4-4 新人歓迎
ククノチの時と同じように光の粒子が収まると、ウマミミの女性が立っており、その横にはエラミミを付けた下半身が魚の女性が床に這いつくばっていた。
ああ、そっか。人魚はそっちが本体だからそうなるのか。まぁ、人化能力はつけたし問題はないだろ。
「これが新しく仲間になる子たちか、またマスターが好きそうな感じだね」
「なんとなく雰囲気が似てますねー」
「こっちに来て大分経ったからなぁ、衣装にしろ造形にしろ細かいところが思い出せなくなってきてるんだよ」
デザイン関連は専門じゃないからなー、そろそろ参考にできる写真集やイラスト集とかないと似たり寄ったりになりそう。キャラ被りは由々しき問題なので機をみて召喚しよう。
そんな事を言っている内に召喚(製造?)が終わったようで2人がゆっくりと目を開ける。
「気が付いたか? 歓迎するぞ、盛大にな!」
「美味い鍋パーティーの準備はできてるからね!」
「お酒もありますし楽しんでくださいねー」
拍手をしながら意識がはっきりしてきた2人を温かく迎える。結局ククノチに酒を出すことを強請られて押し切られてしまった。まぁ、俺も久方ぶりに飲みたかったし、あの胸の誘惑に勝てる男は少ないだろう。
「え、はい! こちらこそよろしくお願いします!」
「これからお世話になるけん、どないよろしゅうお願いしますー」
馬頭のほうは実にハキハキした声できっちり90度のお辞儀を返してきた、元気で大変宜しい。
これはまぁいいとして、人魚の方は聞き違いじゃなかったら何かいろんな方言がまざってなかったか?
いや、それよりもまずは人化してもらわないと、床は掃除してあるが見下してるようでちょっと抵抗がある。
「ああ、よろしく頼むな。それよりまずは人化してくれないかな? 人化能力つけたからできるだろ?」
「はい、ちょいと待ってけれー」
人魚が少し下半身に力を入れるようにすると下半身が光りだした。そのまま尾びれから2つに割れて徐々に人の足になっていく。そして立ち上がり、光が収まった時にはカスタマイズで作った衣装に身を包んだ人間形態になっていた。
へーえ、こうやって人間形態になるのかー。
「これでよかと?」
「うん、姿はそれで問題ない。でもなんで方言なんだ?」
「方言? それは何ね? うちはこれで普通っちゃ」
本当にこれが普通なんですよ? っという感じで首をかしげて答える姿がかわいい。
いやいや、「っちゃ」って言ってる時点で方言でしょこれは。確か北九州弁だったかな?
「方言ってのは……えーっと、日本のある地域限定で通じる言葉の事かな? お前の場合なんかいろいろな地方の方言がまざってるぞ」
「そげんおかしかと?」
「少なくとも博多弁と北九州弁がまざってるかな、俺もそこまで詳しいわけじゃないけど」
これは……カスタマイズしてるときに人魚は方言でしゃべってほしいなーって思ってたのが影響してんのかな。でも、思い当たることはこれしかないよなぁ。
まぁでも、「っちゃ」とか面と向かっては初めて聞いたけどこれはこれでいいものだ!
「あの……」
「ん? ああ、すまんちょっと考えこんでしま……」
目をそらして考えていたが、呼ばれて顔を向けると涙目の人魚が見えた。やべぇ、不安にさせちまったか!?
「こげな……こげな話し方するうちは失敗作と?」
「まったく、マスターは女性を泣かせるのが好きなんだから」
ちょっとコアさん! 私はいつも被害者なんですっていう顔と仕草で言ってるけど、あんたはイズマソク食べた時くらいしか泣いてないよね!?
「流石女性が触手に襲われるのを見るのが好きなご主人様ですー」
ククノチも哀れむような視線で俺を見るな! お前はノリノリで襲ってた側だろうが!
「うわぁ……ひどいご主人だね」
「ちょっと待って、そんな冷めた目をしないでお願いだから! 誤解だから!」
ドン引きした馬頭の視線が痛い! そんな養豚場の豚を見るような目で見ないで、それは俺に良く効く。
いや、それよりも人魚を早く安心させないと!
「大丈夫! ちょっと気になっただけだから! それに俺は方言で話す娘は大好きだから! 博多弁も北九州弁も名古屋弁も津軽弁も讃岐弁も日本中のありとあらゆる方言で話す娘が大好きだ!」
「……主さん、そいは本当っちゃ?」
「本当本当。方言かわいいよ、かわいいは正義。それは宇宙の真理だから!」
必死の説得にようやく人魚の顔に笑顔が戻ってくる。そのおかげかなんとなく張りつめていた空気も柔らかくなっているように感じてきたところで、2回手を叩く音が聞こえた。聞こえた位置からしてコアさんかな?
「さぁさぁ、そろそろ鍋がいい感じに煮えてきたから一緒に食べようじゃないか」
「そうですー。今日はご主人様にお酒も出してもらえましたし、早く頂きましょー」
さっきの悲壮な顔はどこへやら、満面の笑みで新人を席に促す2人。
「お前ら、新しいモンスター出すたびに俺をいじるのやめてくれない?」
「偉ぶらないし滅多に怒らないマスターの人となりを知ってもらうには丁度いいと思うけどね」
「ああ……まぁもういいや、始めよう。2人共、後で自己紹介とか仕事の説明とかするがまずは鍋を食ってみてくれ。この鍋は美味いからな」
コアさんが鍋から2人の分をよそうが、箸の使い方がわからないのか2人共まったく動かない。
「ほれ、二人とも箸はこう持ってな、こう掬って食べるんだ」
うむ、見様見真似ながらも食べ始めてくれた。ようやく歓迎会の始まりだ!