3-3 ネコミミドライアド爆誕!
「よし、召喚承認っと」
召喚ウィンドウから承認ボタンを押すとコアさんの時と同じように光の粒子が人型をかたどって集まっていく。
光が収まった時、召喚ウィンドウで設定した通りの目を閉じたケモミミ美女が立っていた。
彼女がゆっくり目を開けると、綺麗なエメラルドグリーンの瞳が見える。ネコミミをつけたからか、瞳孔は猫のようにやや細長い。
両目の焦点が徐々に合ってこちらを気が付いたようだ。
「貴方が私のご主人様ですかー?」
「うぉっ! 日本語でしゃべった!?」
コアさんの時は記憶を共有してたから、日本語で話してきても違和感がなかったが……
純粋なダンジョンモンスターとしては今回が初めてなので、最悪会話ができなかったり、異世界の言葉で話しかけられたらどうしようと思ってた。
だが、普通に日本語で話してきたので、安心半分拍子抜け半分といったところだ。
「え? あのー?」
「ほらマスター、彼女が困ってるじゃないか」
コアさんに話しかけられて我に返る。
「あ、ああ、スマン。俺がダンジョンマスターだ、よろしくな」
「私はコア、ここのダンジョンコアと意思を共有もしてるんだ。これからよろしく頼むよ」
「ご主人様にダンジョンコア様ですねー?」
「私の事は親しみを込めて”コアさん”って呼んでほしい。マスターも上下関係を気にするタイプじゃないからね」
あ、コアさんって愛称気に入ってくれてたんだ。ちょっと嬉しい。
「そうなのですかー?」
「私なんてよび出された直後にマスターの顔面を殴ったけど、お咎めはなかったよ」
「いやまぁ、あれは俺が全面的に悪かったから」
視線を外し、頬を掻いて答える。
「そういえば今度は襲い掛かったりしないのかい?」
「ええー!?」
ちょっと、ドン引きされてるじゃないですか。
初対面位は紳士でいたいんだから、そういうのやめてよ。
「コアさん俺の心が折れるからそろそろいじるのやめてもらえないですかね?」
「ほらね、こんな感じでいじっても威圧したりしない、いいマスターだよ。だから自由奔放に過ごして大丈夫だから安心したまえ」
「あーうん、やることやってくれたら好きに過ごしていいから。まだ娯楽はほとんどないけどな」
「は、はぁ……」
困ったように杖をぎゅっと握るドライアド。
タレ目なのもあって、ちょっと嗜虐欲がわくがここはぐっと我慢する。
「それで、名前とかあるのか?」
「あ、いえー。名前はありませんー」
「名前はないのか、なら何か好きに名乗ったりしていいぞ。それとも俺がつけたほうが――」
「それならご主人様に付けて頂きたいです!」
「お、おう……」
普段の間延びした声から一転、食い気味に詰められてちょっと面食らってしまった。
距離を詰められたので、改めてドライアドをじっくり見てみる。
コアさんとベクトルは違うが、誰から見ても間違いなく美女にカテゴライズされる容姿だろう。
「コアさん、何も言わず彼女の横に立ってくれないかな?」
「……? 別に構わないけど何なんだい?」
コアさんがドライアドの横に立ったタイミングに合わせて、俺は顔の前に指で四角を作って少し距離を取る。
その四角の中に映るのは――
方や凛とした佇まいで腕を組む、吊り目でファンタジー和装に身を包んだ狐耳の金髪美女。
一方ふわふわの緑髪をなびかせながら、すこし不安そうなタレ目でこちらを見るネコミミ美女。
「素晴らしい……」
思わず両目から涙がこぼれる。
この2人のツーショットなら例え5万円の撮影会でも東京ドームを満員御礼にして、コミケならカメコで台風の渦ができるだろう。
そして二人をはべらしてる俺は、きっと嫉妬の視線というナイフで刺される。
一人一人の力は弱くても万単位の嫉妬のナイフをうけたらきっと呪い殺される。もう地球には戻れないな。
もうあんまり戻る気もないけど。
「え!? なんで泣くんですかー!?」
「マスターはこういう所があるけど、これさえ我慢できればいいマスターだから」
困惑するドライアドの肩に手を置いて、フォローになってないフォローを入れるコアさん。
「マスター、そろそろ満足したかな?」
「うん、堪能した」
「じゃあ、彼女の願いも聞いてあげなよ」
「え? お願いですかー?」
「ああうん、俺の方から話を切ったのは悪かったがまずは名前の話に戻ろう。とりあえず俺が付けるほうがいいんだな?」
「お願いしますー」
「じゃあ、考えておく。それまでは種族名で呼ぶことにするぞ」
「畏まりました。ご主人様」
ご主人様……いい響きだ。
「それでご主人様、私はどこを守ればよろしいのでしょうかー?」
「その話は後でするとして、まずはいくつか質問をさせてほしい」
ダンジョンモンスターが召喚された時、どれくらいの知識があるのか確認しておきたい。
俺はコアルームに置いてあったタオルを手に取ると彼女の前に見せる。
「これの名前と用途はわかるか? わからない場合はわからないでいい」
「えーっと、わかりませんー」
ふむ、どうやらコアさんのように記憶の共有はされてはいないようだ。
「これはタオルといって、用途は主に物や体を拭いたりするときに使う」
「あー、これがタオルという物なんですねー」
「ん? タオルという単語は知ってるのか?」
「はいー、単語と実物が結びついていない感じですー」
それなら実物を見せて用途を教えればすぐに覚えてくれそうかな。
次に紙とペンを召喚して「たおる」「タオル」「towel」と書いて彼女に見せる。
「これが読めるか?」
「申し訳ありません。わかりませんー」
「ただの確認だから謝らなくていいぞ。コアさんは当然読めるよな?」
「うん、私は大丈夫。ひらがなとカタカナと英語でタオルって書いてあるんだろ?」
「正解、いずれ本を召喚するから文字は覚えてほしい。日本語には漢字もあるけど、ちゃんと教えるから安心してくれ」
「うう、がんばりますー」
まぁ、日常会話は問題なさそうなので、しばらく暮らしてれば自然に覚えてくれるだろ。
「それじゃ防衛エリアを案内しようか、コアさんもついてきてくれ」
「はいー」「わかったよ」
コアルームから防衛エリアは隣りなので、ポータルをくぐればすぐ到着する。
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「ほえー、ここが私が守る場所なのですねー?」
防衛エリアに入ったとたん、ドライアドが感嘆の声をあげる。
「まぁ、”私が”というより侵入者が来た場合は、俺たち3人とワナでどうにかするんだが」
「え!? まさかマスターも戦うんですかー!?」
「人手不足だからな、こちらは全力で迎撃しなきゃならん」
「マスターは後衛で基本安全な位置から、狙撃と指揮を取ってもらう予定だよ」
ゴブリンの襲撃の後、防衛エリアの方もコアさんとの相談の元、いろいろ改良を加えてある。
通路を伸ばしたり分かれ道をつけたり、手が空いてる時にコアさんと幻術とワナを組み合わせたものを試作したり、高低差をつけたりしている。
ただ、幻術との組み合わせはコアさんがいることが前提となってしまったため、要所要所にスポーンポイントを隠して設置してある。
スポーンポイントは設備の一つでコアルームにいるダンジョンモンスター(俺含む)をスポーンポイントに転送したり、逆にコアルームに送り返すことができる。
「それでお前の役目は主に回復と支援魔法を担当してもらう事になる、これから防衛エリアを一通り回って罠とかを説明するから、何か意見があれば遠慮なくいってくれ」
「わかりましたー」
それから俺たちは雑談を交えながら、防衛エリアを3人で歩き始めた。




