3-1 新スキル習得
勢いのついた石が空を舞う。
石は軽い放物線を描き、河原に詰まれた石の塔に当たり小気味よい音を鳴らす。
「おー、ちゃんと当たるもんだな」
「威力はともかく、命中率はさすがだね」
目算で約20m離れたところから思わずつぶやく、飛んだ石は俺がゴブリンのマントで作ったスリングで飛ばしたものだ。
これはゴブリンの死体で獲得したDPを使って、俺につけた「狙撃」の能力によるものである。
この能力はナビゲートされたかのように、力加減とか打ち出す方向がわかるというものだった。
そもそもなぜ狙撃スキルと取ろうと思い至ったのかは、ゴブリン達の来襲で自分は戦闘面では役立たずだという事を思い知ったからである。
妖狐コアさんは罠でサポートしてほしいと言ってくれたが、彼女はダンジョンコアと意思を共有している。
だから、その気になれば妖狐コアさんは的確なタイミングで、罠を発動させることができたはず。
結局の所、気を使ってくれたわけだ。
まぁ、俺はダンジョンマスターなのでダンジョンに守られるというのは間違ってはいない。
間違ってはいないんだけど此処に来てからいろいろなこともあったし、早い話愛着がわいてきたので自分が住む所位は自分で守りたいというただの我儘だ。
――というのは建前で、刀で戦うコアさんがかっこよかったので俺も隣りで戦いたかったというのが本音である。
最もコアさんは刀がメイン武器の前衛なので、バランスとして自分は後衛として遠距離武器を扱う事に決めた。
なので「コアさんの背中の守る事になる」が正しい。
「よし、次の実験はこれだ」
石を拾って右手で軽く握り、「石の塔に向かって時速20キロで飛ぶ」イメージを込めた魔力を流し込んでいく。
徐々に石がベクトルを持ってきたのを感じたので、手を離すと石が塔に向かって俺の手から離れて飛んで行こうとする。
ただ、込めた魔力が少ないのか速度は大分遅く、塔に着く前に石は突然失速して地面に落ちてしまった。
前々から「魔力は意思を現実に引き出す力」と聞いてから、物体に魔力と言う名の意思を込めたらどうなるかを試してみたかった。
ただ、以前の俺だと魔力があまり強くないので、魔力が足りないのかできないのかよくわからなかった。
そこで狙撃スキルを取得した際に俺の基礎能力の底上げを施した。
今や俺の基礎体力は特殊部隊の精鋭並に上がり、魔力はバレーボールくらいの火の玉を1発出せるくらいまでになった。
他にも動体視力等、戦闘に役立ちそうな箇所を強化してある。
そして強化された魔力で試したところ、結果はちゃんと飛んでくれたというわけだ。
「魔力を上げてもちゃんと制御できているようだね」
後ろで見ていたコアさんが褒めてくれた。やったぜ!
ちなみにコアさんは変な先入観があるからなのか、そこらへんに落ちてる石に魔力を込める事はできないらしい。
ただ、自分の装備として持っている刀には魔力を込めて強化はできるようだ。
「で、最後はこれだ」
石を拾って魔力を込めた後、今度はスリングを使って石を飛ばす。
ただし、先ほど命中させた石の塔をわざと左側にはずすように投げている。
石も先ほどと同じように放物線を描……こうとして、風も吹いてないのに少しづつ右方向のベクトルが追加されて石の塔にぶつかっていった。
今のは明らかに物理法則を無視した動きをしている!
「よし! 命中!」
「今のはどうやったんだい?」
「一定の高度になったら、石の塔の方に方向修正するようにしてみたんだ」
魔力を推進剤として使うとあっという間に込めた魔力がなくなってしまうので、特定の時にちょっとだけ魔力を使う形にして長持ちさせてみた。
但し、込めた魔力は徐々に抜けて行ってしまうようなので、魔力を込めたらすぐに投げないと方向修正をしてくれない。
ただ、これと狙撃と監視ウィンドウを組み合わせると、例え壁裏にいる敵にも命中させる事が出来る。
投石も熟練すればダメージが与えられるのだろうが、本番ではゴブリンからうば……迷惑料として頂いた弓矢を使う予定である。
最終的には銃に持ち替えるつもりだが、銃弾をDPで出そうとすると数日分の稼ぎが吹っ飛ぶ。
銃を使うのはまだまだ先だな。
尚コアさんの方も耐久力を中心に強化をしてある。
最初は鎧とかを提案したんだが、それより耐久力を上げてほしいと言われたので言うとおりに上げておいた。
しっかり耐久力を上げておけば肉が裂かれるくらいの攻撃を受けても、皮膚が切れるくらいの軽傷で済むからという事らしい。
言われてみれば俺が耐久力を上げた時、草や葉っぱからの切り傷が減っていたなぁ。
ただまぁ、その領域までにたどり着くまでに必要なDPは、一体どれくらいかかるのか……
そして新スキルとして「解体」をつけてもらう。
というよりコアさんから、ロバとゴブリンを解体するためにほしいと言われたので覚えてもらった。
コアさんはゴブリンを解体した後、焼いて味見をしていたがイマイチだったようで、一口かじって残り分をこっそり迷宮の胃袋に捨てていた。
食べ物を粗末にしたわけではないので、まぁよしとしよう。
2日前は干し肉にしたゴブリン肉の味見をしていたがこれまた不評だったようで、一緒に干してあった残りの干し肉を全部迷宮の胃袋の床に叩きつけてDPにしていた。
干し肉はドプンという効果音が聞こえるかのように、胃袋の床に飲まれていった。
そして今日の昼飯では、イマウトルニと一緒にゴブリンの肉を土鍋で煮込んで味見をしていた。
しかし、これでも美味しくなかったようで、土鍋ごと迷宮の胃袋の床に投げ捨ててDPにしてしまった。
その後、冷静になってから土鍋をDPに変換してしまった事に気が付いたようだ。
全てを見ていた俺に、猫なで声……いや、狐なで声で俺に土鍋をもう一度出してほしいとねだってきた。
しっぽねこじゃらしの刑を1時間執行した後に、土鍋を再召喚してやった。
さて、執行後にぐったりしているコアさんに向かって、前々から考えていた事を話そう。
「俺やコアさんの強化はしばらくこれでいいとして、そろそろ新しく召喚をして仲間を増やしたいんだがどう思う?」
「……DPはロバを変換したものや貯めた分をがあるからいいとして、労働力にはまだ余裕があると思うけど、マスターが召喚したいと思うなら私には反対する理由はないよ」
理由としては大きく分けて2つある。
1つは戦闘面で衛生兵……ファンタジー風に言えばヒーラーがほしいという事。
仮に俺かコアさんのどちらかが大ケガを負った場合、DPで出した回復薬を使う事になるだろうが、当然消耗品なので、できれば回復魔法に頼りたいのが一つ。
また、強化によるDP消費が大きくなってきたので、それなら数を増やしたいというのもある。
2つ目は農業系のスペシャリストがほしいという事。
これは俺とコアさんに新スキルを付けた時に気が付いたのだが、新しくスキルや知識を付けると他のスキル取得にかかるコストが増えるという事がわかった。
そうなると一応最終目標としている時を止める能力とか次元移動する能力等、ただでさえべらぼうに必要DPが高いスキル群の要求コストがさらに跳ね上がってしまう。
それなら、数を増やして汎用スキルは分散させて取得させたほうがいいという結論に落ち着いた。
「うん、大体わかったよ。でももう一つ大事な理由があるよね?」
コアさんは身を起こしてから、人差し指をぴっと立てて微笑む。
大事な理由? 一体なんだろう?
「ハーレム要員を増やしたいから、だろう?」
「……ハイ、おっしゃるとおりでございます」
胸に手を当てて考えなくても、間違いなくその理由もある。
「素直で宜しい、まぁ私には独占欲とかないから安心して召喚していいよ。それに仲間が増えるというのは私にとっても喜ばしいことだからね」
コアさんにあるのは未知の味に対する食欲だけっすからね。
合意も取れた事だしさっそく召喚ウィンドウを開いて準備するか。