4-11 ねんがんの こんよく ちゅう!
数か月ぶりのシャワーを堪能し、メイン風呂に入る。久々の風呂があったけぇ、というよりちょっと熱い。
もちろん風呂だって数か月ぶりだ。お湯に浸かるとじっくり疲れが解けでていくのがわかる。今日ほど日常的に使っていたもののありがたみを感じたことはないな。
十二分にリラックスできたところでもう一度幻術を打ち破るために目を閉じて魔力を練る。心なしかいつもより楽に魔力が練れている感じがする。これならいけるか?
強く打ち消せと念じた後、ゆっくり目を開ける。さぁ今度はどうだ?
まず見えたのは良く見慣れた金色の狐耳、タオルでまとめた髪、そして湯に浸かってほんのり赤い良く見知ったコアさんの顔。
よっしゃ! どうやらうまくいったな! やっぱりエロの力はい……だい?
あれ? 視線を下に向けると、まだ幻術が完全に解けてないのかモザイクがついてる箇所がある。位置は……アニメや漫画で言うなら謎の光で隠されている部分に付いてる。
これはコアさんの幻術ではない何か別の力が働いたような気がしてならない。付け加えるならこれ以上はどう頑張っても消えないという謎の確信が心に浮かぶ。
だがまぁ、このくらいなら許容範囲。出るとこは出て引っ込むところは引っ込み贅肉というものは一切ない、海水浴の時と変わらない見事なプロポーションである。これはもう芸術といってもいいんじゃないか?
「ほらほら、私に見とれてないでさっさと続きを話しなよ。みんな気になってるじゃないか」
俺の視線に気が付いたのかコアさんがこっちを向いて続きを促す。
そう言われても他の三人はまだモザイクがかかっていて表情がよくわからないんだが……まぁいい、どこまで話したっけな? 確か海水浴で幻術と妖術をかけられて子供返りしたところまでだったかな?
術を解除された後は黒歴史確定だと思ったが今となってはそれも思い出……というよりは教訓だな、三人に幻術と妖術の恐ろしさを交えながらその時の事を話すと
「ご主人様、子供の頃はわんぱくだったんですかー?」
こんな質問が飛んできた。うーん、どうだったかな? 正直言うとほとんど覚えてない。
「そうだね、マスターは子供の時にもいろいろやらかしてるみたいだよ」
「ほほぅ、といいますとー?」
「例えばマスターが小学三年生の頃、当時流行ってた”みどりの……」
瞬間、今まで脳が認識していた景色が後ろに流れコアさんの顔が眼前にせまる。
驚いたコアさんが反応するより早く、手が勝手に動いてコアさんの口を塞いだ!
「おいやめろ、それはダメだ。それ以上はいけない。いいね?」
少しおびえた表情でコアさんがこくこく頷く。この様子なら今後話すことはないだろう、ゆっくり手を放してやる。
自分で言うのもなんだがさっきの動きは明らかに人間離れしていたな、DPでの強化まじパネェ。
「ご主人は一体何をしたの?」
興味深そうに聞いてくるオルフェ。あれ? モザイクがほとんど消えて三人をちゃんと識別できてる。コアさんがビビッて解除したのか、黒歴史をばらされそうになって精神が高ぶった結果なのかはわからんけど。
いや、それよりもだ。
「オルフェ、人には決して触れちゃならない傷がある。それに触れようものなら後は命のやりとりしかなくなるんだ。いいね?」
「あ、はい」
俺の心からの説得にこくこく首を縦に振るオルフェ。うむ、やはり話し合いで解決できればそれが一番なのである。
幻術が解けたのであらためて湯につかる四人をじっくり見る。
少し湯あたりしたのかふちの石に腰かけて足だけ浸かっているコアさん。目を閉じて微温湯にどっぷり浸かるククノチ。湯の中で足を揉んでほぐすオルフェ。そして人魚形態に戻ってぷかぷか浮いてるアマツ。
最高だ! 桃源郷はここにあった!
……ん?
「あれ? アマツ、お前熱いの苦手なんじゃなかったのか?」
そう、入る前に熱いのは苦手といっていたはずのアマツがメイン風呂のあつ湯に入っている。
「なんか水とお湯に交互に入るとね、とっても気持ちいいんよー」
そういうとお湯に潜り、少し勢いをつけると水族館のイルカが陸に上がるように淵をすべって飛び越し、そのまま水風呂に頭から潜っていくアマツ。
「はぁー。これがいいんよー、最高っちゃねー」
水風呂から頭を出し伸び伸びの語尾で感想を言ってくる。
「あー、温冷浴ってやつか。それが気に入ったならサウナも欲しいよな?」
「サウナ? サウナって何ね?」
おっとしまった。知らなかったか、簡単にだがサウナの説明をしてやると興味を持ったのか水風呂から出てこっちに近づいてきた。
「温泉にはそんなものもあるんねぇ。ねぇ主さん。他にはどんなものがあるっちゃね?」
んー、そうだなぁ。いろいろあるけど……ああ、打たせ湯くらいだったら簡単に用意できるかな?
拡張ウィンドウを開きシャワー用に通した水路に横道をつけ、まっすぐ伸ばして壁を突き抜けてやる。少し経つと新しい水路を通ってきたお湯が湯舟に落ちてきた。ちょっと壁に近かったので通路を伸ばしていい位置に落ちるように調節する。
立ち上がり、できたばかりの打たせ湯に手をつけて温度をチェック。うん、まぁシャワーと同じで許容範囲かな? 火傷しない熱さなら問題ないだろ。
「ほれ、打たせ湯を作ってみたぞ。これは体に落ちてくる湯を当てる風呂だ」
早速興味をもったのかアマツが打たせ湯の下に泳いで移動する。そのまま打たせ湯を頭に当ててみたり首や肩に当てて見てたりしている。
「うん、これもなかなか乙なものっちゃねー」
うん……そうね。さきほどから肩に湯を当てているせいか湯あみ着を付けていても自己主張が激しい二つの果実がぶるんぶるん揺れておる。
あんまりガン見するのもよくないとわかっていてもついつい視線がくぎ付けに……
「いいなぁ……」
その声に振り替えると、足を延ばしながら羨ましそうにアマツを見るオルフェ。
「なんだ、打たせ湯は1つあれば十分だろ。次に使えばいいじゃないか」
「いや、そこじゃなくてですね……」
違うのか。じゃあなんだ? オルフェの視線を気にしつつ二人を交互に見る。
「ああそうか、大丈夫! 胸がなくて……」
「ご主人? 人には触れたら命のやりとりしかなくなる傷があるんですよね?」
「ハイ、ゴメンナサイ。シツゲンデシタ」
お前は馬頭だろうが、というツッコミを飲み込んで素直に謝る。なぜならオルフェが一瞬で間合いを詰めて俺の頭を掴んだからだ。いわゆるアイアンクローの体勢なんだが、この状態で下手な発言をしようものならオルフェに頭を冗談抜きで握りつぶされてしまう。
現に今も力を込めて頭を握られていてかなり痛い。体が浮きそう。いや、ほんとに痛いからそろそろ離して? お願いだから!
「まったく、ご主人がこんな身体につくったのに……」
手を放して何かぶつぶつ言うオルフェ。うう、頭が痛い。湯舟に倒れると危険なので一度上がって石に腰かける。火照った体にこの気温が丁度いい。
「おー、いてぇ。ひどい目に会った」
「これほど自業自得って言葉が似合うケースはあんまりないね」
まぁな、今後はオルフェの体型については絶対に口を出さないようにしよう。
とはいえ……湯舟から上がって太もも後ろを伸ばしているオルフェは胸こそないが、腕や太ももはスラッとしていて実に魅力的だ。
惜しむらくはしっぽが出ていない事か、俺が召喚した湯あみ着は人間用なので当然しっぽを出すための穴はついていない。なので、おしりのあたりがモコっと膨らんでいるのが本当に惜しい。
今回はしょうがないとして、次回からは是非しっぽ用の穴をあけてほしいが、そういえばウチでちゃんと裁縫ができる奴っていたかな? コアさんの枕は俺が縫ったけど正直裁縫なんて中学校以来だからウサギの毛を入れて漏れないようにした袋みたいなもんだし。
「なぁククノチ、お前裁縫ってできる?」
「ほぇ~。やったことないので多分無理ですぅ~」
文字通り微温湯に浸かりきってるせいなのか口調がいつも以上に間延びしておる。
まぁ、今誰もできなくてもまったく問題はない。本当に必要ならDPを使って覚えれば済む話だからな。原理はまったくわからないけど、本当に便利なシステムだよまったく。
なんか風呂の話ばっか書いてると、これ本当にファンタジー?って思うことがよくある