3-5 神木
森林エリアは、肉を含めて現在全食料の生産を賄っている最重要エリアである。
だが、俺とコアさんで木の実を乱獲……とまでは言わないが、DP確保のために相当量を日頃取っているので、木の実がない箇所も目立つようになってきた。
そこでドライアドに森林の資源が枯渇しないように調整をしてほしいのだが、果たしてやってくれるだろうか?
「ここが森林エリアだ、食料は全てここでまかってるんだ」
「農地エリアよりかなり広いですねー、それに雑多ですー」
キョロキョロ見渡して感想をもらすドライアド。
「農地エリアと合わせて管理はできるかな?」
「そうですねー、私の樹を植えさせてもらえれば大丈夫だと思いますー」
「ああそうか、ドライアドって本来自分の樹に宿る精霊だったか」
「ですー。この辺りは木が多いのでできればもっと広い所に植えたいですー」
広い所、と聞いて思い当たるのは、前マスターの集落跡である。
あそこなら森林エリアの中央でもあるし、これ以上の立地はないな。
「そうだな、この先に広場があるから着いてきてくれ」
広場までは少し距離があるので、適当に雑談しながら進むことにする。
「君から見て、率直に言ってこの森林はどう見える?」
「みんな伸び伸びとしていて、いい所だと思いますー」
「伸び伸びしすぎててちょっと歩きにくいんだけどね。ところで美味しい木の実の見分け方とかあるのかな?」
「えぇー、美味しいというものがよくわかりませんー」
雑談してたらあっというまにたどり着く。
最初ここに来たときは歩きにくいし、草が生い茂ってたりしてかなりつらかったが、今ではもう慣れたもんだね。
「着いたぞ、ここならどうだ?」
「十分ですー、では植えさせてもらいますねー」
ドライアドは歩きながら自らの手を胸元に入れると、何かを取り出す。
取り出すときに服をグイッて引っ張るなよ。思わず見ちゃうだろ!
凝視してしまったが何かの種っぽい、あんなのが胸元に収まってたんか?
それとも自分の体内から取り出したんだろうか?
広場の中央付近にそれを埋めると、ドライアドは立ち上がり杖を握りしめる。
声を掛けられる雰囲気じゃないので静かに見守ってよう。
やがてドライアドが杖で軽く地面を叩く。
すると種を植えたあたりから、ぴょこっと芽が地面から飛び出てきた。
「おおっ」
思わず感嘆の息をもらす。
そのまま様子を見ていると生えた芽はどんどん成長して若木になり、さらに大きくなっていき――
お……俺はこの光景を子供の頃に見た事がある!
超もふもふの生物が同じように、種からあっというまに大木に成長させていた!
なんてこった! あの超もふもふの正体はドライアドだったんだよ!?
でもこのドライアドはネコミミだ、つまりあのもこもこのバスも実はドライアドだったんだよ!?
そんな馬鹿な事を頭に巡らせている間にも、木はどんどん伸びて伸びまくって――
やがて、他の木より頭一つ……いや倍くらい大きくなった頃、成長が止まった。
他の木と比べると大きさもそうだが、何よりオーラが違う。
これはもう神木といってもいい貫禄が漂っている。
まぁ実際ドライアドという精霊の樹だし神木だな。
あとで許可をもらったら注連縄をつけよう、意味を聞いたらきっと喜んでくれるはず。
注連縄……神木……神……日本の木の神様の名前はなんだっけ?
はっきり思い出せないので、こっそり知識の強化を行う。
――ああ、これならいけるかな?
「終わりましたー」
「お疲れ様」「おつかれさん、これで管理ができるようになるのか?」
ねぎらいの言葉と共に聞いてみる。
「はいー、この地に根付いたのでこの森のことならあの樹を通して私に伝わりますのでー」
「ふーん、例えばどういう事がわかるんだ?」
「そうですねー。あら?」
ドライアドの表情に陰りが見えた。あれ? なんかやばい雰囲気が
「ご主人様は薪を作るとき、適当に大きそうな枝を切ってそれを薪にしてますね?」
やべぇ、なんか口調が変わってる。
「いや、薪がないと火が起こせないし生きるためには……」
「木だって生きてるんですよ? これからもっと成長するために伸ばした枝をご主人様は切ってるんですよ?」
「いや……その……」
「ご主人様?」
笑顔が超怖い。そういえばドライアドって自分の木を切り倒そうとすると、絞め殺したりするんだっけ……
「す、すみませんでした……」
「謝るのは私にじゃないですよね?」
「今まで雑に枝を勝手に切って、誠に申し訳ありませんでしたぁぁぁぁーーー!」
森中に響くような声を腹から出して、土下座して詫びる。
「これから私が切ってもいい枝や木を教えますからね?」
「はい! ご指導よろしくお願いします!」
「ははは、よかったじゃないかちゃんと管理してもらえそうで」
カラカラと笑うコアさん、くそっ他人事だと思って!
「コアさん」
「ん? なんだい?」
「コアさんはダンゴウサギ? を追いかける時、邪魔だからという理由で枝や根を切り飛ばして追いかけてますね?」
「いや、最短で追いかけないとウサギには追い付かないから……」
「そのためだけに、この子たちが大きくなるための枝や根を切ってるんですか? いつも食べてる木の実を付けてくれてる子たちを?」
「いや、それは……その……」
「どうなんですか?」
「……」
首だけ動かして様子を見ていると、コアさんも俺の横で正座して――
「いつも木の実を恵んでくれてるのに、勝手に枝や根を切って誠に申し訳ありませんでした」
素直に頭を下げる。なんていうかその姿も妙に品がある、内容はアレだが……
「以後気を付けてくださいね?」
「はい、精進します」
「ところでご主人様」
「はひ! なんでございましょうか!?」
いきなりこっちに話が飛んできて噛んじった。
「これで大体ご理解いただけたと思いますー」
「あ、ああ。十二分にわかったよ」
口調が元に戻った。許されたと思うのでとりあえず立ち上がる。
「なぁ、ドライアド」
「なんでしょうかー?」
「怒られた後に言うのもちょっと空気が悪いが、お前の名前についてなんだがな」
「は、はい!」
緊張からか身をビクッと振るわせるドライアド、ちょっとかわいい。
「この樹を見て思いついたんだがな、これだけ立派な樹は俺の元いた日本という故郷だと神木と言われて崇められる存在にすらなるんだ。そこでお前には日本の木の神の名前を送りたいと考えている、ここは日本じゃないから同名をつけても罰は当たらないと思うからな」
静かに聞き入ってくれている。少しためてから名前を告げる。
「お前の名前はククノチだ、受け取ってくれるか?」
「ククノチ、ククノチ、私はククノチ……」
目を閉じて何度も反芻する。そのまま胸に手を当てたまま心に刻み込んでいるように見える。
やがて、ゆっくり目を開ける。その目は今までと違う確かな覇気が宿っていた。
「ご主人様、ククノチの名ありがたく拝命させて頂きます。これより私はククノチと名乗ります、どうぞ何なりとご命令を」
ドライアド、いやククノチがこちらに跪く。
「これから改めてよろしくなククノチ」
「おめでとう、ククノチ」
「ありがとうございますー」
「それにしても大木の下で命名をするとはね、まるで告白してるようだったよ」
確かに、恋愛ゲームでも鉄板のシチュエーションだよなコレは。
まぁ、コアさんの場合はこれで焦る俺の姿を見たかったんだろうが、そうはいかない。
「なんだ? 羨ましかったのか?」
「少しね、まぁ私はフランクなほうがいいからあれで十分さ」
目を閉じ、手をプラプラさせて答えるコアさん。
「コアさんダンジョンモンスターになってからほんと楽しんでるよなー」
「体を動かすのがここまで楽しいとは思わなかったよ。今思い返せばなんでもっと早くやらなかったんだろうと後悔してるくらいさ」
「ウチのダンジョンのモットーはエンジョイ&エキサイティングだからな。俺ももっとハーレム生活エンジョイしたいし、これからはエキサイティングできる施設も作っていくぞ。だからククノチも生活を楽しめよ」
「はい! どうぞよろしくお願いしますー!」
ククノチも少しづつ馴染んできているようでなによりである。
shiba様からレビューを頂きました!
ありがとうございます!




