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4-13 湯上りタイム

 コアさんから着替え終わったとの連絡が来たので、脱衣所に入って着替えよう。

 せっかくなので俺もドライヤーを使って髪を乾かし、試しに尻にしっぽ用ドライヤーも当ててみる。


 うむ、なんというかロウリュウみたいで熱風が心地いい。コアさんがなかなか離れたがらなかったのもわかる。ただ、椅子が硬いのでクッションはほしいところだが。


 ほどほどに堪能した後、手早く着替えて脱衣所から座敷に入ると、まず視界に入ってきたのはだらしなく伸びきっている三人の姿だった。

 横向きで顔から尾の先までぺたーっと畳に付けているその姿は築地市場に並べられたマグロのようにしか見えないアマツ。

 仰向けでほぼ大の字に近い体勢で豪快に寝転んでいるオルフェ、そして丸まってる姿がまさに猫なククノチ。


 む? コアさんがいないな。ああ、これは頼んだものを取りに行ってるのか。それならそのうちくるだろ。


「お前らなんだそのだらしない姿は?」

「だってぇー、なんか気だるくてー、もう動きたくなくてー」


 三人を代表してかオルフェが答えるが、その声はしぼりだしたかのようにか弱かった。

 わかる。超わかる。こういう時って座布団を枕にしながら横になりたいんだよなぁ。初回という事もあってなんだかんだ長湯してたからな。


 何を隠そう俺も一度横になったら明日まで起き上がれない自信がある。だが、ここで横になってしまったら風呂上りに楽しみにしてた”アレ”が間違いなくコアさんに取られてしまうので、横になりたい衝動をぐっとこらえて壁によりかかるようにして座る。


「お、丁度マスターも来たね、”アレ”を持ってきたよ」


 コアルーム方面に続くポータルからコアさんが入ってきた。手にはお盆代わりのザルを持っている。


「おー、持ってきてくれたか! 風呂上りにはやっぱこれがないとな!」


 座ったばっかだが、”アレ”を持ってくれたとなれば話は別だ! 立ち上がってコアさんが持ってるザルにあるククノチの実に触れる。

 おおっ! 頼んだ通りほどよく冷えている! そのままククノチの実を手に取る。


「ご主人が頼んだ”アレ”って牛乳だったんですか?」


 顔と視線だけこちらに向けて期待外れといった感じで聞いてきたオルフェ。こちらを気だるげに見てる表情から察するにアマツとククノチも同意見のようだ。

 牛乳は量産できるようになったので毎朝飲んでるからもう珍しいものではない。だが、風呂上りに飲む牛乳の美味さを知らんからそんな事が言えるのだよ君達! しかもこれはただの牛乳ではない!


 問いかけを無視して実の蓋を開ける。そしてまずは一口。


 ……美味いっ! ほどよく火照り、汗をかいて水分不足の体に馴染むように牛乳が染み入っていく! 牛乳が舌を通過する時に感じるほどよい甘味……ドクリンゴモドキの味が実にいい! 何が素晴らしいって牛乳とドクリンゴモドキの配合比率が完璧で、甘味が強すぎず薄すぎないこののど越しがたまらない!


 最初は一口だけ飲むつもりだったが、我慢できずに目を閉じてさらに飲む。そしたらもう決壊したダムの如く実の中が空になるまで胃に牛乳を流し込んでしまった。これも牛乳が美味すぎるのが悪いんだ!


「ぷはぁー!」


 一気に流し込んで一息、実に美味かった! あー、余韻で吸う空気も心なしか美味い。

 満足したままゆっくり目を開ける。お? まったく牛乳に興味を見せてなかった三人が上半身を起こしてこちらをじっと見ている。


「ふぅー。成程、風呂上りに冷やして飲むこれは味見した時より遥かに美味しく感じたよ」


 その声に首を向けるとザルを畳においてククノチの実を両手に持って目を閉じ、満足げに頷くコアさんが居た。この配合比率は味見した成果だったか。


「この配合比率は完璧(パーフェクト)だ」

「感謝の極みってやつだね」

 

 こちらのサムズアップに対し、一礼を返すコアさん。


「さてコアさん、ククノチの実はまだあるが三人は飲みたくなさそうだしこれも飲んじまおうぜ」

「そうだね、ぬるくなる前にさっさと飲もう」


 途端、三人の方から聞こえる慌ただしい音。


「ちょっ、ちょっと待ってください! 飲まないなんて言ってません!」

「そ、そうですー!」

「待って! うちも飲みたい……へぶっ!」


 アマツが両手を使って立ち上がろうとしたが、人魚形態なのを忘れていたのか立ち上がれずにバランスを崩して畳に熱烈なキスをしおった。痛そう。


「冗談だ、冗談だから落ち着けよ三人とも」

「えっ!?」


 その声は俺の隣りから聞こえた。そこには本気で驚いてる狐の顔。コアさん……あんた本気で飲むつもりだったの?

 思わず俺も「えっ?」って聞き返しちゃったんだけど。

 

 そんな漫才をしてる間に置いてあったザルからククノチの実を奪い取るように持っていくオルフェとククノチ。落ち着けと言いたいが、さっきのコアさんの態度を見るに強く言えない。

 そしてアマツ、取ったりしないからお前は落ち着け。転んだ状態から手を使って這い寄ってくる様はどこぞの怨霊みたいになってるぞ。


「ほれ、ちゃんと人化しないと持ったらこぼすぞ?」


 ちゃんと人化させてから最後のククノチの実をアマツに手渡すと、自分の分が確保できたからかほっとした表情を見せる。俺が見てないところでコアさんが何かやらかしたんだろうか?

 アマツが飲む準備ができるまで待ってくれてる二人、そして「せーの!」の掛け声で同時に飲み始める三人。仲が良くて大変結構! 俺も混ざりたい!


 一口飲んで味を確かめると、そのまま一気に飲み始める三人。ふ、落ちたな。


「何これいつもと違う! 美味しいー!」

「私の実にドクリンゴモドキの果汁をいれるとこんな味になるんですねー」

「ほんのり冷たくて甘いのが美味しかけど、もうなくなったっちゃね……」

 

 飲み干すとお互いの感想を言いあう三人。


「ふふ、三人とも牛乳は美味かっただろ?」


 俺の問いかけにこくこく頷く三人。

 

「それは何より。だがまだ風呂上りの楽しみは牛乳以外にもまだあるんだぞー」


 パチンと指を鳴らして俺の後ろにポータルを出現させる。実際はタイミングを合わせて拡張ウィンドウから設置しただけだが、一回やってみたかったんだこれ。


「私の本体の近くにポータルを作ったんですかー?」

「正解、これからオルフェとアマツには大樹の治療を受けてもらいます」


 この二人はまだ大樹の治療をされた事がないからな。いい機会だし受けてもらおう。


「というわけでククノチ。二人に大地の治療をしてやってくれないか?」

「え~、今日はもう動きたくありません~。あれ結構大変なんですよ~?」


 本体は(多分)動いてないのにか。いや違う、この表情は対価を要求している悪い顔だ。


「生ビールを大ジョッキでどうだ?」 

「うふふ、わかりましたー。大樹の治療やりますよー」


 DPだとちょっと痛い出費だが、地球の価値で換算すると大生ビールの値段であのマッサージを受けられるなら破格といっていい。

 今日はオルフェとアマツにはとことん気持ちよくなってもらって、ますますこのダンジョンを好きになってもらおう。


 DPでビールを召喚してククノチの前に置いてやると、嬉しそうに受け取って早速飲み始めるククノチ。

 そのまま半分ほど飲んでようやくジョッキから口を離した。


「ぷはー! 牛乳もよかったですけど、私はこっちのほうがいいですねー」


 それはこれから毎日ビールを出せという事ですかククノチさん。量産できるようになった牛乳と違ってDPで出さないといけないから毎日は無理ですぜ?


「ではではー、施術をしますので二人とも私の樹の前まで来てくださいー」


 ビールを飲んで上機嫌になったククノチが二人を促し、そのまま三人でポータルをくぐって行ってしまった。


「三人には日ごろ世話になってるし、これくらい、いいよな?」

「ダンジョンマスターとダンジョンコアなのに、生産に関しては彼女達に頼りっぱなしだしね」


 三人のおかげで新しい野菜も魚も家畜も順調に育っている。俺とコアさんは人手が必要になった時に手伝いに行く、まさに派遣社員のようなもんだ。一応トップのはずなんだがね。


 牛乳も飲んでしまったし、改めて畳に座りなおすとコアさんも座ってくつろぎ始めた。もう横になって寝てもまったく問題はないが……


「コアさん、一つお願いがあるのですが聞いていただけないでしょうか?」

「改まって一体何なんだい? 聞くだけなら聞いてあげるよ」


 コアさんの方に向き直り、正座してコアさんの目を見ながらお願いすると、綺麗な金色の瞳で見つめ返して来た。

 そう。今はコアさんと二人きり、しかも温泉に入った後というこの状況は俺の”夢”を叶える絶好のタイミングなのだ。頼むなら今でしょ!


 畳に手を付き、次に額を付ける。最後に呼吸を整え一息に


「俺にコアさんのしっぽをブラッシングさせてください!」


ブラッシングかグルーミングか迷ったけどこっちで

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