4-12 ねんがんの こんよくを したぞ!
「ご主人、さっきからずっと見てるけどまだ何かあるの?」
風呂から出て前屈をしていたオルフェが俺の視線が気になって聞いてきたようだ。
「いや、そこで前屈してると下が石だから硬くないかと思ってな」
これは半分本当、もう半分は……湯あみ着からちろちろ除くふとももが実にいい!
「うーん、確かに草原よりは硬いけど気にはならないかな? 土がつかないし」
言われて見ればオルフェは朝飯を食べた後や仕事が終わった後、草原エリアでストレッチしてたり走ってたりするのをよく見かける。
「お前って走るの好きだよなー」
「うん。体動かしてる時が一番好きかな」
その辺りは馬頭の本能というよりは元ネタの影響があるんだろうか?
「ねぇご主人」
前屈の姿勢のまま顔だけこちらに向けてくるオルフェ。一体なんだ?
「ここで泳いじゃダメかな」
「ダメです」
そんな子供じゃないんだから……ここはあくまで温泉だし泳ぐのはダメだろ。
「えーでも、アマツは泳いでるじゃないですかー」
ぷかぷか浮いてるアマツを指さしながら反論してきた。前屈しながらとはなかなか器用な事をする。
「彼女は足がヒレだから特別です。一応移動する時には水しぶきを飛ばさないようにしてるみたいだしな」
彼女が水風呂とメイン風呂を往復する時は水面より深い位置を移動してるので水しぶきが飛んでいない。
それに彼女は人魚形態が本来の姿だからな。そこに文句を言うのは筋違いだろうよ。
「むぅー、じゃあ泳いでもいい場所を作ってください!」
「そこまでして泳ぎたいのか?」
「だってまだ走るくらいしか体を動かす事がないんですよ?」
あー、言われて見れば確かにそうか。ジムはもちろん、まだ人数もスポーツ用具もないしな。
あれ? 海洋エリアあるしそこなら泳げるんじゃないか? この前拡張したからそれなりに広くなったし。
「あそこはちょっと……砂が体についたり魚が多くて……」
確かにあそこは泳ぐために作ったわけじゃないからなー。産卵する魚も増えてきて人口密度ならぬ魚口密度も増えつつある。スキューバダイビングするとかなら最高の環境だと思うが、がっちり泳ぐには向いていないか。
であればプールは別に作ったほうがいいか。あれは穴に水をためるだけで簡単にできるし、DPもそこまでかからないから用意してもいいかな。
や、まてよ。そういえば人魚のアマツもいるし、水を利用した防衛ラインを構築するのもおもしろいかもしれんな。流水や電気を利用すればなかなか硬い防衛ラインになりそうだから考える価値はある。
俺たちは水遊びができるが、侵入者には障害になる。これはおもしろいかも。
「ご主人、ダメかな?」
「いや、任せろ。とびっきりのやつを作ってやるよ、構想考えるから待っててくれ」
「やった! 期待してまってるからね!」
いつも通りサムズアップして約束する。ウチのサムズアップはゆびきりも兼ねてる万能ポーズである。
約束もしてしまったし構想を考えますか。微温湯に浸かってればなんかいい案もでるだろ。
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「さて、そろそろ私は上がらせてもらうよ」
コアさんがそう言いながら水風呂から上がる。入り始めてから結構時間が経ってるし頃合いだろう。
その声を合図に他のケモミミ娘達も上がるようだ。
「じゃあ、俺はみんなが着替え終わるまでここにいるから終わったら念話で伝えてくれー」
ぞろぞろとケモミミ娘達が脱衣所に向かっていったのを見送って、微温湯を堪能することにする。
川の水と違い微温湯はほんとに気持ちよくて、いつまでも入って居られそうだ。ククノチがずーっと入っていたのもわかる。微動だにしないククノチはやっぱ根は植物だよ。
ちょっと潜ったりして久しぶりの一人風呂を堪能する。みんなでわいわい入るのもいいが一人でゆっくり入るのもいいもんだ。
「マスター、ちょっといいかな?」
コアさんの念話だ、やけに早いが何か問題でも起きたのだろうか?
「どうした? 何か問題か?」
「問題と言えば問題だね。実はドライヤーがほしいんだ」
ドライヤー? 髪を乾かすあれか? 今まで欲しがってなかったのにこのタイミングでか?
「このタイミングだからこそだよ。特に私はマスターのせいでしっぽをもふもふにされたからね。今までも乾かすのに時間かかってたけど、今日は温泉に入ったからね。乾くのを待ってたら湯冷めしてしまうよ」
なるほど、そういう事なら俺にも責任がある。ドライヤーも熱波の罠を改良すればできそうではあるが……
「今、監視ウィンドウで脱衣所を覗いても大丈夫か?」
微温湯から出たくないので遠隔で設置しよう。まだ着替え中だと思うので一応許可を取っておく。
「大丈夫だよ」
よし、許可が出たので覗かせてもらおう。コアさんを除く三人はバスタオルを巻いてるが、コアさんは変わらず素っ裸である。あんたはそれでいいんかコアさん。
まぁいいや、俺の目の保養になるし早速始めよう。
まずは壁にオーブンを作った時に使った熱風の罠をコアさんの頭の高さに設置する。本来なら台風の如く人どころか車すら吹っ飛ばすような風を出す罠だが、サイズと出力を小さくする。本来のドライヤーと違って手で持てないが逆に言えば両手が使えるのがメリットだ。
後は今の所正面にしか風が吹かないのでレバーで上下に風向きを変えれるようにすればいいかな? 左右の方は体の向きを変えることで対応してもらおう。
最後に罠の横に起動スイッチを取り付ければ完成かな?
「よし、これで代わりになるか試してみてくれ」
コアさんがスイッチを入れると、風を受けて金色の髪が空を舞うように浮き上がる。綺麗な金髪が風を受けて泳ぐようになびかせている光景は、すごい綺麗で思わず監視ウィンドウ越しに見とれてしまう。
さてさて、見てる分には問題なさそうだが使い心地はどうかな?
手で髪を引っ張って横から風を受けてみたり、おじぎするように罠に向けて頭頂部を近づけてみたり、三人の視線を気にせずにいろいろなポーズを取って試している。
おいおい、流石にエビぞりはないだろ……いや、熱風を出す位置が固定されてるから仕方ないのか?
「マスター、壁に真横から吹かすんじゃなくてシャワーと同じように斜め上から風を飛ばすようにしてくれないかな?」
「よしきた……これでどうだ?」
シャワーと同じように壁に斜面をつけると、コアさんがその下でお辞儀をする。するとやや後頭部から髪全体に風が当たるようになった。
金色の草原に風が吹くように髪がきらきら輝いてこれもすごく綺麗だ、それに風に煽られて狐耳がゆれるのもグッド! 他の三人もやってくれないかなー?是非見たい!
「うん、後は風力を調整するつまみをつけてくれないかな?」
「ついでに温度調節もつけようか?」
「うん、せっかくだからお願いするよ」
熱波の罠、いや、壁ドライヤーの横に風力・温度調節つまみを付け、後はアマツがいるから少し低いところに同じものをもう一個作る。これで要望に応えられたかな?
「これで髪の方は解決したから、次はしっぽ用のドライヤーを頼むよ。むしろそっちが本命だね」
まだ応えられてなかった、でもしっぽ用と言われてもなぁ……
「俺にはしっぽないからどう作るのがいいのかわからんぞ。そこは三人でどんな形がいいか相談してくれよ」
「試作には付き合ってくれるよね?」
「当たり前の事聞くなよ」
微温湯に浸かってるから長時間入っていてものぼせる心配はない、体がふやけそうではあるがね。
三人が集まって相談を始める。お互いのしっぽを見せ合ったり持ち上げたり振ったりしゃがんだりしている。あれに混ざりてぇなぁちきしょう!
あ、唯一しっぽがないアマツがコアさんの見様見真似でドライヤーを使いだした。まさに”どこふく風”ってやつだな。風に吹かれてアマツの綺麗な青髪がふんわりなびく様は目の保養になるが、人魚が熱風を浴びるのは大丈夫なのか? まぁ、あつ湯に入ってたし大丈夫なんだろう。
「マスター、とりあえずだけど作ってほしい形が決まったよ」
お、試作型が決まったか。コアさんの説明に合わせてさっそく作っていこう。
まずは壁に円柱型の穴をあける。高さは丁度お尻……しっぽが生えてる位置にだ。中央やや下の位置に横に通すように柱を付け、それを等間隔に並べていく。なるほどねー、柱の上にしっぽを乗せるのか。
後は壁に熱風の罠を取り付けれて全方位から熱風を浴びせて乾かしていくと……
「その形なら腰かけを作ってそこにスイッチを付ける形がいいと思うがどうだ?」
とりあえず言われるままに作ってみたが、ぱっと見で改良できそうなのはそこなんだよな。
「うん、それでお願いするよ」
許可がでたので、穴の前の床を穴の高さまで上げて座れるようにする。さらに端っこを伸ばしてひじ掛け替わりを作り、右側に起動スイッチを付けた。
元が床なので硬いが、それはクッションとか置けば問題ないだろう。
「できたぞ、使ってみてくれ」
コアさんがイスに座る前にしっぽを下から持ち上げて柱に乗せた後に座る。そしてスイッチを入れると罠が起動してしっぽに熱風を浴びせていく。あ、狐耳を横に寝かせて目を細めてる。すごい気持ち良さそう。
しっぽドライヤー(仮)が上手く動いてるか確認するために表示場所を穴の中に移す。うん、しっぽが全方位から熱風を受けてぶわっと膨らんでいる。すごいふわふわしてそう、後で触らせてもらえたら最高だな。
それにしてもこの形といい用途といい、なんかどこかで見た事がある気がするんだけど何だっけな……?
ん~?
「あっ!」
思わず声に出したけどようやく思い出した! これ、コインランドリーにある乾燥機そのまんまじゃん!
コアさん達はしっぽを乾かすために柱を横につけたけど、奥に回転盤をつけて細かく穴をあけた鉄のドラムを回せば、まんま乾燥機じゃないか!
よく考えれば洗濯機も穴の底に回転盤設置して、水源つけて回せば再現できないか?
おっしゃおっしゃ! これで水浴び……いや、風呂に入った後の洗濯もほぼ自動化できるな! これで桃太郎のおばあさんみたいに川で洗濯する必要もなくなった!
しかし、乾燥機をすぐに思い出せなくなってしまったか……こっちにきて大分経ったからなぁ。
ダンジョンマスターは自分のダンジョン限定ではあるが本当に万物創造に近い能力がある。だが用途を思いつけなきゃそれはないのも同じ、地球の事を忘れないためにもやっぱり書籍とかは早めに欲しい所だ。
む? なかなかしっぽドライヤー(仮)から動かないコアさんが羨ましくなったのかオルフェがコアさんをドライヤーからどかしたぞ。
そのままイスに座ろうとするが、ドライヤーの中にしっぽを入れるのにバスタオルが邪魔になっていることに気が付いたのかバスタオルを取るために手をかけて……
「ちょっと待ったオルフェ! マスター! まだ見ているね!」
ズビシッ! という効果音が聞こえるかのようなポーズを取ってこちらに指をさすコアさん。
その声にバスタオルを取ろうとしていたオルフェがピタッと止まってしまう。チッ、後少しだったのに。
流石にダンジョンコアには全部筒抜けか。とりあえずごまかそう。
「いや、まだ使用感とか聞いてなかったし。実際どうだった?」
しっぽを体の前にもってきて触って確かめるコアさん、傍目から見ても熱風をたっぷり吸ったしっぽはまさに乾燥機を使った後の布団のようにふわふわしているように見える。
「うん、しっかり乾いてる。それに熱風が背中にあたって気持ちよかったよ」
「そうかそうか、それは良かった。それじゃあ隣りにもう一つ同じの置いておくぞ」
一回仕組みを作ってしまえば後はコピペで楽々設置っと。はいできましたー。
「他に何か問題はあるかー?」
「いや、他にはないよ。ありがとうマスター」
「おうよ。あんまり長時間使うなよ、俺が出れなくなるからな」
コアさんのサムズアップを見届けて監視ウインドウを閉じる。
ちょっと微温湯に長く居過ぎたかな? メイン風呂に入りなおした後に頃合いをみて水風呂で〆ておこう。