3-4 生き甲斐
「これで防衛エリアは一通り回って罠の説明も終わりだ」
「ほえー、罠がいっぱいですねー」
「さっきも言った通り人手不足だからな。その分を罠で補ってるんだよ」
まぁ、設備罠は設置と起動とその後の補充にDPが必要なようなので、置いておくだけならDPはかからないということが検証で判明した。
なのでついつい思いつくままに沢山設置してしまった。
「マスターはバラエティ番組の記憶から結構アイデアを思い付いたよね」
「コアさんもノリノリでアイデア出してたよな」
「ばらえてぃ? ですかー?」
「あー、すまん。2人だけで盛り上がってしまった。その辺りもいろいろ本とかで知ってもらうからな」
とりあえず先送りにして話を進めよう。
「それで、今まで見てもらった中で自分はこうしたいとか改善案があったら言ってくれ。まぁ、すぐにはでないだろうから思いついたらでいいぞ」
「あ、でしたら一つだけ宜しいでしょうかー?」
お、もう何かあるのか? ドライアドは髪をすくった後、その手をこちらに差し出すと小さな種のようなものが掌の上にのっていた。
「これを撒いてもいいでしょうかー?」
「これは……何かの種だな」
「そうですー。私が地面に流す魔力に反応して成長しますー」
「で、それをある程度操れるとか?」
「ですー」
実物を見てみないとわからないが、ぱっと思いつくだけでも足止めや壁、視界切りなどの用途が思いつく。それに何よりDPがいらない。
「後で実際に見せてもらうとして、俺は是非やってほしいと思うが、コアさんはどう思う?」
「ダンジョンの負担にもならないし私も特に異論はないよ」
「はいー」
ドライアドの能力を生かした防衛エリアの構造を考えるのはまた今度として、本題に入ろう。
「でだ、侵入者が来た時は防衛をしてもらうわけだけど、普段は別の仕事をしてもらいたいんだ」
「なんなりと命令してくださいー」
「じゃ、場所を移動するから2人とも着いてきてくれ」
防衛エリアからコアルームを経由して4畳半のキュウリ畑に入ると、小さいが実をつけたキュウリが数房育っている。
特に病気もなくようやくここまで来た、あと数日で収穫できる。超楽しみ!
「別の仕事ってのはこのキュウリ畑の管理と世話をしてもらいたいんだ」
「この子のお世話ですかー? キュウリってこの子のことなんですねー」
「正確にはキュウリだけじゃなくて今後いろいろ種類を増やしていくから、それぞれに適切な世話をしてほしいんだ」
俺の説明にコアさんが補足してくれた。
ドライアドは屈んでキュウリの葉っぱと実を手に取り、いろいろ観察している。
「マスターはこのキュウリの生態の知識とかをDPで手に入れてたけど、付け焼刃じゃなくてやっぱり専門家がほしいよねって話をしていたんだ」
「お前は植物と会話できるんだろ? 率直に言って今の状態はどんな感じかわかるか?」
「はいー、少し待っててください―」
屈んだまま葉っぱをなでている。多分会話をしているんだと思う。
「丁寧にお世話をされていて大きな間違いはありませんが、満点でもないですねー」
む、やっぱり付け焼刃の知識じゃ完璧にはいかなかったか。
「まず、ご飯の量がちょっと足りないって言ってますー」
「ご飯……肥料の事か?」
「多分それのことだと思いますー」
「ご飯が足りないのはダメだね。大減点だよマスター」
「コアさんは大食いキャラじゃないのにそこは大減点するんだ」
「栄養が足りないと味が落ちるじゃないか」
あー、そういう事ね。納得。
「後は土が少し合わないって言ってますー」
「好適土壌PHの事だな、農地エリアの土そのまんまだと完璧じゃなかったか」
「これはしょうがないね。植物じゃない私たちじゃ、ぴったり合わせる方が無理だよ」
うん、これは完璧にできるほうがおかしい。
「最後に光が足りないって言ってますー」
「え、光? 太陽光のことか? 一応、地球……キュウリの元の環境と大体同じ日照時間にしてたけど、もっと増やしても大丈夫ってことなのか?」
「その分お水を多めにあげれば大丈夫ですー」
流石にそれは予想外だったわ、ちろりとコアさんの方を見るとコアさんも感心した顔になっていた。
「なぁ、コアさん。やっぱり畑に関してはドライアドに一任したほうが絶対にいいよな?」
「そうだね、私も賛成だよ。そのほうが美味しい野菜が取れるよね」
「ドライアドに農地エリアの管理を移譲することってできるか?」
「管理ウィンドウからできるはずだよ。例えばボス部屋を任せた時に自分が戦いやすいように部屋を変えてもらうのさ」
本来の用途は多分そっちなんだろうが、よそはよそうちはうち。
管理ウィンドウを開いて設定していく。
「よし、管理権限の委譲ができた。使い方とかの説明はコアさんに任せてもいいか?」
「任されたよマスター。美味しい野菜のためにバッチリ指導してみせるよ」
二人で話していると、おずおずと手をあげるドライアドが視界に入る。
「あのー、コア……さん? 質問よろしいでしょうかー?」
「なにかな?」
「先ほどから”味が落ちる”とか”美味しい野菜”とか言ってますけど、私たちダンジョンモンスターにご飯はいらないはずですよねー?」
「そう、ダンジョンモンスターはDPを消費して生きるから本来食事は必要ない。でもね……」
ここでこぶしを握ってタメを作るコアさん。
「私はもう肉やカレーの美味さを知ってしまったから、もう食べずに過ごすなんて考えられない! それは人生……いや、妖狐生を十割損しているんだよ!」
十割って全部じゃねぇか。
ツッコミたかったが、力説してるコアさんにそれは無粋だろう。
「ダンジョンモンスターだからってずっと同じ場所でいつ来るかわからない侵入者をただ待ってるだけなんてダメだよ。今なら声を大にして言える、ダンジョンモンスターにも”生き甲斐”が必要だと!」
「あーうん、その意見には賛成だ。実はさっき本を召喚するって言ったのは生き甲斐というか趣味みたいなのを持ってもらいたいと思ったからだ」
ハーレム生活と言ったって、ただ異性に囲まれたいわけじゃない。
必要なのは潤いのある楽しい生活なんだよ!
社畜時代の時は毎日ただ生きてるだけだったし……
「最初は何となく停止したくなくて呼んだだけだけど、私に生き甲斐をくれたマスターには感謝しているよ」
「俺も今なら召喚されてよかったって思ってるぞ」
よばれた頃はほんとにひどかったが……今は少し憧れてたスローライフっぽい生活ができてきてるからな。
それに何よりこんな美女2人と生活できるのは、地球じゃとてもできなかっただろうし。
「だから君も早く生き甲斐を見つけるべきなんだよ、マスターは言えば大抵のものは出してくれるしね」
「DPの都合があるから何でもとはいかないけどな」
「はぁー、ありがとうございますー」
言ってることはわかるけど、理解が追いついていないような返事が返ってきた。
「そうそう、これはダンジョンモンスターになってわかった事なんだけどね。ちゃんと食事と睡眠を取ってたらダンジョンモンスターのDP消費は抑えられるみたいだよ」
「え!? そうなの!?」
「そうなんだよ、きっと本来ダンジョンモンスターって常に侵入者に備えてないといけないから、食事も睡眠もとらない代わりにDPで補ってたんじゃないかな?」
そういわれると納得できる部分はある。
でも結局飯はいるから、ポンポン召喚するわけにはいかないけど。
「だから君も今日から一緒にご飯を食べよう。きっと気に入るはずだよ」
「そういうことなら、私もいただきますー」
「それじゃ、いつも飯を食ってる森林エリアに移動するか。実はそこの資源管理も頼みたいと思っているんだ、着いてきてくれ」
「森林ですかー。少し楽しみですねー」
ずっと説明ばかりだが、これも早く慣れてもらうためだと割り切って終わらせてしまおう。
言葉の意味を教える傍ら、俺たちは農業エリアからコアルームを経由して森林エリアに入っていった。




