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4-5 歓迎会 食べ物編

「ククノチさんが作ったこのキュウリって野菜、カリッとした食感がとても美味しいです!」

「うふふ、ありがとうございますー」

「ああ、この味噌を付けて食べるとさらに美味くなるぞ」


 馬頭は鍋と一緒に出してたキュウリがすごく気に入ったらしく、さっきからハムスターのようにキュウリをかじっている。シュレッダーにかけられる紙の如くキュウリが口の中に消えていく。


「後ククノチ、お前そんなペースで飲んでたらすぐ酒が切れるぞ。もう少しゆっくり飲んだらどうだ?」

「うふふ、大丈夫ですよー。なくなったらご主人様が……」

「出さんぞ? 最初に1本だけって約束しただろ?」


 ククノチさん、そんなこの世の終わりが来たような顔でこっちを見ても出しませんよ?

 後、ボトルを抱きしめながらそんな顔しないで、どっからみてもダメなアル中にしか見えないから。


「最近甘やかしすぎてる気がするし、約束は約束だ」

「で、ではコアさん直伝のこれでどうですかー!?」


 ぐっ……! 上目遣いでネコミミをピコピコ動かしながらねだってきおった! 確かにこれは俺に効く。

 それよりコアさん、あんたいつの間にククノチにこんなの仕込んだんだ!? グッジョブ!


 いや! グッジョブじゃない! こんな簡単に毎回出してたら筋狼族分のDPが全部酒に消えてしまう!

 耐えろ、俺!


「…………今日はお前の歓迎会じゃないし、ダメなものはダメです! そろそろDPの無駄遣いはやめてダンジョンを発展させないといけないからなっ!」

「答えるまで大分間があったねご主人、そういうのに弱いんだ」


 俺とククノチのやりとりに苦笑しながら馬頭が呟く。ここで何かに気が付いたのか、しょげていたククノチが突然顔を上げて隣りにいた馬頭の両肩を掴む!


「馬頭さんもお酒が飲みたいですよね!」

「え? いや、僕は別に……」

「お酒に合うように改良中の特別なキュウリを出しますから!」

「……ご主人、僕も何かお酒がほしいな!」


 おうククノチ、それ初耳なんだけどいつの間にそんなの作ってたんかお前。それから馬頭、お前も懐柔されるの早いな、ほんとウチの連中はみんな欲望に正直だな。一体誰に似たんだか……


「へぇ、酒に合う特別なキュウリね。私も酒と一緒に食べてみたいね」


 そして、新食材に関しては耳ざといウチの狐様がしっかり会話に入ってきた。

 コアさんは今までずっと人魚にウチのダンジョンでとれる食材を教えていたようだが……


「このドクリンゴモドキっちゅうの、甘くてどえりゃあうみゃーね!」


 目を輝かせながらひたすら果物を食べるその姿は、()()()もあって非常にかわいらしい。

 それにしても君は、ほんとにどこの生まれなんだ? いや、このダンジョンで生まれたんだった。


「人魚さんもお酒が飲みたいですよね!」

「お酒? そいは甘いんか?」

「はい、あまーいお酒もありますよー、ね! ご主人様?」

「ああ……甘い酒というか、酒に甘いものを入れてリキュールにすると美味しいというか……」

「じゃあ、うちも飲みたいっちゃ!」

「うふふ、馬頭さんも人魚さんもお酒飲みたいようですし、今日はお二人の歓迎会なんですよねー?」


 ククノチが勝ち誇ったドヤ顔で言ってきた。こいつの酒に対する執念を舐めてたわ……ドヤ顔に合わせてピクピク動くネコミミがかわいいので、ここは断腸の思いで一本だけ許可しよう。

 

「わかったわかった、1本だけ追加してやるよ。但しこれが最後だからな?」

「やりましたー! じゃあキュウリを取りに行って来ますねー!」


 席を立つとスキップしそうな軽やかさでダイニングルームを出て行ってしまった。

 流れに追いつけていないらしく、2人はポカーンとした顔でククノチが行った方を見ていた。


「まぁ、ウチのダンジョンは大体こんな感じだ、どうだ? 自由すぎるだろ」

「よくも悪くも、マスターも私も自由にやってるからね。いずれ君達もそうなるよ」

「あはは……これから楽しく過ごせそうですね」

「うみゃー果物もあるし、やる気が出てくるとね」

 

 前向きになってくれているようで何より。さて、ククノチが戻ってくるまで鍋でも食べてるかな。


 コアさんに取り分けてもらったお椀を顔に近づけると、獣臭さがまったくない純粋な肉の香りが鼻を経由して脳に伝わってくる。

 そして口に入れた瞬間、汁に溶けて液体になった肉の旨味が口の中一杯に広がっていく。この味はあの屈強だった筋狼族の姿を思い出させる力強さがある。そのまま目を閉じればマッスルポーズを取る連中の姿が目に浮かぶ。

 あいつら本当に体つきだけはすごかったよなぁ。


「うん、やっぱこれ美味いなー」

「そうだね、これほどおいしいなら何匹か残して養殖してたらよかったよ」


 いや、それは無理だろ。ガチの戦闘じゃこっちがエサになっちまう。

 ちらっと二人を見てみると一杯目は完食したようだがお代わりが欲しそうには見えない。


「二人は肉より野菜や果物の方が気に入ったか?」

「肉は肉で美味しかったですけど僕は野菜の方が好きです!」

「うちは甘い方がいいっちゃ」


 ふむ、二人は肉よりも野菜や甘い物のほうが好みか。

 

「野菜も果物もこれからもっと種類を増やしていくから楽しみにしてくれよ。そのかわり馬頭には鶏や豚を、人魚には海で魚や貝とかの世話をしてもらうからな」

「調理は私に任せてくれたまえ、肉も野菜も果物も美味しく調理して見せるから!」


 コアさんが笑顔でピッとサムズアップすると、合わせて俺たちも親指を立てる。

 みんなの心が一つになった瞬間である。


「お待たせしましたー! さぁ、ご主人様お酒を出してくださいー!」


 あ、ククノチが帰ってきた。ククノチ手製のザルには取り立ての新鮮なキュウリが何本か置かれて……

 え? それキュウリなの? 思わず二度見しちゃったんだけど。


「ククノチさん、それは本当にキュウリですか?」

「はいー、キュウリですよー」

「ザルにあるのは親指くらいのサイズなんですが?」

「一口で食べられるように小さくなってもらいましたー」


 お前、植物操作をそんなことに使うなよ……まぁ、サイズはいいんだ、サイズは。問題なのは……


「瑞々しいというか水色の水玉模様なんだけど食べられるのかそれ?」

「味にこだわったらこうなっちゃいましたー」

 

 そうか、キュウリは酒に合う味になると水玉模様になるのかー。それは知らなかったなー。でも俺はそれをキュウリとは認めたくない、ほんとに食えるのかそれ?


「ささー、どうぞ味見してみてくださいー」

「ありがとうククノチ、早速頂くよ」


 躊躇する俺をよそに、味の探求者コアさんを筆頭に三人がキュウリ? を摘まむと、ためらいなく口の中に放り込んで噛みだした。


 ああ、三人はキュウリをあまり見た事がないから先入観がないのか。特に2人は今日召喚されたばっかだしなー。

 しばらく様子を見ていると、コアさんがしっぽを振って満足そうに頷き、馬頭が2つ目を手に取る。どうやらコアさんの味に対する基準をクリアしてるし、食べても問題はなさそうだ。


 ザルにある”キュウリ(?)”を手に取る。

 うーむ、このつぶつぶとか硬さとかは確かにキュウリっぽい、水玉だけど。鼻に近づけても異臭はない。

 もう食べてみないとわからないか、思い切って半分かじってみる。


 最初に口に広がったのは確かにキュウリの味だった、しかもサイズが小さくしたのは旨味を凝縮したんだと言わんばかりに濃い味がする。代わりに水分がほとんどなく、キュウリ味のピーナッツを食べているかのようだった。確かにこれは……


「酒……というか飲み物が欲しくなるな。濃い味をぐっと一気に飲みほしたくなる」

「でしょうー! ですからー!」


 ククノチの期待に満ちた目が眩しい……さっさと出してやろう。何がいいかな?

 人魚は甘い物が欲しがってたし、カクテル系がいいだろう。


 っと、そうだ! せっかく牛乳っぽいものが手に入ったんだしアレにしよう。


「ほれ、今回はカルーアを出したぞ。こいつは牛乳とまぜてカルーアミルクにすると甘くて美味いんだ」

「このダンジョンには牛がいるんですか?」


 なんらかの対抗意識があるのか、馬頭が語気を強めて聞いてきた。


「いや、牛はまだいないんだが、ウチのダンジョンではククノチの実の果汁のことを牛乳って言うんだよ」

「え? 何でですか?」

「いろいろあったんだよ、あんまり追及はしないほうがいい」

「そうですー、追及しない方が身のためですよー?」

「ひっ! わかりました! もう聞きません!」

 

 俺の位置からはククノチの顔は良く見えなかったが、青ざめた馬頭の顔を見るに相当怖い顔をしていたのだろう。良く見るとウマミミがバラバラに動いている。恐怖を感じてる時はそう動くのね。

 

「ほら、牛乳を持ってきたからさっさと飲もうじゃないか」

「甘い酒、楽しみっちゃね」


 いつの間にか牛乳(ククノチの実)を取りに行って帰ってきたコアさんと人魚の声が場の空気を和ませてくれた。まぁ、実は巻き込まれたくなくて逃げてた事は不問にしてやろう。

 

 コアさんがテーブルにあったグラスを手早く洗ってくれたので、カルーアと牛乳をほどよくそそぐ。


「ほれ、適当にスプーンでまぜてから飲んでみてくれ」

 

 ウチにはまず味見をさせないとキレる狐と酒に関しては妥協しない猫がいるからな、必然的に食べ物飲み物はレディーファーストを尊守しないと、どこで地雷を踏むかわかったもんじゃない。

 ケモミミ娘達はまず一口飲んで味を確かめた後、甘さが気に入ったのか残りを一気に飲んでしまった。


「うん、甘くて美味しいけど牛乳のコクのせいかあんまり酒を飲んでる感じはしないね」

「そうですねー、なかなかですけどちょっと物足りないかもですねー」

「この甘くて少し苦いのがカルーアなんですね」

「甘くて、飲みやすくてうまかとねー」


 それぞれ感想を言い合うケモミミ娘達、なんかハブられてる気もするが無理に会話に入る必要はないだろう。

 キュウリ(?)を一口齧る。うん、見た目はアレだがやっぱり美味いな、水玉模様でも美味くて毒がないならもうこれがキュウリでもいいような気がしてきたぞ。でもやっぱりキュウリとは認めたくない、何か別の名前を付けた方がいいのだろうか例えば……ミズタマウリとか?


「ねぇ、主さん」

「んぉ!? どうした?」


 水玉キュウリの名前を考えてたところで唐突に呼びかけられたのでちょっとびっくりした。一体何の用だろう?

 両手を胸の前でぎゅっとしてるのがカワイイ。


「これから甘い果物とか育てるっちゅー話やけど、このカルーアってのも作ってほしいっちゃ」

「これ気に入ったのか。それじゃ丁度いいし今あるDP使ってこれから育てる野菜や動物の候補を決めようかね」


 二人とも打ち解けてくれたようだし、この話題は雑談交じりにやったほうがいろいろアイデアがでそうだし、いい頃合いかな?


「ふふふー、カルーアを多めに入れるとなかなかいい感じですー」


 ……若干一名ほど酒が回りすぎてるのが不安だ。

 

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