2-EX3 ダンゴウサギの生存術
今回は食料として召喚されたダンゴウサギ視点での話となります。
彼らの日常(?)をお楽しみください。
僕はダンゴウサギである。名前など持っていない。
気が付いた時には仲間たちと一緒に草が生い茂る森に居たんだ。
数日はここが天国かと思ったよ、なんたってご飯がたくさんあるし何より天敵もいない。
いや、正確には1匹いる。鉈をもって叫びながら駆け回る僕より大きいニンゲンっていう生物が時々出没していたんだ。
仲間の中にはそいつに捕まってしっぽを取られた奴も多い、まぁでも僕は天才ですから? 今まで1度もしっぽを取られた事はない。これからも華麗に逃げ切ってやりますよ。
そしてダンゴウサギはしっぽの大きさがステータスの一つになっているから、仲間の中で一番大きいしっぽを持つ僕は何時も羨望の的なのさ。
さぁ、今日も数匹の仲間をひきつれて草を食べに行こう!
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「アニキ! 今日もしっぽがでっかいウサ!」
「そこにシビれる! あこがれるウサ!」
一緒に連れてきた仲間がしきりに僕を持ち上げる。いつもの事だけど気分は悪くない。
こいつらには隠れるコツを教える代わりに万が一の時には囮になってもらう約束をしてあるんだ。
このでっかいしっぽを取られないためには、こういう裏工作も必要な時もあるのさ。
これで今日もしっぽを見せびらかすことができるだろう。仲間とたわいない話をしながら僕は安心して草を食べる。この辺の草はなかなかいける、今度他の仲間にも教えて……
……ぞわっ!
「!!」
ビクッっと体が震える! 何かが正面からこちらに向かってくる……そんな予感がする。
「何かが……くるっ!」
「えっ!?」
「大変ウサ! 早く逃げるウサ!」
慌てて逆方向に逃げようとする仲間を急いで止める。
「走って逃げると草が揺れたり足跡が残って近くに居るのがばれるからダメ。こういう時は近くの木の裏に静かに素早く隠れるんだ」
「なんという冷静で的確な判断力ウサ!」
「はやく隠れるウサ」
僕たちは手前にあった大きい木の裏にぴったり身をよせて様子を窺う。
それは恐ろしい殺気を放ってこちらに向かってきている!
……トクン……トクン……ドクン……ドクン!
緊張で自分の心音が高鳴ってくるのを感じる、そっと木の陰から様子を見るといつもと違う狐の耳が生えてるニンゲン? がこちらに近づいてきている。
「あいつが通り過ぎるタイミングに合わせて木の裏を回って身を隠すんだ」
小声で仲間に指示を出すとコクコク頷いて了解の意を示す。
再び身を隠して物音から大体の位置を割り出す、タイミングは……今!
仲間に合図すると僕たちは音に合わせて、あいつから見えないようにそっと木を回る。
そいつは僕たちに気が付かずにそのまま通り過ぎる。さっきと同じように様子を見ると狐耳のニンゲンはそのまま行ってしまった。
「ふぅ……」
思わず胸をなでおろす、どうやら仲間たちを囮にしなくても大丈夫そうだね。
そう思ったのもつかの間……
……ゾクゥ!!
「!?」
突然、そう本当に突然背筋が凍り付く感覚に襲われる。見られている!? まさか……戻ってきた!?
もう一度そっと狐耳が行った方向を見るがやっぱり誰もいない。でもまだ見られている感覚がある。
あ、そうか。これは仲間の視線だね? 始めて木の裏に隠れてやり過ごしたから緊張がほどけていないんだね?
僕は仲間たちを安心させるためにゆっくり振り向く、そこに居たのは仲間たち……じゃなくて目を輝かせた狐耳のニンゲン。
「――!?」
声にならない悲鳴を上げて、まさに脱兎の如く逃げようと思いっきり足を蹴りだす。
でもすでに手遅れで僕はあっさり捕まってしまった。そのまま首を掴まれて持ち上げられる。
……苦しい、でも一緒にいた仲間はどこに行ったんだろう? まさか……もうこのニンゲンに殺されちゃったのかな? 視線だけで辺りを見回すと少し離れたところで一目散に逃げる仲間を見つけた!
う、裏切り者! お前ら囮になってくれるんじゃなかったの!? お前らダンゴウサギじゃない! 談合詐欺だ!
そんなことを思っている間にも狐耳のニンゲンはこちらを凝視し続けている。なんかヨダレを垂らしてるし! ”ステーキ……ヤキニク……スキヤキ……”とかボソボソ言ってる! 怖い!
そ、そうか! このニンゲンは僕を凝視し続けることで自身の内なる食欲を増幅させ続けてるんだ。きっともうあのニンゲンには僕の事なんかただのお肉にしか見えてないんだ!
僕にとっては永遠かと思える時間が過ぎた後、狐耳のニンゲンは刃物を取り出して僕の胸に当てる。ああ、ついに殺されちゃうんだ……
観念して目を閉じる。なんだか身が軽くなったような気がする、これが死ぬという事なんだろうか? グッバイ仲間たち、来世では追いかける側になって裏切った奴を食ってやるんだ……
♦
「……! ……!」
死んだはずなのに声が聞こえる。つまりこの声はきっと神様の声に違いない、だとしたらチート能力をもらって僕を置いて逃げた仲間を追いかけるハンターに転生するんだ。
そんな期待をしながらゆっくり目を開けると、見えてきたのは見知った仲間の顔。そっか、さっきの声は仲間の声だったんだ……
あれ? 生きてる?
ゆっくり身を起こすと体がすごく軽く感じる。嫌な予感を感じて自分の後ろを見てみると、大きかったしっぽがなくなっていた。
「なくなっちゃった……」
呆然とつぶやく、初めての敗北だった。
「まぁ、こんな日もあるウサ!」
「きちんと食べればまたすぐ大きくなるウサ!」
仲間たちが励ましてくれた。
「そもそも、なんで僕を置いて逃げたんだ!」
「逃げてないウサ! あの狐耳のニンゲンは突然兄貴の後ろに現れたウサ!」
「僕たちがしっぽ振って誘惑しても、じっとアニキのしっぽだけガン見してたウサ!」
そうだったのか、君たちは裏切ってなかったんだね。それなのに僕は勝手に仲間たちを恨んでしまった。
3匹でひしっと抱きしめあう。
「疑ってごめん! 次はあの狐耳のニンゲンからも逃げ切ってみせるから!」
「「僕たちももっとうまく隠れられるように特訓するウサ!」」
僕たちはあの狐耳のニンゲンから逃げきる決意を誓い合ったのだ!
……ぞわっ!
嫌な予感を感じて顔を上げる。
居るし! 木の陰から目を輝かせてずっとこちらを凝視してる狐耳のニンゲンが!
「ギャアアアアァァ!?」
「ア、アニキ!?」
「待ってウサ! 置いてかないでほしいウサ!」
そして今日も森林エリアで鬼ごっこが開催されるのだった。
頑張れダンゴウサギ! 決して勝てないけど負けるなダンゴウサギ!
今回の話はdead by daylightというゲームを知っているとよりお楽しみいただけます。
知らなくてもわかるように書いたつもりですが、もしわからない箇所があればご連絡ください。
尚、狐耳の人間が突然現れたのは幻術を解いたからです、決して祟りではありません。
本編の方も半分以上できましたので、近日中に投稿できると思います。