5-1 プールで遊ぼう 整備編
「いただきます!」
ダイニングルームに明るい声が響く。ごはん時はまだ数少ない楽しみな時間の一つだからな。
なんてったってコアさんの作った朝飯が美味い! いろいろ試した実験の成果が出てるようで、レパートリーが徐々に増えてきている。今日のこの焼き魚も塩の他に何かの果汁がかかっているが、それがサンマにかけたレモンのように、酸味が実に魚の味を引き立ててベリーグッド!
惜しむらくは調味料がまだ塩くらいしかない事だが、逆に言うと今のこの味に調味料がきっちり加わったらどこまで昇華するのか楽しみでもある。すごくな!
「ごちそうさまでした。今日も美味かった」
「お粗末様でした」
皆で朝飯を一緒に食べた後は、簡単なミーティングを開いて今日の予定を確認するのが日課になっている。
結果、本日は俺が必要になるほど人手がいる作業はなかった。
そこで今日は以前オルフェに約束していた泳げる施設、プールを作る事にしよう。一応構想はすでに固まっていたが、それなりに規模が大きくなりそうなのでDPが溜まるまで待っていたのだ。
コアルームから第二防衛ラインの崖上に設置してあるスポーンポイントに飛び、さらに奥にいく。現時点では通路だがここを拡張してプールを作る事にしよう。
まずは下り階段を作り、下りた先にT字路を作る。この通路はUの字のように左右が丸く、滑りやすい素材で作ってある。
大人三人が横並びでギリギリ歩けるくらいの道を歩きながら作っていく。壁がどんどん押し込まれて通路になっていくのは、見ていて気持ちがいい。
途中、床に滑らかな凹凸をつけたりヘアピンカーブなど、通路に変化をつけてっと。
よし、大体こんなもんでいいだろ。終点よりちょっと手前に脇道を作り、のぼり階段を設置して最終防衛ラインに続く道につなげる。
次の作業から水の中を歩くことになるので、階段を上った後に靴と靴下を脱いで適当に置いておく。
拡張ウィンドウから終点に水源を設置すると、水の音と同時に階段下の通路に水が流れ始める。
む、これはいかん。まだ排水設備がないのに水流が強すぎる。水流を弱めて……っと、これで良し。
階段を下りて、かかとくらいの水位になった水路を滑らないように気を付けて元来た道を戻り、入り口のT字路を真っすぐ通り過ぎる。
そのまま同じように少し道を作り終点に迷宮の胃袋を設置すると、水が迷宮の胃袋の中まで入ってくるので、そのまま水を吸収させる。これで流水の仕組みが完成だ。
後は、実際に使って気になった部分を細かく調整して……ここはこうして……あそこは開放感をもう少し……
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「それで、できたのがこれですか? 泳げるようにはとても見えないけど……」
完成したので上流側の階段上に設置したスポーンポイントに皆を呼んだところ、階段下をのぞき込んだ競泳水着姿のオルフェが開口一番に言ったセリフがこれだった。
プールが出来たという事で皆には水着装備をプレゼントしたのだが、皆良く似合っている。
ちなみに全員競泳水着姿だ。
まぁ、気持ちはわかる。今階段下の通路……というか水路は水源から出てくる水の勢いが強く、水流の音がここまで響いてきている。
もし、ここで泳ごうものならあっというまに流されてしまうだろう。
「これは第一形態。ウォータースライダーバージョンだ」
自由に通路を作れるこのダンジョン、DPさえあればほぼ無限に湧き出る水源。そして設置すればあっというまに移動できるスポーンポイント。
こいつらを使えば移動する手間を省いた超長いウォータースライダーができるんじゃないかと思い付き、それを形にしたのがこれだ。
「成程、さっきマスターが競泳水着を勧めてきたのはこういうわけだったんだね」
競泳水着姿のコアさんが納得したようにうなずく。
そう、このウォータースライダーは日本にある一般的なやつに比べると水の勢いが桁違いに強い。しっかり身に着けるタイプじゃないといろいろアブナイ予感しかしない。個人的には大歓迎だけどね、
露出度は控えめではあるが、正直肌色はもう温泉で見慣れている。だからこそ今、階段下をみるために後ろを向いて、お尻を少しこちらに突き出す形になっているこの姿は、しっぽが垂れ下がっているのもあって実にいい。競泳水着ってなんでこんなにエロいんだろうな?
「水を溜めれば泳げるようにもなるけど、まずはウォータースライダーを味わってもらおうと思ってな。というわけで、はい! こっちに注目!」
指を鳴らして空中に障壁を出し、貼るテクスチャーをイメージする。すると障壁にイメージした通りの文字が浮かび上がる。
「”ダンジョンモンスターでもわかる、安全なウォータースライダーの遊び方”ですかー?」
ククノチが障壁に浮かび上がった文字を読む。
「そうです、これから君たちにいくつか注意事項を話します。守らないとケガをするのでよく聞いてください」
「はーい」
うむ、素直で宜しい。次に障壁に出したい画像を思い描くと、書かれた文字が消えて代わりに水路に立つデフォルメされた人の絵が徐々に浮かび上がってくる。
「最初に水路では絶対に立たないでください。滑りやすい上に水流が強いので足を取られて転びます」
「……そんなに強いんですか?」
オルフェが手を上げて半信半疑で聞いてきた。
「強いぞ、だから踏ん張った瞬間に両足が滑って転んで尻を打って、そのまま流された」
なんなら青あざができた尻を見るか? え、わかったからそれはいいって? うん、俺も別に見せたかったわけじゃないし、信じてくれたならそれでいいんだ。
「だからスライダーに乗るときはこのように……」
念じて障壁の画像を変える。
「……階段を座りながら降りて、最後に手で押して水流に乗るように。いいですね?」
「はーい」
うん、やっぱりこの能力は説明するのにすごく便利だ。
後は水の勢いが強い事を除けば地球にある一般的なスライダーと変わらない、基本的な事を説明すれば終わりだ。
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「以上で説明は終わりです。何か質問は?」
「ないでーす」
いつの間にか体育座りをしていたケモミミ娘達を前に、スライダー講習は何事もなく終わった。というわけで早速滑ってみよう!
公正なじゃんけんの結果、一番最後になった。だから順番が回ってくるまで待っているのだが、水着姿のケモミミ娘達の後ろ姿は実にいい! 特にお尻から飛び出てるしっぽが最高である。なぜ神はケモミミやしっぽをつけた人間を地球に生み出さなかったのか? いや、それとも進化の過程で絶滅してしまったのか?
そんなくだらないことを考えて時間をつぶしていると、四番手だったククノチが階段を下り、水流に乗って行ってしまった。
「ひぁぁー!」
水路の奥から水流の音に交じってククノチの悲鳴とも歓声とも聞こえる声が響いてきた。勝手なイメージだが絶叫マシーン系に一番弱そうなのがククノチなので、気に入ってくれればいいんだけどね。
まぁ、無理矢理行かせたわけじゃないし、自発的に行ったから大丈夫だろ。多分。
さて、ククノチが行って体内時間で数える事約三分。そろそろいいだろ。
ケモミミ娘達に教えたように階段を座りながら降り、手で階段を蹴るように押して水流に乗る。
テスト走行はしてるけど、完成版を滑るのは初めてなのでちょっと、いやかなりワクワクしてる!
いざ! レッツゴースライダー!
GW中にブクマ300件突破しました!
これからも応援よろしくお願いします!