4-10 ねんがんの こんよくを するぞ!
やはり次に拡張するならサウナだな。場所は岩壁の中に作るのが最適かな、
ん? 岩壁の中に作るならサウナじゃなくていっそ岩盤浴にするか? 源泉を地下に移して岩盤浴部屋の下に平べったい部屋を作って源泉を流せば温められて丁度いい温度になりゃしないか?
よし、今度やってみよう。
直近はそうするとして最終的には地球ではできないファンタジーな風呂場を作ってみるか! 例えば小型浮遊島から温泉を滝のように流してみるとか……いやぁ、夢が広がるな!
「待たせたね、マスター」
後ろ、ポータルのある方から人の気配とコアさんの声。
お、来た来た。未来には夢が広がっているが、今この瞬間も俺の後ろには夢が広がっている。そう! ついに俺の夢がかなう時が来たのだ!
気持ち的にはゆっくり振り向く、自分では制御できてるつもりだったが、目に入り脳が認識した風景は今までで一番早く横に流れていっただろう。
まぁ、そんな事はどうでもいいのだ! そこには……!
そこには……え? 何コレ? 人型をしたモザイクが四つ?
凝視してみる……やっぱりモザイクだよなこれ?
目をこする。きっと生涯で一番長く目をこすっただろう。たっぷり目をこすり、ゆっくり目を開ける。
そこに居たのはやっぱりモザイク処理された人型の何かが4つあった。
色は右から黄色・緑・茶色・青とそれぞれ違っている。
「え……? え……?」
唯一頭の中に残っていたこの言葉を連呼するしかなかった……
「マスターが人の話を聞かないから幻術をかけさせてもらったよ」
黄色いモザイクがしゃべる。この声はコアさんか! え? 人の話聞いてないって……いや、バスタオル出したじゃん!? なんで幻術かけてんの!?
「バスタオルも必要だけどね、私が足りないって言ったのは違うものだよ」
バスタオルじゃないなら一体何なんだろう? 考えてもでてこないな……
「ギブアップだ、足りないのは何だ? 教えてくれ」
「答えは……湯あみ着だよ」
え? 湯あみ着? そんなの要る? 必要?
あ、なんかモザイクが動いた。よくわからないけどため息をつかれたような気がする。
「まったく……ちょっと配慮が足りないんじゃないかなマスター。ここには温泉初心者が四人もいるんだよ、皆や特にマスターの前で裸になるのに抵抗がある娘がいるとは思わないのかい?」
あ、あー確かに。海水浴でコアさんが脱いだり収穫祭でククノチが脱いだりしてたから、てっきりダンジョンモンスターはそういうの大丈夫だと思ってたけど、それは誤解だったか。
茶色いモザイクが「くっ」って言ったり、緑のモザイクが「そのことは忘れてください―!」と叫んでるのでやっぱり必要な物のようだ。
「そうだな、浮かれすぎてて配慮が足りなかった。すまなかった」
さっそく湯あみ着を4つ用意してモザイクたちに手渡す。ついでに男性用湯あみ着も出して自分も着ておこう、一人だけ素っ裸になってるところを想像したら恥ずかしくなったからね。
もそもそ動いていたモザイク達が着替え終わったのか動かなくなったところで、
「じゃあ、湯あみ着も出したしそろそろ幻術解いてくれない?」
「そこは自分で解いてみたらどうかな? もちろんお触りは禁止だよ」
そんな! あんまりだぁ!
♦
幻術を打ち消すために魔力を込め、今見えているものを否定する!
そう、あのモザイクは現実じゃない。実際は素晴らしきケモミミ娘達の湯あみ着姿なんだ!
目を閉じ練りに練った魔力を脳に流して幻術が解けるよう強い念を送る。今まで散々やられてきたから、なんとなく幻術の仕組みがわかってきたつもりだ。コアさんは声や仕草を通して目や耳から送られてきた情報を脳が誤認するよう魔力で操作してるんだと思う。
だから、誤認させている魔力を打ち消せば幻術も解けるというわけだ。
ゆっくり目を開ける。そこに居たのは。
多少モザイクが緩くなったが、まだまだケモミミすらよくわからない人型の何かとしかいえないものだった。
「コアさーん、かけた幻術強すぎない?」
「これも愛のムチだよ、マスターに限界を超えてほしいという私の願いさ」
……。
「ほらそんな、遊園地で友達に預けた財布を落とされたような顔してないで、私たちに温泉の入り方を教えてくれるんだろ?」
「……まずはそこのシャワーで体を洗うんだ、湯を汚さないようにな。タオルに石鹸をつけて体の隅々まで洗えよ」
ぶっきらぼうにシャワーの方を指さして答える。
「あらら、すねちゃったか。仕方ないね」
黄色いモザイクがもそもそ動き、俺に何かを手渡して来た。
黄色いモザイクが離れると、渡された物が鮮明にわかるようになる。これは……これは!
バスタオルと……湯あみ着だと!?
「これで私は何も身に着けてないよ。マスターは海水浴の時に一度私の裸を見てるからイメージしやすいだろ?」
正直ほとんど幻術かけられてたから、スコールに髪を乱されたどこぞの怨霊みたいな姿しか覚えてないなー。
あの時のコアさんの顔は傑作だった。
「くくっ」
思い出すとついつい笑いがこみ上げてくる。笑った事で不貞腐れていたことがどうでもよくなってきた。
「海水浴で何かあったとね?」
青いモザイクが聞いてきた。そうだ、モザイクであれなんであれケモミミ娘達と混浴する事には変わりない。我ながらくだらない事でイラついていたな。
「そうだな、その辺は湯舟に入ったら話そうか。だからほら、さっさとシャワーで体を洗いなさい」
ここに来て数か月たってるしたまには思い出を語るのもいいだろう。シャワーは2つしかないので一番近くにいた緑と茶色のモザイクがシャワーがある壁に向かい……
「ご主人様ー、湯あみ着とバスタオルは何処に置けばー?」
そうか、シャワーの近くに置き場所が必要か、ついでに仕切りも兼ねよう。岩壁を生やして仕切りを作り、湯あみ着やバスタオルはそこにかけてもらうようにする。
仕切りを置くとやがてシャワーの音が聞こえてきた。
「ほぇー、温かくて気持ちいいですー」
「これならずっと浴びていられるね」
シャワーの音に交じってモザイク達からそんな感想が聞こえてくる。これは長くなるか?
「しまったな。長くなるならシャワーより真ん中にかけ湯作ったほうがよかったか?」
「いや、私はシャワーの方がいいと思うよ」
「そうか?」
「ほら、そこを見てみたまえ」
そんな事言われましても……なんか動いて指をさしたようだが……
「いや、そこって言われてもどこだよ? モザイクがちょっともそっと動いた感じにしか見えんぞ」
「おっと、そうだった。溝に流れてる水をよく見てほしい」
どれどれ? 溝に向かって屈んでよく見てみると、水に混ざって流れているのは大量の毛。
あー、そうかケモミミ娘達はしっぽがあるから毛が多いのか。おまけに髪の毛と違ってしっぽは湯に浸かりっぱなしになる。
確かにこれなら最初にしっぽを洗ってもらう方がいいな。
「終わりましたー」
「終わったか。後はまぁ、暴れたりしなけりゃ自由に湯に浸かるなりなんなりしてくれ。ほれ次はコアさんとアマツが浴びてくれ」
二人が浴び始めたのを見届けて湯舟に向かう。むろん入るつもりはない、湯舟に入る前に体を洗うルールを俺が破るわけにはいかないからな。単にしゃべりたいだけである。
「二人とも、湯加減はどうだ?」
「私にはこっちのほうがいいですねー、できればもう少しぬるい方がいいですがー」
微温湯に浸かっていた緑のモザイク……ククノチが答える。表情はわからないが声からすれば大分リラックスできているように感じる。
「僕は熱めのこの辺りが好きかなー」
メイン風呂の滝に近い位置、比較的熱い温度のとこにいる茶色いモザイク……オルフェが答える。滝の音で少し聞き取りにくかったが、モザイクのダレ具合から察するに相当寛いでいるのがわかる。
そうか! 好み以上に種族差があるのか。結果論だが湯舟を3種類に分けたのは正解だった!
しっぽの事もあるし普通の人間基準だと対応しきれない事があるのは覚えておこう。
「そうか、今度さらにぬるめの湯舟も用意する。でも今日はそれで我慢してくれ」
「この温度でも問題はありませんよー」
今の微温湯は大体体温と同じくらい、いわゆる不感湯になっている。これより低いというと夏場に浸かるとひんやり気持ちいい位かね?
オルフェの方は馬頭……地獄の獄卒という種族だからなのか熱めのほうが好きか。
「主さん、うちらもシャワー終わったっちゃ」
「水浴びと違って体が冷えないからゆっくり洗えたよ」
青いモザイクが俺の横を通り抜け、一直線に水風呂にダイブする。派手な音がして水しぶきが一面に舞う!
「うぉっ、冷てぇ! おい、湯舟に飛び込むのは禁止だぞ」
「うひゃ!」
彼女としては海に飛び込むのと同じ感覚だったのかもしれないが……水しぶきをガードした手をさげると水風呂に沈んだまま浮かんでこない青いモザイクが見えた。
潜るのはどうするかな……個人的に何でも禁止するのは好きじゃない。ここは日本じゃないし他人に迷惑をかけなきゃ別にいいか。コアさんのカワイイ悲鳴も聞けたしなっ!
うっ……! そんな事より水しぶきをまともにくらったから冷えて寒い!
さっさと俺もシャワーを浴びてから温かい湯につかりてぇ!