3-7 トラップキッチン
「さてと、次の製作物はこれだ」
空いてるスペースを利用して、次のトラップ……もとい調理器具を作ろう。
次に利用するのは”せりだす壁”だ。
本来は崖の壁に設置して、侵入者が通ったら崖に叩き落とす時とかに使うのが一般的に考えられる使い方だろう。
まずは、それを直径7センチほどの円筒にして、出っ張った部分の壁に配置する。
次に同じ直径の全長20センチほどの”鉄製の通路”を迫り出す壁の手前に、ピッタリハマるように配置する。
そして、迫り出す壁がある側の通路の上部に穴をあけて同じような縦穴を差し込み、出口側にハチの巣状に穴をあけた壁を付ければ――
「コアさん、迷宮の胃袋から適当なダンゴウサギの肉を持ってきてくれないか?」
「流石にここまでやってくれれば私にもわかったよ、だからもうすでに持ってきてある。これはアレだろう?」
「そう、アレだ」
コアさんは縦穴に肉を入れた後、横に設置したレバーを引く。
壁が迫り出して、ダンゴウサギの肉を反対側のハチの巣状の壁に押し付ける。
――やがて、穴からミンチにされた肉が出てきた。
「これが全自動ミンサートラップだな。これで魚のエサにしていたダンゴウサギのひき肉も簡単に作れるようになったな」
「肉を叩いてひき肉にするのもすごく大変だったよ……」
コアさんが思い出すかのように、ため息とともに言葉をしぼりだす。
「ひき肉ができればハンバーグとかつみれとか料理の幅もひろがるぞ」
「はんばーぐ?」
「ハンバーグ! ずっと食べたいと思ってたんだ! 今日の夕食は決まりだね!」
ハンバーグという単語に反応して、コアさんがしっぽをぶんぶん振りながら反応する。
そして、ククノチを完全に置いてけぼりにしてしまった。
「ハンバーグってのは、ひき肉を捏ねて形を整えて焼いた料理の一つだ。俺の元の世界で特に人気のあるメニューの一つだな。おっし、それじゃ次に作るのはハンバーグ作るのに必要なこれにするか」
直径7センチくらいのバーナートラップを、せりあがった床に2つ設置する。
主に石像の口の中などに仕込んでおいて、通りがかった侵入者を火炎放射でコンガリ焼き上げる時に使う。
バーナートラップの4隅に盛り上げた鉄製の爪を設置する。
いい機会なのでフライパンをDPを使って出し、爪の上にのせて水平になっていることを確認する。
最後に起動方式をつまみ方式にして、火力調整ができるようにすれば――
「ほい、コンロもこれで完成っと。これで今まで料理で火を起こすために使ってた薪もいらなくなったな」
「切られる木が減るのはいいことですー」
「これでわざわざ川辺に行く必要もなくなったね」
「洗い物とかで水はいるから川辺には行く必要が……いや、待てよ」
せりあがった床の一部を四角形にくぼめて、床の一部分に穴を空ける。
そして天井に、小さい激流の罠を設置して鉄の通路をくっつける。
本来激流の罠は大量の水を発生させて、侵入者を押し流すダンジョン物では定番のワナだ。
だが、こいつは威力を調整して、水道の蛇口から出てくる程度に抑える。
後は適当な所にボタン式のスイッチを付け、床に開けた穴の先に迷宮の胃袋を取り付ければ――
「これでシンクもできたな、あけた穴に水ごと生ごみを捨てればそのまま迷宮の胃袋に落ちるからDPに変換されるぞ」
「マスターの発想力には驚かされるよ」
「むしろ俺は罠の使いやすさに感動してるくらいなんだが、なんたって回路とか考える必要がないんだぞコレ」
そう、床・壁・天井のいずれかに接していないといけないという制約があるが、逆に言えばそれさえ守れば壁の中がどうなっているかを一切無視して設置できてしまうのだ。
極論すると防衛エリアに設置した釣り天井を、コアルームにつけたレバーで動作させることも可能なのである。
便利すぎだろこれ。
「それじゃ最後にオーブンでも作るか」
盛り上げた床の壁に小さい部屋を作り、入り口を大きくする。
熱に強い扉を付けて中に熱波を浴びせる罠を仕込み、扉の横に起動スイッチを付ければ完成だ。
「これでパンやローストビーフとかも作れるようになったから、大分料理の幅が広がったな」
「ローストビーフ! 食べたい!」
「いや、例に出したのは悪かったけど材料がないだろ……」
「そこはDPで出してくれないかなぁ?」
コアさんがしっぽを振りながらギュッと抱き着いてきた。
「ほらほら、しっぽも好き放題モフっていいから」
「ぐっ! 今回はダメだぞっ」
コアさんの強烈な誘惑攻撃を鋼の精神で耐える。
「くっ!マスターも耐性がついてきたね、ククノチ! 君も手伝ってくれ!」
「えっ!? えーっ!?」
「君が持ってるその2つの武器をマスターに押し付ければいいんだよ!」
「ちょっと何言ってんのコアさん!? ククノチ! ダメだぞ! それは絶対にダメだぞ!」
いいぞコアさんよく言った! さぁククノチも俺に押し付けてくるんだ!
早うカマーン!
「さぁ早く! 君のそれならマスターが陥落しないはずがないんだ!」
「あのーコアさん。マスターがダメっていってますし、やったらいけないのではー?」
「違う、そうじゃない! そこは押し付けるのがお約束なんだよククノチィーー!!」
「ええーっ!?」
あ、本音が出ちまった。
コアさんはそれに気が付いたのか、俺からぱっと離れる。
「作戦変更だよマスター、押し付けてほしかったらローストビーフを出すんだ」
「くっ……蛇め!」
「いや、私は狐だよ」
「言ってみたかっただけだ、それよりローストビーフはできるなら出してやりたいが、今回は出せない理由がある」
「……一体何なんだい?」
「おいおいコアさんや、お前は気づけよ。このキッチン作ったからもうDPがないんだよ」
「えっ!? あ! 本当だ!」
「そこは流石にしっかりしてくれよダンジョンコア」
しかし、未練はあるがククノチに押し付けられなくてよかった。
もしやられてたら誘惑に負けて”わが生涯に一片の悔いなし”と叫んで、牛肉を召喚していたかもしれない。
「だから今日はウサギ肉かロバ肉のハンバーグで我慢してくれ」
「そういえばそうだった。もちろんハンバーグで十分だよ!」
尻尾を振りながらピッとサムズアップを返すコアさん。かわいい。
「後はテーブルとイスがあれば、ダイニングルームとしても完成なんだがDPがなぁ……あ、そうだククノチ」
「ひゃい!?」
まださっきのショックが残っているのか、呼ばれてビクッと身を震わせるククノチ。
「うん、さっきの事は忘れてくれ。お前の能力でテーブルとかイスとか作れないかな? なんかこう、葉っぱのイス見たいにファンタジーなやつとか、もしくは木遁忍術とかでパパッ作れたりしない?」
「木遁忍術というのはよくわからないですが、テーブルとイスですかー? そうですねー」
考え込むククノチ。
日常生活で基本的に必要な物の名前はもう大体教えてあるから、これで伝わるはず。
ククノチが両手を肩まで上げるとゆったりした服の袖から蔓が伸びて編み込まれていく。
それは徐々に形を取っていき、数分後には立派なイスになっていた。
「これでどうですかー?」
「すごいな、試しに座ってみてもいいか?」
「どうぞー」
ちょっとチクチクするが、それは余ってるゴブリンのマントをかけておけば問題にならない。
体重をかけてみても、問題なく受け止めてくれている。
「パーフェクトだククノチ、後イスを2つとテーブルもできるか?」
「ちょっと無理ですー」
「魔力切れか?」
「それもありますが、体力もですー」
あー、まさに身を削って作ったようなもんだからか、確かに息がちょっと切れてるな。
「それじゃ残りはククノチのペースで作ってくれればいいや、丁度時間もいいから早速ここで晩飯作ろうか。コアさんは手伝ってくれ、ククノチは座って休んでていいぞ」
「わかったよマスター、いい機会だからレシピを教えてもらうよ」
「私にも教えてくださいー」
「今回肉100%だからあんまり教える事はないけどな。ま、せっかくだし一緒に作るか」
食材はまだまだ少ないが、調理環境はほぼ元の世界と同一……いや、利便性を考えると追い越したな。
ちょっと使いすぎてDPがほぼなくなってしまったが、キッチンを作ってよかった!