするなよ」


 あくまでフレンドリーに軽く手を振って答える。そうでもしないとコイツそろそろ心労でポックリ行きそうだし。


『それで、こんなところに一体何用で?』

「ああ、アマツの仕事っぷりの見学にきたんだ。これはお前たちから信頼されてるみたいだし、よくやってくれてるな。えらいぞー」


 半分はアマツの方を向いて改めて褒めると、アマツは嬉しそうに笑い誇らしげに魚たちに向かって訳す。すると、周りを囲んでいた魚たちの緊張が解けて大分空気(?)が和らいだ気がする。


 そうそう、俺は威圧しに来たわけじゃないんだよ。わかってくれたかな?


「まぁ、後はお前たちがよく食べよく寝てよく遊べる環境を整えようか。俺達の仲間にそうなることを望んでる奴がいるみたいだしな」 


 君たちは我々の大切な食料でありDPの元だからね。せめてその日がくるまではストレスのない環境を提供しようじゃないか。そのほうが美味そうだし。


『それで、一体何を作るので?』


 いや、そんなこといわれても俺は魚じゃないしどういう環境がベストなのかはわからんぞ。

 てっきりなんか要望がくるかなーと思ったけど特に不満は感じてないのかな?


「んー、簡単に言えばお前たちの願いをかなえるもんだと思えばいいさ。俺にできる範囲内でだけどな」


 アマツが訳文を魚達に話すと、一斉に口を動かしたり体を捻らせたりしはじめた。多分なんらかの要求をしてるんだろうけど俺には魚たちが滑稽なダンスを踊ってるようにしか見えない。


「ま、まつっちゃ! みんな一斉に話しかけられても聞き取れないっちゃ!」


 しまった。「願いをかなえる」なんて言っちゃったから、魚たちが願いを聞いてもらおうと必死で収拾がつかなくなっちまった!

 すまんアマツ。なんとか纏めてくれ、お前ならできる!


「ちょっと! ウチの話を……」


 だが、俺の願いもむなしくアマツは(多分)翻訳してもらおうと殺到する魚の群れに飲まれ、やがて見えなくなってしまった。


「おい! 大丈夫か!?」


 念話を送ってみるも返答がない、返す余裕もないってことか。

 それでもアマツが居てくれないと俺じゃ魚達と会話できないしどうしようもない。


「主さーん! ちょっと乱暴な手を使ってもよか?」


 何回か念話を送った後、ようやくアマツから返答があったけど……乱暴な手段ってなんだろう? どっちにしろ障壁を張ってる俺にはアマツに任せる事しかできないんだが。


「俺にはできることがないから、お前に全部任せるぞ」


 俺が返事をかえした瞬間、アマツを飲んだ魚の群れがビクッと震え、力なく漂い始めた。

 おいおい、アマツのヤツ一体何をしたんだ? まさか殺したんじゃないだろな?


 漂う魚の群れを丁寧にかきわけて、アマツが姿を現す。だが、その顔は今まで見た事がないほど怒りに染まっていた!


「みんな好き勝手しおってからに! ウチの話をちゃんと聞くっちゃー!」


 アマツが叫んだ瞬間、全身から青白い光を周囲にまき散らした!

 俺の周りを囲んでいた魚が青白い光に触れるとけいれんをおこし、先ほどの魚達と同じように漂う。


 あっ! 思い出した! そういえばアマツには水魔法の他に雷魔法と電気耐性を持たせたんだった! もう召喚したのも数か月前の話だし、今まで一回も使った所を見た事がなかったからすっかり忘れてた。

 水の中にいるアマツに雷魔法を撃たれたらマズイから、それなら先手を打ってこっちが使えるようにしておこうというノリでつけたんだった!


 幸い俺自身は障壁が防いでくれたので無事だが、周りがひどいことに……気絶してるだけだよな? 殺してないよな?


「あの~アマツさん、今回は俺に非があるしこのくらいで……みんな生きてるよね?」

「ちゃんと手加減してるから大丈夫っちゃ! こんなの何回もやってるさね!」


 そうなんだ……今までこうやってシメてきたんだろうなぁ。まぁ周りを漂ってる魚達も気絶してるだけだってわかってほっとしたよ。


 無事だったのは比較的遠巻きに見ていた回遊魚達だけだが……俺たちの周りをまわる半径が2倍くらいに広がっている。うーん、近づいたはずの心の距離がまた開いてしまった。


 一度開いた心の距離を埋めるのは、最初から開いていた距離を埋めるのより難しい。さてどうしたものか……そんなことを考えていた俺の思考は、障壁にヒビが入る音と共に停止することになる。


「あっ」


 障壁に雷模様のヒビが広がっていく。まるでヒビで出来た平面な木々がククノチの力でどんどん成長してるみたいだ。

 えーっと、この模様の事なんて言ったっけ? なんかどっかの転生物で読んだ記憶があるんだけどなー。


 ……。


「アマツゥー!! 緊急浮上! さっきよりヒビの入りが速いから早く! でも割れそうだから丁寧に!」

「元気な子は主さんを浮かせるの手伝ってほしいっちゃ!」


 さっきの事もあるし、今度こそ倒れた衝撃で障壁が割れないように仰向けで寝転がると、アマツの掛け声に合わせて回遊魚達がこちらに向かって泳いできた。


「丁寧にさわるっちゃよー」


 アマツの見事な采配で下側にもぐりこんだ魚達は、刺激を与えないように障壁を持ち上げるとゆっくり海面に向けて動き出した。

 エレベーターに乗ってるような感覚を味わっていると、魚達はどんどんスピードを上げて浮上していく!


 あれ? 結構早くない? ちょっとまって! この勢いのままでいくと……


 あっというまに水面にたどり着いたと思いきや、その勢いのまま俺だけ水面を飛び出し空中に投げ出される!


「おおおあああぁぁーー!?」


 どんどん水面が遠く……やがて勢いがなくなり最高点に到達する。

 ああ、これはプールの時にアマツが飛んだ高さより明らかに高い。このまま自由落下して水面に叩きつけられたら、死にはしないだろうがケガ位は覚悟しなければならない。


 そう、このまま何もしなければ、の話だ。


 いったんヒビが入った障壁を解除し、残った魔力を次の障壁を出すために回す。

 出すのは空中固定型、場所は俺の足元、形は海に対してナナメに、大きさは海面に到達するまでだ。


「よっと」


 空中にいるから障壁を出した時にちょっとバランスを崩しかけたが、なんとか障壁に腹ばいの形で乗っかることができた。

 後はこのまま海面まで滑り下りれば無傷で……いや、頭から突っ込むのはよくないな。障壁の端と端を掴み倒立の要領で一回転。

 後は受け身をとるように体全体で転がれば、普通にスライダーをすべる時の体勢に早変わりっと。


 うむ、コアさん達との訓練の成果が出ているな。パニックにもならず冷静で的確な判断ができたと思う。

 あの日以来アマツも時々攻撃してくるようになったが、彼女の攻撃は単調かつ単純なので避けるのは簡単だった。


 だが、コアさんは違う。意表を突くという表現がかわいく聞こえるほどえげつねえ攻撃をしてくる。おかげで本当の意味で高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応しないと回避しきれない。

 そんな自画自賛をしながら、障壁で作ったすべり台をすべって海面に飛び込むと、アマツが出迎えてくれた。


「主さん、おかえりっちゃー」

「おうよー、みたか? お前より高く飛べたぞー」

「ウチもあのプールがもっと深かったらいけたっちゃよ、多分」


 海に飛び込んだ俺の手を掴むと、アマツが白浜に向けて俺を引っ張っていく。

 念話で会話していればあっという間にポータル近くの白浜に到着する。


 先ほどと同じように水から上がって座って一息、おっと先にアマツに言っておかないとな。


「あ、今度はシメる必要はないからな。その代わり俺の魔力が回復するまでにやってほしいことがあるんだ」

「任せてほしいっちゃ! 何をすればいいとね?」


 アマツは笑顔で俺の指示を受け取ると、再び海の中へと潜っていった。彼女は頼られるのが好きなのできっと俺のリクエストに応えてくれるだろう。

 さって、魔法が回復するまで塩田の手入れでもしておくかな。


ついに1000Pt達成しました!

ご愛読ありがとうございます!

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