4-7 歓迎会 君たちの名は
「本当かや!?」
「くださるのですか!?」
かなり興奮した様子で聞き返してきた二人。ククノチの時もそうだったが、ダンジョンモンスターにとってマスターから与えられる名前というものは俺が想像している以上に大事なものらしい。
「当然だ、これから一緒に生活していく仲間だからな」
ピッとサムズアップすると2人もにこやかにサムズアップを返す。なんというかウチの中で意思疎通ができた時の合図みたいになってるな。まぁ、仲間内のサインというのはより親密になれそうなのでどんどんやっていきたい。
「よし、じゃあまずは馬頭、お前からだ」
「は、はい!」
かなり緊張した様子でイスから立ち上がりピシッと気を付けをする馬頭。そんなに緊張しなくても……いや、彼女たちの名前に対する期待を考えれば当然か。
俺も立ち上がって向き直り馬頭を正面から見据えると、彼女の茶色い瞳が俺を真っすぐに見つめ返してきた。
「馬頭、お前の名前は”オルフェ”だ」
名前を告げると馬頭……オルフェは自分に馴染ませるように三度自身の名を呟いた後、嬉しさを抑えきれなかったのか笑顔がにじんてくる。
「……ふふっ」
……うむ、いい笑顔だ。カメラがないのが非常に惜しい、心のカメラにしっかり保存しておこう。
「オルフェさーん! おめでとうございますー!」
うぉっ!? びっくりした! ちょっとビクッてなったじゃないか。声のする方を向いてみればものすごい上機嫌で拍手を送るククノチ。お前という奴は……まぁ、酒を出したのは俺だし祝福してくれてるから良しとしよう。
声にこたえるようにククノチに向かって小走りで駆け寄るオルフェ、そして……
「ククノチさん! ありがとうございます!」
オルフェの返礼と共にひしっと抱きしめあう二人。いいなぁ、まざりてぇなぁ。すっかりマブダチみたいになっちゃって……
酒が入ったテンションもあってか、このまま二人の世界に突入しそうである。俺としてはこのまま見ていたい気分ではあるが、
「おーい、二人とも。続きは人魚の命名が終わってからやってくれないか?」
「あっ!? すみませんでしたっ!」
「そうたい、二人とも気が早いっちゃ」
我に返り体を離すオルフェ。ほら、ちょっと人魚がすねてるじゃないか?
頬を膨らまして二人に怒りをぶつけるその姿はちょっとかわいいが、身長を低くしたことが原因なのか少し子供っぽい行動が多いな。だがまぁ、その個性もかわいいから良し!
「ほらほら次はお前の番だから、そんな顔してないでこっちに来い」
人魚を手招きすると膨らんでいた頬がしぼみ、逆に”にぱっ”という形容詞がぴったり似合う笑顔をうかべるとこっちに小走りで寄ってくる。
うん、君は感情がエラ耳にはでないけど、顔にはしっかり出ているね。
オルフェの時と同じように人魚を正面から見つめると、人魚はにっこり微笑み返して来た。
その微笑みに自分の頬も緩んでくるのがしっかりわかる。
「よし、お前の名前は”アマツ”だ」
オルフェの時より柔らかい感じで名前を告げる。
人魚……アマツは少しの間目を大きくさせると、すぐにまた笑顔に変わり、
「うちは……アマツ。うん! 主さん、おおきに!」
俺に向かってお辞儀をすると、皆の方に向き直り
「うちはアマツっちゃ! 改めてよろしゅうお願いすると!」
そういって同じようにお辞儀をしたアマツに3人はそれぞれお祝いの言葉をかける。
微笑ましくその様子を眺めていると、不意にコアさんがこちらに視線を向けてきた。
「ねぇマスター」
「ん? どうした?」
「地球ではお祝い事があるとケーキを食べる習慣があるらしいじゃないか。つまり、今この瞬間はケーキを出して祝うべきだと思うんだ」
こちらに指をさしてそう主張する。
なんか最近聞いたことがあるフレーズだな。それ、お前が食べたいだけじゃないのか?
「あっ! ではお酒も必要です! 祝いの席にはお酒! ですよね!」
イスから立ち上がりテーブルに手をついてこちらを向いて主張するククノチ。
そうそう、今日の会議の時だった。カルーアは……もう空か、結局これもほとんど一人で飲みやがって……
「まだククノチさんのキュウリはあるし、僕もお酒が飲みたいかなぁ」
このキュウリ気に入ったのかオルフェ、確かにククノチが作っただけあって酒と一緒に食べると美味いからなー、ただし見た目にはもう突っ込まないぞ!
「ケーキ!? コアさんがどえりゃあ美味いっちゅってたお菓子を出してくれると!?」
ものすごい期待に満ちた笑顔でこっちを見るアマツ
いや、まだ出すと決まったわけじゃないんだけど……いや、ダメだ。この期待に満ちた笑顔を裏切ることなど俺には出来ない。
「わかったわかった、ケーキも酒も出してやるから。だからこれからしっかりDP稼ぐんだぞお前ら」
ダイニングルームに華やかな歓声が響く。
ま、これでやる気になってくれるなら安い投資かな。