1-3 栄光への第一歩は食料採集から
「食料を集める手段、それは前マスターが残した森林エリアでの木の実採集さ。マスターなら管理ウィンドウからダンジョンが丸見えだから、どこに木の実があるか簡単にわかるよ」
あ、スルーされた。否定されたわけじゃないので呼び方はコアさんで決定だ。
それはさておき、言われた通りに管理ウィンドウを開いて森林エリアの情報を出してみる。
見たいところを意識するだけで、森林エリアのどんなところも脳裏に映し出されて非常に便利だ。
ざっと見渡してみれば、森林エリアには横断するように川がある。後は――
「ん……? これは……何か骨のようなものがあるな」
ある一区画をズームすると、粗雑な道具にまざって、何かの骨が転がっていた。
「それは前マスターのゴブリンの骨だね」
「なんで前マスターがこんなところで死んだのか理由を聞きたいんだが?」
前マスターの死因はすげぇ気になる。
だって原因によっては俺に降りかかってくる可能性があるわけで……
「前マスターは森林エリアを作ったあと、雌ゴブリンをよび出してハーレム生活を謳歌してたんだけどね。ある日、突然魔獣がダンジョン外から襲撃に来てね。当然罠なんか作ってなかったからあっさり喰われたよ」
外から外敵が来ることもあるのか、結構厳しい世界だな。
そんなことを考えながら木の周りや蔓が伸びている部分をチェックしていくと、確かに豊富に木の実がなっていたのだが……
「なぁ、木の実しかないのはわかったが、毒とか大丈夫なのか?」
一応能力強化に毒耐性や鑑定とかあるみたいだが、汎用的な能力に要求される必要DPは当然手が届くレベルではない。
「それに関しては私にいい考えがある」
「俺の記憶から引っ張ってきやがったな。そのセリフはむしろ不安になるからやめてくれ」
「冗談はさておいて方法だけどね。マスターが木の実を運んで来たら、DPに変換して知識の強化をすればいいんだ。差しあたってはその木の実の名前と食用可能かどうかがわかるだけにすればDPもさほどかからないさ」
なるほどー、知識の強化というのはそういう事もできるのか。
「ただし『食用可能』とは、食べたことで腹痛や頭痛等身体的マイナスの影響がでないものならOKとする。つまり味に関しては保証できない」
ローグライクゲームでやっていた漢識別を自分で体験する目にあうとは、これは絶対取ってきたやつにクソまずいのがまざるフラグやん。
死なないだけマシと考えるしかないか……
「とりあえずここで心配していても始まらないか、それじゃハーレムのためにそろそろ行ってくるよ」
「最初の一歩だね、お土産たくさん期待してるよ」
コアに向かって手を振り、ポータルに向かって歩いて……ようやく気が付いた。
「森を歩かないといけないのに……靴がない!」
今の俺の格好は、召喚された時に着ていたものと同じだった。なので靴は一緒に転移してくれなかったようだ。
召喚ウィンドウを開いて靴の項目を見る、……ダメだ、登山靴どころか革靴も今のDPでは出せない。
くそっ、今のDPでも出せるものはないか? ギリギリ出せそうなDP量で検索するとほとんど木の板といっていい低品質の下駄が引っかかった。
ないよりはマシだと思いつつ、召喚の承認をすると俺の前方に光の粒子がちょうど下駄くらいの大きさに集まってくる。
そして徐々に光が収まっていくとそこには初めからあったかのように下駄が存在をアピールしていた。
さわってみて本物の下駄だと確信する。すげえな異世界!
だがもう感動してる時間すら俺にはない。さっそく下駄を履いてポータルに向かい手前で立ち止まる。
「じゃあ、改めて行ってくる」
「はい、行っておいで」
ちらりとコアさんを一瞥すると優しく光っていた。
軽く笑みを返した後、意を決してポータルに飛び込む。
白い壁しか見えなかった視界はポータルを超えた瞬間に森へと進化していた。
「うわ、本当に森の中だな」
周りを見渡しても木と草と出てきたポータルしか見えない。
「驚いたかい? これがダンジョンの力だよ」
コアさんの声が脳裏に聞こえる。というかここでも会話できるんかい。
「ダンジョン内にいる限りマスターとはどこでも会話できるんだよ。それより早く木の実を集めないといけないんじゃないかな?」
おっとそうそう、俺には驚く時間もなかったんだった。
幸い木の実を取る生物がいないためか、いたるところに木の実がなっているようだった。
10mほど草を踏みならして進むと、俺の背でも届くところにリンゴくらいの大きさの実をつけた木にたどり着いた。
とりあえず触っても大丈夫そうな見た目だったので、両手で抱えられるくらいの数をもいだ後、いったん迷宮の胃袋に持って帰ることにした。
「お早いお帰りだね」
「残りDPがヤバくて心配だったから、早めに補給してやろうと思って帰ってきたんだよ。というか見てただろ」
コアさんの軽口に軽口で返して迷宮の胃袋に入る。
「で、取ってきたこれはそのまま中に置けばいいんだよな」
肯定の意思が返ってきたので無造作に置いていく。
置き終わると木の実が1つ床に沈んでいった。
「うん、DP変換作業が再開されたから、詳しくは管理画面を見てくれたまえ」
管理画面を覗くと減っていたDPがわずかずつだが徐々に増えている。
よかった、木の実集めをしている最中にDPがなくなって死ぬというマヌケな事態にはならなそうだ。
さらに詳細をみて行くとそこには予想獲得DP量、および完了予定時間等が書いてある。
一度に変換されるんじゃなくて徐々に消化されるように増えているので本当に胃袋みたいなもんなんだな……
安心したら腹が減っていたことに気が付く、そういえばここに来てからまだ何も食べてなかった。
もってきた分は全て迷宮に取られてしまったのでまた取りにいかないと……
「それじゃまた行ってくる」
「知識の強化に必要なDPがたまるまでは時間がかかるから、その間は果実集めにはげむといいよ」
そうだな、ここで頑張れば後で楽ができる。知識の強化ができるようになるまでは頑張りますかっ!