5-2 プールで遊ぼう 遊戯編
うぉぉ、速い! 今まで滑った事がある日本のウォータースライダーに比べると、倍くらい速い!
水路には天井につけた魔法の光が一定間隔でついてるが、この速度で滑っていると頼りなく先がよく見えない。
だが、それが先の読めないワクワク感を引き立ててくれる!
まずは左カーブ!
おおっ! 体が遠心力で右壁に張り付くようにすべっていく! まるでテレビで見たボブスレーかリュージュみたいだ!
俺自身が放たれた矢のように、停滞している空気を切り裂いて水路を突き進む!
やべぇ! ちょっと怖いけどすごく楽しい!
左カーブを抜けた先には凸凹をつけた直線が待ち構えていた! そういう風に俺が作ったんだけどな!
コブの上をすべると体が浮き、コブによってめちゃくちゃに流れる水の上に着水する! そのまま水流に身を任せぴょんぴょん右に左に水路を流されていく。
体と共に心もぴょんぴょんしてきた! もみくちゃにされる感覚がいい! 口を開けると舌を噛みそうだけど! うぉっ!? 凸凹に気を取られてたら水の壁が迫ってきた! そういえば凸凹ゾーンの先にヘアピン右カーブを作ったんだった!
くぉ~!! ぶつかる~!! 水流はすでに全開!
水がハーフパイプのように丸みを帯びた壁にベクトルを横から上に変換される。
当然俺も水の流れと共に壁を流れ上る。
ここで右向きに傾斜をつけた壁で、ダンジョンマスターを右に!
おっし、上手く体が半回転してヘアピンカーブを曲がることができた! これを皮切りに次はつづら折り、連続ヘアピンカーブが待ち受けている!
連続カーブのおかげで水が水路を波打つように流れ、まるでラフティングをしてるように水に翻弄されながら流されていく! それがいい!
つづら折り地帯を抜けるとスライダーは終点にたどり着く。かなり長いスライダーを作ったつもりだったが、それでも滑ってるとあっというまだったな。
俺が水から上がるのと同時に上の方から何かが水に落ちた音が聞こえた。先に滑っていた連中は階段の上にあるプールにいるみたいだな。
階段を上ると、まずは25Mプールが見える。ぶっちゃけただの長方形の穴に水を入れただけだが、周りや装飾を整えて、床をズビャっとタイルにしただけでそれっぽく見えるから不思議だな。っと、プールの中に人影を発見。ありゃククノチか。
プールサイドを歩いて近づいていく。ククノチは特に泳ごうともせずその場でじっと立っていたが、こちらに気が付いたのか視線を向ける。
「スライダーはどうだった?」
「うーん、水に流されるよりは、私はこうして静かに浸かっていたいですねー」
なるほど、これは性格というよりは植物だからそういう好みになるのかな? ククノチは水に浸からせておけばいいのか。
「後は飛んだ時にしっぽを体と床で挟んでしまって、ちょっと痛かったですねー」
……それは盲点だわ。ということはコアさんやオルフェもやってるなー。
どうしたもんか、スライダーモードは封印するしかないか? 個人的には楽しかったのでもったいないが……いや、そういえば地球には浮き輪を使ったスライダーがあったな! しかもあれは数人で使えるものもあったはず。
スライダーの改善案を含め、しばらくククノチと談笑していると、再び激しく水しぶきが上がる音が聞こえた。あっちには飛び込みプールを作ったからまた誰かが飛び込んだのか。
飛び込みプールからオルフェが上がり、プールサイドに居たアマツとコアさんに合流するところが見えた。
「それじゃ俺はあっちに行ってくるわ」
「はいー、私はここにいますねー」
「ああ、ゆっくり浸かっててくれ」
ククノチに別れを告げて三人のほうに向かっていると、アマツがプールに入った。あれ? 飛び込み台を使わないで普通に入ったぞ?
「コアさん、飛び込み台の使い方教えてないのか?」
「ああ、マスター。見てればわかるよ」
プールをのぞき込むと、人魚形態に戻ったアマツがプールの底の方をぐるぐる泳いでいた。
「なんだ? 渦巻きでも作るのか?」
懐かしいなぁ、小学校の体育の時やったなぁ。でもアマツならわざわざ回らなくても水魔法で渦巻き位作れそうなもんだが。
「ざんねーん! 違いまーす!」
「はずれたか、じゃあ正解を見させてもらおうかな」
オルフェやコアさんと話してる間にもアマツはずっと泳いで速度を上げていた。
その勢いを殺さぬまま急上昇をかけ、一気に水面を突き破る!
鯉が滝を上るようにアマツが空を泳いで上昇していく。
そして……
「やった! 届いたっちゃね!」
そういったアマツが手をかけたのは、高さ10Mはあるだろう一番高い飛び込み台だった。
「すごい! アマっちゃんは一番上まで届いたねー」
「これは、さすが人魚と言うほかないね」
……。
「いいなぁ。僕は半分も行かなかったのに……」
「いやいや、魚でもない君が一番低いところには届いたじゃないか。それだけでも十分だと思うよ」
……。
「ところで、さっきからご主人が口を開けて上を見たまま固まってるね」
「ああ、これは完全に予想外の出来事を目にして、どうしていいのかわからないんだよ」
はっ!?
「いや、これは飛び込むために作ったプールであって、飛びあがるためのプールじゃないぞ……」
どうしてこうなった!?
「最初にアマっちゃんが飛んでたのを見て、僕も飛んでみたくなって」
「すごい楽しそうだったから、本来の使い方を教えるのも気が引けてね」
それに……と、コアさんは話を続ける。
「別にこういう使い方をしてもいいじゃないか。きっと地球でもはやるよ」
「いや、地球でアレができる人なんかいないから」
ボケにツッコミを返した時、アマツが階段を使って降りてきた。そこはプールに飛び込んでほしかったなぁ。
こちらに来るアマツに向かってオルフェが駆け寄って出迎え……
「アマっちゃんさっすがー!」
「ギリギリだけど行けたっちゃ!」
ハイタッチを交わす二人。クラッカーを鳴らしたような高い音がプールに響く。
「主さんも見ててくれたと?」
「ああ、見てたぞー。正直すごすぎてびっくりしたぞ」
アマツがこっちに手をかざして来たので同じようにハイタッチを交わす。そのままアマツはコアさんともハイタッチをしたあとでこちらに振り向き、
「次は主さんに手本を見せてほしいっちゃ! 主さんなら余裕でいけるっしょ!」
こっちにむちゃ振りしてきおった!
すかさずコアさんが俺の肩に手をかけて、
「ほらマスター。ここはかっこいい所をみせる所だよ!」
「コアさん! 俺ができないってわかってて煽るんじゃありません!」
「それは地球に居た頃の話だろう? 今は十分強化されてるし、挑戦してみるべきだよ」
確かにコツコツ強化を重ねたおかげで短時間なら100mを7秒で走れたし、垂直飛びならギリギリ2mに届いた。
地球の人類と比べれば余裕で世界新記録なんだろうが、あいにくウチにはオルフェというさらに身体能力に優れた存在が身近にいるせいでいまいちすごい気がしない。
彼女は走れば俺の第一目標である100m5秒フラットを余裕で切って、垂直飛びなら4mを飛んでまだ余力があるようだった。
ちなみにコアさんは俺とほぼ同等、アマツとククノチは一回り劣るといったところである。
「まぁ、やってみるけどあんまり期待するなよ? 今までやったことないんだから」
「大丈夫。マスターなら飛べるって!」
くそっ! ハードルを下げようとしたのに下げさせてくれないコアさんを尻目に階段に向かう。
ならせめて巻きこんでやろうとしたのに「私はマスターと違って抵抗が大きそうなものがついてるから皆の期待に応えられないよ」と、逃げられてしまった。
「どこに行くのご主人? 飛ぶんじゃないの?」
「潜る勢いをつけるだけだ」
問いかけてきたオルフェに答えた後、階段を上って飛び込み台にたどり着く。
下をみるとプールサイドの三人が手を振っている。ククノチは……我関せずといった感じで相変わらず一人水に浸かっていた。
よしっ行くか!
三人に手を振って答えた後、軽くジャンプして飛び降りる。そのまま水中にダイブし、勢いがあるうちにできるだけ深く潜る。
……深く作りすぎたかな? 後、水中メガネが欲しい。
頃合いを見て反転し、水面に向けて全力で泳ぐ!
浮力の力もあり、今の俺は間違いなく過去最高に速い!
これならいけるか!?
水面を手でかけわけるように開き、一気に身を空中に乗り出し空を泳ぐ!
……くらいはいけると思ってたのに、つま先がちょっと離れるくらいが限界でした。
「えー、ご主人しょぼーい」
浮力を失い重力に引かれて再び水に沈む俺に、オルフェの容赦ない評価が突き刺さる。
だからできないって言ったじゃん……
「主さんは初めてだったし、次はいけるっしょ!」
君たちは初めてでも飛べたんでしょ? それフォローになってないぞ……
「じゃあ、私たちはあっちのプールで遊んでるから、マスターはここでしばらく練習したらどうだい?」
煽っておいて終わったらこの仕打ち! これは見返してやらねばなるまい!
「アイルビーバァーック!」
そう言い残した後に右手を水面に突き出し、サムズアップしながら沈む。
あのシーン、実はこのセリフ言ってなかったらしいな。
その後、何回か練習したことで30センチくらいは飛べるようになった。
人間やればできるもんだ。