1-2 ぶらさげられた”エサ”
「だからさっき君がケモミミ美女を召喚しようとして、死ぬといったのはこういうことだよ」
「いやいやいや! そんなこと言ってる場合じゃねーだろ! 今すぐ外に出て食い物持ってくればいいんだな!?」
「落ち着きたまえ、食べ物を集める手段がないわけじゃない。それに後二日で尽きるといったけど、逆に言えば今日中に調達できれば問題ないよ」
「だからといって!」
「このまま君に方法を教えて行ってもらってもいいんだけどね、それじゃ君は納得はしないだろ? だから夢と希望のある話をしようじゃないか」
この状況で夢と希望のある話だと!?
いや……どっちみちコイツの言った事が本当かどうかは今の俺には判断できない。
なら、いい情報だけでもとりあえず聞いておいた方がいいか。
「聞かせてくれ」
人間の顔で例えるなら「にやり」という表現がぴったり合うような感じで、ダンジョンコアがゆっくり光る。
「DPの使い方についてさ」
「ケモミミ美女を召喚する方法についてとかか?」
「それも1つだね、DPには大きく分けて3つの使い方がある。召喚、強化、拡張の3種だ」
確かにケモミミ美女を召喚するのは夢と希望とロマンがある。
でも強化や拡張がどう夢のある話になるのかはいまいちピンとこなかった。
「じゃあ丁度いいし召喚から説明しようか。ちょっと目を閉じてくれるかな」
言われた通り目を閉じると、徐々に何かが見えてきた。
んー? なんかどこかで見た事があるような――
――ああ、これはパソコンのデスクトップ画面にそっくりだ。
「見えたかな? それは君に合わせた調整をされているはずだ。慣れてくれば目を開けたままでもできるようになる」
普段見慣れているのもあってわかりやすい、画面には召喚アイコンを含めていろいろなアイコンが並んでいる。
あれ? でもこれマウスもないのにどうやって召喚アイコンをクリックするんだろう?
――と思ったら勝手にクリックされたかのように、召喚のウィンドウが勝手に開いた。
そのまま召喚できるモンスター一覧をざっと眺めてみる。
スライムやビッグスパイダーといった如何にもファンタジーなモンスターから、輪入道や鴉天狗といった日本の妖怪、そしてゴブリンやオークといった人型モンスター。
そしてとても強そうなドラゴンに――
「召喚ウィンドウにリストアップされているモンスター達は、君の経験から大体の容姿と能力を与えられているんだ」
成程、確かに言われればどいつもこいつも見た事がある。
例えばゴブリンは日本人に見せれば十人中十人が『こいつは間違いなくゴブリンだ!』と言いそうな緑色の肌と牙を生やした姿をしている。
「そしてここからが君にとって重要な部分だろうけど、マスターの君は召喚の際に容姿や能力を変更することができるんだ」
何ですと!? という事は……という事はですよ!?
試しに鴉天狗のページを開いてみる。
今表示されているサンプル画像は、大きなくちばしが目に付く人に近い鴉の顔。
そして背中に大きな黒い翼を生やした、山伏姿の壮年男性だ。
そこでカスタマイズ機能を使って顔を人型にしてから性別反転させてみる。さらにちょちょいっと髪型や顔の輪郭、服装をいじってやって――
数分後、画面に表示されている姿は、まごうことなき有名ゲームの鴉天狗少女になってしまった!
ねぇ? 召喚できるの?
DPさえあれば本当にこの子召喚できるの!?
画面を挟まずに見ることができるの!?
「できるよ。ダンジョンコアに二言はない。どうだい? お気に召してもらったかな?」
無言でダンジョンコアにサムズアップを返す。
DPさえ頑張って集めれば、今まで画面の向こうにしか居なかったあんな子やこんな子と一緒にダンジョン生活ができるようになる。
なんというか最高じゃないか!
「そう、この機能を使えば君が密かに願ってた美女ラミアに巻き付かれたいという願望もかなえられるよ」
ちょっと! 俺の性癖をばらさないでくれますか!? そりゃあモン娘も嫌いじゃない、というか好きな部類だけど。
「最後にダンジョンモンスターはDPを消費して生きるから、考えなしに召喚するのはオススメしない。召喚に関しては大体こんなところだ、質問がなければ次は強化の説明をしようと思うがどうかな?」
「特に質問はないから強化の説明を頼む」
そう言って召喚のウィンドウを閉じ、強化のウィンドウを開く。
開いて最初に目についたのは俺の名前しかないリストだったので、試しに開いてみる。
「おー、かなり詳しく書いてあるな」
おもわず感想を漏らす。
身長や体重は健康診断で出た数字とほとんど変わっていない。
お! 魔力の数値が0じゃない!
――という事は俺も魔法が使えるようになるのか? 夢が広がるな!
更にページを読み進めていくと状態異常の欄に「痛風・胃潰瘍」と書いてあった。それってデバフなん?
胃潰瘍を相手に与える魔法とかあるのん?
「まぁ、強化は大体マスターの想像通りDPを使って身体能力や新能力を与えたりできる。だからDPさえあれば君はまるで鋼の様な肉体でも、本当に鋼の肉体でも手に入れられるってわけさ」
仕事漬けの運動不足で、体力が標準の人並み以下の俺にお手軽強化はありがたいね。
「後はDPさえ支払えば”知る”事もできる。言わば知識の強化だ。それこそ日常的な事から超常現象までね」
え? それってすごくない? なんでもできるようになるよね?
「そう、DPで能力と交換すれば、マスターが昔こっそり練習してた”百步氣功拳”とか”飛翔昇天破”とか再現できるようになるよ」
「事あるごとに俺の黒歴史を暴露するのはどうか勘弁してください」
「ああ、それは確か”猛獣落地勢”とかいうやつだね?」
「いいえ、これはただの土下座です。だから勘弁してください」
「まぁ、あまりマスターを追い詰めるのもよくないね。わかったよ」
許された。気を取り直して追加できる能力や知識の一覧を眺める。
ファンタジーの定番である魔法、各種薬草の取り扱い方、とんでもない量のDPを要求されているが「時を止める」等の中二病心をくすぐられる能力。
後は俺の記憶が関係してるのか、プログラムとか日本国憲法の項目とかまである。
使い道があるかどうかは別とするが、念じると相手を胃潰瘍にする能力も一覧にあった。
「強化の説明はそんなところだよ、それじゃ最後に拡張の説明に入らせてもらおう」
「ああ、頼むよ」
拡張ウィンドウを開いて最初に出てきたのは、このダンジョンの全体図だった。
ということはつまり……
「拡張というのはダンジョンの拡張の事だよ。部屋やエリアや設備の追加ができる」
へぇ、どれどれ……ん?
「部屋の項目に1Kトイレ・風呂付とかがあるんだが?」
「生活に必要な設備付きで大変お得になってるよ」
まぁ、今のDPじゃ全然足りないわけですが。
というか水道とかダンジョンに設置できるのかこれ……
「蛇口を捻ればDPから水に変換されてでてくるよ、逆に使った水はDPに分解される、効率は悪いからなくなるものと思っておいたほうがいい。ガスも電気も使った分は全部DP払いさ、家賃はないけど維持用のDPはかかるからね」
一気に現実くさくなったな。
「とまぁ、部屋やエリアを作るとそれに合わせた設備とかも一緒についてくる。それとは別にいろいろ設備をつけることができる。たとえば罠とかね」
――罠ね、ダンジョンの定番だな。
設備の項目から「罠」のリストをチェックする。
矢、落とし穴、トラバサミ、釣り天井に――
「おい、この仮設トイレ(洋式)ってのは罠なのか?」
「実に恐ろしい罠だよ、安全地帯だと思って用を足そうと便器に座った瞬間、激流が全てを便器に流して対象を溺死させるのさ」
それは……恐ろしいというか、そんなんで死んだら死んでも死にきれないな。
「ところで、拡張に関しては夢のある話はないのか?」
「おや? 気がついてないのかい? 思ってたよりにぶいね」
ダンジョンコアが呆れたように光が暗くなる。
「なんだよ? 何かあるならもったいぶらずに言ってくれよ」
「……白い砂浜の島つきの海洋エリアで、ケモミミ美女とバカンス」
な、なんだとぉぉぉぉ!!
――っ!! そうか!! そういう事か!?
その時俺に電流が走った! ダンジョンを自由に拡張できるってことはつまり!
「雪山エリアでケモミミ美女と雪遊びをしたり!」
「なんなら温泉を併設して混浴でもしたりすればいい」
ふぉぉぉ! 素晴らしすぎる! 異世界バンザイ!!
「さて、マスターが十分にやる気になってくれたところで、食べ物を集める方法について話そうか」
「ああ、早速頼むよコアさん!」
勝手に愛称をつけた俺は、若干困惑気味に光るコアさんが話し出すのを待つのであった。
ダンジョンマスターとしての機能が解禁されました!
→召喚
→強化
→ダンジョン拡張
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説明なっげーよ!読み飛ばしたよ! という方へ
DP使えば大体の事はできるし、作れるようになると解釈して頂ければOKです
後、おもしろそう! と思った方は是非ブクマして読んでね!