4-EX2 森の味覚を探しに行こう 探査編
森林エリアはダイニングルームからコアルームを経由して徒歩約二分。電車や自動車はもちろん、自転車すら必要とせずに森に行けるのは楽でいい。
思い返せばククノチに管理を任せる前は大体決まった所で木の実集めをしていたし、任せた後は言われるままに直行直帰で木の実を取りに行っていた。
つまり、森林エリアを隅から隅まで探査したことはない。コアさんの言う通り未知の食材、もとい植物はまだまだあるだろう。
コアルームのポータルからだと河原付近に出るので、ちょっとしたピクニック気分を味わいながらククノチの樹まで向かうとしよう。
「お昼まではまだ時間があるから、まずはこの先から探してみよう。どうかな?」
ククノチの樹の木陰にバスケットを置きながら提案するコアさん。
この先ね、確かに中央のククノチの樹からみてポータルがある来た道の反対側は、ククノチに実がなっている場所を指定されない限り普段は行かない。
特に反対も出なかったので早速山菜狩りが始まったんだが……早速俺たちの前に伸び伸びと生い茂る緑の壁が立ち塞がった!
「うーん、この辺はまだダンゴウサギやロバがあんまり草食ってないんだな」
「全体数に比べると森林エリアは広大ですからねー。この辺優先して食べるように指示します?」
俺のボヤキに隣で草を眺めていたオルフェが反応してきた。
オルフェは動物と会話ができるから長期的に見ればその案も悪くはない。が、森林エリアに散らばってる連中を今から集めて周辺の草を食べてもらっても今日中には終わらないな。というより一日で終わる程度の量ならとっくに全部の草を食い尽くされてるよな。
「いや、それならこの辺の草を刈って豚や鶏の飼料にしよう」
刈った草は迷宮の胃袋に保存しておけば、足りなくなった時にいつでも出せる。飼料として利用するならククノチの逆鱗にも抵触しないだろ。
ちろっとククノチの方を見るとニコッと微笑み返してくれた。セーフ!
「じゃあ、オルフェはこの鉈を使って草を刈ってくれ。ククノチは刈った草を入れる大きめのカゴを作ってやってほしい」
ウチのメンバーで一番体力があるオルフェに草刈を任せて、残りは山菜を探すとしよう。尚、刈る草は毒はないが俺たちが食べるには向いていない種類に限定している。
そのうち紐とか紙とか作りたいがDPを使って召喚できるから、大量に必要にならない限り手間のほうが大きい。
オルフェによって周辺の草が刈られ、今まで草に隠れて見えなかった地面や木の根元付近が探しやすくなった。っと、地面から生えてる三十センチくらいの見た事がない植物発見!
浮かんできた名前はコリッコリーと言い、中央に大きな円錐状のツボミを持っている。
「おーい、ククノチ。こっちにきてくれ、これどうだ?」
新種に触る前にはまずククノチを呼んで、触って大丈夫かチェックだ。ククノチは屈んで新種を見た後、こちらを振り向きニコッとサムズアップ。
触っても問題なさそうだが、俺の可食判定はダメだと言っている。が、
「コアさん、どうだ?」
「んー、食べると腹痛を起こすようだね。でもこれなら茹でれば大丈夫じゃないかな?」
そう、俺の可食判定はあくまでその状態で食べられるかどうかで判定されているため、実は一部分だけ食べられなかったり加工すれば食べられるモノでもダメだという結果になっていた。
なので、影響が軽微なものはとりあえず収穫してコアさんがいろいろ試し、解毒してうまかったものは個別に栽培できそうなら別途専用エリアを作る事になった。
「とりあえず一つ目かな?」
「そうだね、この調子でどんどん見つけていこう」
俺とコアさんがコリッコリーを取って収穫用カゴに入れている間にも、オルフェが周辺の草をものすごい勢いで刈り取り、刈り取られた後をアマツが山菜を探している。
「みんな! キノコ発見っちゃ!」
お、なんか見つけたか! アマツの所に駆けより、アマツが指をさした方向を見る。
そこには真っ白いキノコが、ってこれもしかしてドクツルタケ? いや、浮かんできた名前が違うな。
「シラユキタケっていうみたいだが、俺の可食判定だと食べられないな。コアさんはどうだ?」
「んー、食べると眠るように死ぬみたいだね」
はい、アウト! こんな危険物はダメです!
「暗殺用の毒薬としては優秀じゃないかな?」
「コアさん! 誰か暗殺したい奴がいるのか!?」
今の所敵と呼べるようなやつもいないし、まさか俺じゃないよね!?
俺の心配をよそに、コアさんは一本シラユキタケを抜くと手早く布で包んで懐に入れてしまった。
「まぁ、備えあればなんとやらさ。一本だけ作って厳重に管理すればいい」
こんな毒薬が備えになるケースが思い浮かばねぇ。まぁ、こんなキノコがあるとわかっただけでも良しとするか。
「とりあえず、続けるぞ。次だ次!」
まだこの付近じゃ食用にできそうなのが一つしか見つかってない。山菜狩りは始まったばかりだしこれからどんどん見つけていこう。
オルフェに刈ってもらった場所を食べられるものがないか、探しながら奥に向かっているうちになんか鼻がムズムズ……
「へっくし!!」
眼もかゆい、これは花粉か? 森林エリアは通年で同じ気候だから大体どこかしらで何かの花が咲いてるんだよな。
昔は風を止めていたんだが、ククノチに任せてからは適度に雨や風を起こしているので花粉が飛ぶようになってしまったのだ。そのおかげかどうかは知らないが木の実の採取量が増えたので特に文句はないのだが……
「くちゅん!」
かわいらしいくしゃみがしたほうを見ると眼をこするアマツの姿が見えた。
「アマツは花粉症か?」
「花粉症~? なんか眼がかゆくて鼻が くしゅん!」
これは確定だな。アマツは一度も森林エリアに来たことがないはずなのに花粉症とはね。
「くしゅん! くしゅん!」
しかも俺よりひどいときたもんだ。いざというときは花粉症の薬を出してやるか。
だが、現代薬はDPがそれなりにかかるのでそれは最終手段だ。まずは手持ちでなんとか解決できないか試した後だな。
「ククノチ、アマツのこれなんとかできない?」
回復魔法とかでワンチャン治らないかな? 少々の期待を込めてククノチに振ってみる。
しかし、ククノチは首を横に振ると、
「試してもいいですけど、これは対象外だと思いますー」
ケガとは違うからダメか。
「コアさんはどうだ? なんか花粉症に効きそうな食べ物とかないかな?」
あったら俺にもぜひ食わせてください。
「そんな都合のいい食べ物はないね、それはもう薬の領域だよ」
苦笑しながら答えるコアさん。ファンタジーに期待したけどダメであったか。
残るは獣医でもあるオルフェに頼るしかない。
「うーん、僕はどっちかというと家畜がケガや病気にならないよう予防する方だから、なっちゃったものを治すとなると薬に頼るしかないかな」
ニコニコ顔で草刈りをしたままこちらの質問に答えてくれた。なんか草刈が楽しくなってきたらしい。オルフェは花粉症とは無縁なようだな。
結局薬をDPで出す以外治す方法はないか、諦めてアマツの方に向き直……おう?
そこには自身の水魔法で頭をすっぽり水で覆い、目を洗うアマツの姿が!
「それ……大丈夫なのか? 呼吸とか」
なんかゴボゴボ言ってるけど、聞き取れないから念話で頼む。
「平気よー。これで鼻も平気だし眼もかゆくなくなったね」
そうか、人魚だもんな。多分人間と体の器官が違うんだろうな……興味はあるけど解剖するわけにはいかないしそういうものだと納得しておこう。
これでアマツの花粉症は問題なくなったので山菜狩りを再開する。その後は何種類か食べられそうな山菜やキノコを見つけることができた。
うん、順調順調。 コアさんじゃないけど見つけたキノコや山菜はどんな味がするのか楽しみになってきた。
なお、コアさんは我慢ができなかったようで、新食材をもってダイニングルームに走って行ってしまった。
山菜狩りを呼び掛けた本人が行ってしまうのに誰も止めなかったのは、結局みんな早く食べてみたかったのだろう。もちろん俺もな!