4-6 歓迎会 ディナーミーティング
「じゃあ、ククノチはブドウがいいんだな」
「そうですー、早く自家製ワインを作って飲みたいですー」
まぁ、これは予想通り。今後もククノチは酒の材料になるものを優先してリクエストするだろう。米や小麦も作る事が決まったので日本酒やウィスキーもそのうち作るようになるだろうな。
「次は野菜類だけど馬頭は人参が気に入ったんだよな?」
「そう! いろいろ食べ比べさせてもらったけど、僕にはこれが一番だったね!」
食べ比べ用に出した人参スティックを指で挟んで揺らしながら馬頭が答えた。
これも予想通りというかむしろストレートすぎてつまらないというか。野菜食べ比べにはコアさんを筆頭に他のメンバーにも参加してもらい、今回はニンジンにキャベツとトマト、後は人魚の希望でスイカと俺の独断でトウモロコシ、最後に以前話していた大豆を増やすことになった。
ただ、育てる品種はこれで全部じゃない。
「次に甘い物だけど、砂糖は必須としてチョコレートの材料、カカオが第一候補でいいんだな?」
「あのチョコレートケーキはとても美味しかったからね。できるだけ早く再現して食べたいんだ」
コアさんが収穫祭の時に食べたチョコレートケーキの味を熱弁したため、満場一致でチョコレートの材料であるカカオを育てる事が決まった。
それにしてもコアさんの熱弁は地球のグルメレポーターに引けを取らないくらい上手かった。味を知ってる俺はともかく、知らないはずの二人にもありありと美味しさのイメージを沸かせたようで、特に人魚はチョコに対する期待値がリミットを振り切っているかのように興奮していた。
これは近いうちにねだられるな。
これに加えてキュウリ畑は種が大量に取れたため、四畳半から大幅に拡張することになる。正直に言ってククノチの作業量が一気に増えたけど大丈夫なんだろうか?
「育てる品種が結構増えるけど、ククノチ大丈夫か?」
「ずっと見てないといけないわけではないですしー、人手が必要な作業は皆さんに手伝ってもらいますから大丈夫ですよー」
酒で頬を赤く染めたククノチからまともな返答が帰ってきた。どうやらボトル1本プラスちょっと程度ならそこまで悪酔いしないらしい。カルーアもすでに半分以上なくなってるしペースが速いよ。
「もちろんですよ! 是非お手伝いさせて下さい!」
「ひゃっ!?」
若干鼻息を荒くしながら馬頭がククノチに迫り、彼女の両手を握って手伝い宣言したもんだからククノチが少し引いてるじゃないか。
「手伝うやる気があるのはいいけどな馬頭。お前にも動物の世話という仕事があるんだからそっちもしっかりやってくれよ」
「もちろんですよ。全ては美味しい食事のために。ですよね?」
「その通り、いい肉を期待してるからね」
馬頭には動物と対話できる能力と獣医の知識もつけたからな。コアさんが期待に満ちた目で馬頭を激励するのも当然だろう。
「育てる場所だが、草原エリアを追加しようと思う。それと後で紹介するが森林エリアの2か所で家畜を育ててくれ。足りないものがあったらできる限り用意するから遠慮なく言ってほしい」
「わかりました!」
こちらにウインクをしながら返事をしてくれた。うむ、元気があって大変宜しい。次は海産物の育成をお願いしようと人魚の方に目を向ける。
「で、海洋エリアの方は八畳間位しかないから、もっと広げていろいろ魚介を追加しようと思う。それと今の海洋エリアは塩を取るために熱帯気候になってるから、新しく温帯と寒帯の海洋エリアを追加してポータルで行き来できるようにする」
心なしか人魚がわくわくしてるように見えるんだけどなんだろう?
「だから、お前には上手く海の生態系を作って管理してもらいたい。大変だろうが任せたぞ」
「うちに任せるっちゃ! 活きのいい子達に育ててやるっちゃよ!」
あー、そうか。この人魚、人に頼られるのが好きなタイプだわ。
ふんす! と気合を入れるように両手をぎゅっと胸の前に持ってくる人魚。その時にたゆんっとその豊満な胸が揺れる。
うむ、実にいい物をお持ちである。俺が持たせたんだけどな。
「ねぇ、ご主人。聞きたい事があるんだけど」
その声に振り向くと心なしか冷めた目線を送る馬頭。彼女は人魚の方に目をやり……いや、正確には人魚の胸の辺りを羨ましそうに見ると、同じ視線をコアさんとククノチにも送る。
最後に視線を落として彼女がみたのは自身の胸、そこには起伏のない平原が広がっている。
彼女はため息をついた後、両手を胸にあてウマ耳を後ろに倒して再び俺の方に顔を向け
「どうして僕にはないの?」
感情のこもっていない声で俺に問いかけた。
えーと、確か馬が耳を後ろに倒してる時は……怒ってるんだったかな?
あ、やべぇこれ馬鹿正直に「馬といえば草原、草原と言えば平坦。そういえば”大草原の平たい胸”なんていう名言(?)があったし貧乳にしようっと」って本当の理由言ったら本気で蹴られるなこれは。膂力が強い馬頭に蹴られたら本気で死ねる。
ちらっとコアさんの方を見る……目を逸らされた。
ちらっとククノチの方を見る……目を逸らされた。
ちらっと人魚の方を見る……微笑み返された。あ、これはわかってないな。孤立無援か……なんとかそれっぽい理由をでっちあげないと俺の命が危ない!
「……理由は2つある。まずお前は武闘家タイプだから脂肪が多いと動きが遅くなるだろ? お前は確かに脂肪は少ないが、その分アスリートとしては理想的な体つきだぞ」
俺の主観が存分に入っているが最初に召喚(制作)したコアさんが女性として理想的な体系だとすれば、馬頭はアスリートとして理想的な体系だと思う。
「1つ目の理由はわかりました。では2つ目は?」
理屈はわかるが納得はしてない微妙な表情で馬頭が促す。
「2つ目は俺の故郷の日本では”貧乳はステータスだ! 希少価値だ!”という文化があってだな。つまり俺は馬頭、お前だけの希少価値を持たせたかったんだ!」
ダイニングルームに俺の叫び声が響く。
俺の記憶を読み取って元ネタを知っているであろうコアさんの視線がちょっと痛い。ククノチと人魚はそうなのかと感心したような表情を浮かべている。
そして、肝心の馬頭はというと……
「希少価値、希少価値かぁ……ふふっ」
あれ? この馬けっこうチョロい? それとも特別な何かに弱いのかな?
後ろに伏せていたウマミミが元の位置に戻っているので、機嫌が良くなっているのが丸わかりなのが救いだ。
よし、これで命の危機は去った。
「ねぇ主さん、うちが小さいんも希少価値なんかー?」
……これは、新たな危機の到来か? 少し恐れながら振り向くときょとんとした表情でこっちを見ている人魚。あ、これは単純に好奇心から聞いてきたな。
命の危機はなさそうだがここで馬鹿正直に「このまま巨乳にするとククノチとかぶるから、人魚はロリ巨乳にしました」と言ったら、せっかくごまかした馬頭に気づかれる可能性がある。
「それもあるが、お前は後衛向けの能力だからな。体格が小さい方が遠距離攻撃に被弾しにくいはずだ」
我ながらひどい言い訳である。まぁ、一応の納得はしてくれたので良しとしよう。
それより「被弾を抑えるのが目的なら胸を大きくしたのはおかしい」と言われる前にさっさと話題を変えてしまおう……コアさんは矛盾点に気が付いているようだが黙ってくれているし、ククノチは酔っぱらっていて話半分くらいにしか聞いていない。
「それより二人とも、これから一緒に生活するのに必要になる、ある”モノ”をプレゼントしたいんだが」
「プレゼントですか?」
「何をくれるっちゃね?」
興味津々といった様子で聞いてくる二人、ここでわざとらしく咳払いをして、一拍置いた後に告げる。
「君たちの……名前だ」