4-2 長いわりに、なかなか結論がでない討議
ざわ…… ざわ……
コロシアムのような円形の集会場に、多くの人々が自席に座って雑談を交わしている。
例外は中央に陣取る、古代ローマの正装用トーガを身にまとい引き締まった体に髪を伸ばした一人の男。
「皆の物、静粛に!」
中央の男が声を張り上げると徐々に声が静まり、静寂が場を支配する。
「ではこれより元老院議会の開催を宣言する。今回は2人新たなハーレ……もとい、仲間の種族・容姿・能力を決める。まずは畜産を担当する仲間の種族からだ、誰か意見のあるものは挙手せよ」
ざわ…… ざわ……
集会場がざわつき、席に座っていた男たちが周りの者と議論を交わしているとやがて――
「議長!」
一人の男が挙手をしたので、中央の男が発言を許可する。
「ここは馬頭などどうでしょう?」
ざわ…… ざわ……
「馬頭って頭は馬で体は人の形をした地獄の獄卒でしたっけ?」
「まぁ、確かにあの屈強そうな体は畜産とかにむいてそうですけど」
議員達の印象は悪くはない、だが……
「意義あり! 私は牛頭の方がいいと思います!」
ここで別の一人が立ち上がり対抗馬……むしろ牛? を出してきた。
ざわ…… ざわ……
「いや、別に馬でも牛でもどっちでもいいんじゃ?」
「ああ、これはまた終わらない議論が続くのか。いや、前回は殴り合いになりましたな」
似たような種族が候補にあがると終わらない議論になるのは、コアさんの時に皆が味わっている。
中にはその時の事を思い出し、気分が落ち込む議員も少なくない。
「大丈夫ですよ皆さん、今回は絶対的なアドバンテージがありますから」
馬頭を推した議員の自信にあふれる宣言とも挑発ともとれる発言は、暗くなっていた集会場の空気を明るく一変させていく。
しかし、もちろんこの発言は他の種族を推した議員にとっては許せるセリフではない。
しばらく会場は怒号に包まれるが、議長が手で制すと徐々に場が静寂につつまれていく……
「では聞かせてもらおうか、その絶対的なアドバンテージとやらを」
「はい、馬頭は頭が馬の妖怪です。それを私たち好みのケモミミ娘にカスタマイズすると必然ウマミミになるでしょう」
「ウマミミ……そうかっ!」
「何人かの方はわかったようですね。そうです、ウマミミになるという事は私たちがここに来る前に見ていたアニメ”UMA娘”のキャラクターを作って実際にこの目で見ることができるのです!」
彼の主張に万雷の拍手が巻き起こる! 牛頭を推していた議員も立ち上がって拍手をしているので、まさに満場一致で決まった瞬間であった。
なお、”UMA娘”とは実在の競走馬を擬人化したもので、登場人物の大半がウマミミのためケモミミスト狙い撃ちのアニメである。
画面の中だけに存在していたキャラクターを実際に見れる。これに反対できる人はほぼいないだろう!
「種族は馬頭で決まりだ、次は容姿を決定する必要があるが……」
「それはやはり主人公であるスペシャルホリデーしかないでしょう」
「意義あり! 私はサイレンススズキのぶっちぎって走る姿が見たいので彼女にしましょう!」
「おまえらシルバーシップの魅力がわかってない! 彼女の自由さが馬頭にふさわしいでしょう!」
「ここはケガを乗り越えたホッカイテイオーに決まってるだろ!」
――あの子だこの子だと言い争う議員たち、どうやら推しメン……いや推し馬は全員違うらしい。
もう多数決にすらならない、また殴り合いでもしない限り決まらないだろう。
早くも一部の議員は先を見越して、念入りにウォーミングアップを始めているものすらいる。
「あの、皆さんちょっといいですか?」
殴り合い寸前にまでヒートアップした場に水を差したのは、一人の議員だった。
「アニメのキャラクターを作るのは大変結構ですが、私たちは性格までは設定できません。例え見た目が同じでも性格は違うのかも知れないんですよ?」
「……!!」
会場に動揺が走る。仮に自分の推し馬を召喚できても、性格が真逆だったらイメージのギャップに耐えられず、発狂は免れないだろう。
「……ここは、やはりオリジナルの馬頭で行きましょうか」
「異議なし」
「では、容姿を決めようと思いますが……前々回のコアさんの事もあります。意見が割れて論戦が始まると絶対に終わりません。そこで今回は対立意見が出た場合、1分間のアピールタイムをした後多数決で決定とします」
終わらない論戦は誰しも望むところでない、そう皆が妥協したところで粛々と会議は進む――
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「……では、これにて最終決定とします」
ルールを決めた事もあり、多少時間はかかったが無事に決定まで進められた。
集会場中央には3Dホログラムで投影されたように一人のケモミミ娘が立っている。
明るい栗毛の髪をポニーテールにまとめ、やや茶色く大きい瞳。長距離走者のように引き締まった体に、これまた動きやすいように体にフィットした戦闘服。
そして忘れちゃいけない頭からぴょこんと生えたウマミミと、お尻から伸びている馬のしっぽ。
カスタマイズ前に表示されていた、地獄絵図に乗ってそうな馬頭の印象は欠片もなく、それはまごうことなき美女の姿だった。
議員全員に魅せるようにホログラムの馬頭が一回りすると、議員たちは皆納得したように頷く。
どうやら自身の100点満点ではないが、妥協できる範囲内に収まってはいるようだ。
「皆の物、へばっている場合ではないぞ、次に水産を担当してもらう仲間の種族と容姿を決めねばならん」
そう、今回はここでようやく半分。自分の推し馬をアピールする際に体力を使い果たし席に突っ伏している者もいたが、なんとか気合を入れて顔を起こし次の議題に備えるのだった。